困惑と決心
「おはよう、ウエンディ。」
「おはよう、シエル。」
気まずい朝。テーブルにはシエルお手製の朝食が並ぶが、お互い手を付けないまま時間だけが過ぎた。
「あの」
「あの」
声が重なる。
「あのね、ウエンディ。僕一晩考えたんだけどね。ごめんね。やっぱり、僕あの人が好きなんだ。でも、ウエンディの気持ちに気が付かなくてごめんね。そんなに僕のこと思ってくれているなんて知らなかったよ。」
「…。うん、私こそ、勝手にごめんね。あーあ、こんなことならもっと早く気持ち伝えておけば良かった。そうしたら、ワンチャンあったのになぁ。」
「僕のこと好きなってくれてありがとう。」
「うん…。でも気持ち伝えられてスッキリした。後は家で思いっきり泣くよ。」
「…。」
それから重苦しい朝食が始まり始終2人は一言も話さなかった。ご飯が終わりウエンディは荷物をまとめた。
「じゃあ、帰るね。」
「うん、さよなら。」
玄関を出るウエンディ。挨拶の後に彼女の周りにゴオと風が吹き、その瞬間幼なじみの姿が消えた。
「…。さよなら、ね。」
なんだか切ない。家の中はガランとしてしまった。師匠もそうそうに鼻を鳴らして出て行ってしまったのだ。
「…。」
シエルもなんだか悲しくなってしまった。
「…。どうしたの?」
ユウナさんが心配そうに尋ねた。
「あ、ごめん。」
クレープを持つ手が止っていたようだった。
「何か悩み事ですか?」
「…。何でも無いよ。」
無理に笑顔を作る。
「…。遠慮しないで話して下さい。こう見えてもお悩み相談はプロですわ。」
「…。実はね…。」
幼なじみに告白されたこと、それを断ったこと、ずっと好きでいてくれた幼なじみが泣いてしまったことを話した。
「…。その方、同情しますわ。辛かったでしょうね。同じ女性として、思いが叶わない、どれだけ辛かったでしょうね。…。」
ユウナさんは言葉少なめに俯いてしまった。
「うん。」
「複雑です。私もシエル様を譲る気はありませんが、複雑です。」
お悩み相談のプロも悩んでしまった。
「少し歩きましょう。」
「ええ。」
いつもの公園を後にして街へ下る。
「ユウナ様っ。」
通りの向こうから、おかっぱ従者が登場。
「あ、ディエン。」
「ユウナ様、げっ、お前も一緒か。」
「ディエン、こら、なんて失礼なことを。」
早速叱られる小女。身なりは前と違って戦士というより侍女という格好だが、腰に物騒な物、ショートソードを下げている。ヒラヒラの裾のある白い袖無し女性用チュニック。きゅっと締まった身体に良くあうが、そのショートソードで全てが台無しだった。何を切るつもりだろう。
「まあ、まあ、ユウナさん。ディエンさんでしたか、お久しぶりですね。」
「オヒサシブリデス。」
あからさまな敵意むき出し棒読み挨拶だった。
「それより、ユウナ様、お早くお戻り下さいませ。夕刻の祈りの時間にございます。」
「あら、もうそんな時間?」
「お、送りますよ。」
「お願いします、シエル様。」
「ケッコウデス。」
2人の女性の声が重なった。帰り道、ユウナとシエルは睦まじそうに並んだ。その側を面白くなさそうに、ピョコピョコ動き回るおかっぱ。何とか邪魔しようとしているようだ。
「それで、シエル様…。」
「ええ、ユウナさん…。」
つけいる隙が無い2人に、ぶすくれる従者。細い一本道に出た。ここを過ぎれば、教会に着く。人通りは少ないので、3人の影だけがゆれた。
「もう夕方ですね。」
「ふふふ。」
幸せそうな2人とブスクレ従者。あと少しで今日のデートも終わり。ふう、とシエルが思ったその時、シュッと不吉な音が響き渡った。




