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傷心と純心

 「ただいまー」

 弾んだ声。

 「…。」

 「ただいま。ウエンディ?ウエンディ居るの?」

 部屋は真っ暗でランプも付いていない。

 「ウエンディ?、師匠?」

 何かに蹴躓く。

 「うわっ。」

 もこもことした物体。

 「光あれ。」

 部屋中の魔法ランプに不滅の灯が灯る。

 「うわっ。」

 蹴躓いたのは師匠。

 「この馬鹿弟子が。」

 「すっ、すみません。ところでウエンディは居ますか。」

 慌てて詫びながら、幼なじみの事を尋ねる。

 「自分で確かめてみぃ。」

 軽蔑するような一瞥を投げてプイッと向こうへ行ってしまった。

 「なんだい、あれ。」

 楽しい気分に水を差されて些か勘に障った魔法使い、しかしともかく幼なじみを探すことにした。

 「ウエンディ、どこ?」

 あちこち扉を開けたが居なかった。

 「ウエンディ?」

 自室の扉を開けると、黒い塊が…

 「わっ」

 光を付けると、紛れもなくそれは幼なじみだった。

 「どう…したの?」

 ギギギギ…

 首だけが振り返る。暗い顔。

 「ぎゃっ」

 思わず叫び声が出るもやし野郎。

 「びっくりさせないでよ、どうしたの。あー、心臓がばくばくいってるよ。」

 「…。」

 騒ぐもやしと対称的に、何も喋らない幼なじみ。

 「ね、どうしたのさ。」

 その目からは水が出ている。流石に慌てたモヤシ野郎、幼なじみの側に寄り声を掛ける。

 「ねぇ、ウエンディ、何かあったの?」

 しかし彼女はすっと身を退け、

 「うあーん。」

 大声で泣き声を上げた。

 「ね、ね、どうしたのさ。」

 「うあーん、うあーん」

 シエルはともかく近寄ろうとするが彼女は更に身を退けた。

 「ね、本当に、何かあったの?」

 「シ、エル…、好きな人がいるの?に、人間の女の人?ぐすっ、ぐすっ。」

 予想もしない質問にシエルも言葉を失う。

 「…、なんで、どこで…。」

 「ご、ごめんね、ぐすっ、風の魔法で、シエル、が、何処に行ったか探しているうちに、ぐすっ、私見ちゃったの。」

 「…、そう。」

 「勝手に見ちゃって、ぐすっ、ごめん。でも、でも、うあーん。」

 再び火が付いたように泣き出した。

 「ウエンディ、隠しててごめんね。ついこの間、知り合った人なんだ。紹介できなかったね。うん、そうだよ、彼女は人間だ。」

 正直に話すことにした。

 「シ、エル、相手は、シエルが魔法使いだってこと知っているの?」

 「ううん、知らないよ。」

 「えっ、知らないで、付き合っているの?」

 「いつか知らせるつもりだったのさ。」

 それは本当だ。いつかは必ず自分の秘密を打ち明けるつもりだ。

 「やだやだ、シエル絶対やだ。私、シエルがずーと好きだったの。小さいときから。絶対結婚するって、決めていたの。そ、それなのに…ぐすっ、あんなポッと出のモブキャラに…、納得できない。」

 「…。」

 泣きじゃくる幼なじみに何も言葉が出ない。

 「うあーん、うあーん。」

 「…。ねえ、ウエンディ、そんなに僕のことが好きだったの?」

 ともかく優しく声を掛ける。 

 「っ?」

 「そうなの?」

 「…。う、うん。私、シエルの事がずーと好きだったの。ぐすっ。今もよ。初め会った5歳ぐらいの時から。は、花輪おぼえているかしら。初めて編んだの。不格好だったでしょ…。それを、ぐすっ、笑顔で、笑顔で、受け取ってくれたの。シエル…。そ、それからよ、けっ結婚を考えたわ。ぐすっ。だんだん大きくなって、それでも変わらなかったわ。私の心。ずーと、ずーと、よ。その内ご両親が亡くなって、引き籠もるようになっても、何度も会いに出たわ。ここ最近は殆ど会えなかったけどね…。」

 「…。」

 さめざめと泣く小女にまた言葉を失なった。

 「で、でも、ぐすっ、し、仕方無いわね。シ、シエルが選んだ人だもの、きっ、きっといい人よ。わ、私、今晩帰るね、昨日泊めてくれてありがとう。」

 のっそりと起き上がろうとする魔女。

 「…。待って。ウエンディ。」

 「えっ?」

 引き留められて驚く魔女。

 「それほど、思われて、気が付かなくて…。ごめんね。ウエンディ、一寸一晩考えさせて。今日は遅いから泊っていってよ。」

 普通なら一刻も早くこの男の前から居なくなりたいはずだが、このときは妙に泊る気になった。

 「シ、シエル?」

 魔法使いの表情からは何も読み取れなかった。

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