魔法使いの手料理と神の僕
「さぁ、できたわ。熱いから気を付けてね。」
「…。」
聖女の従者は言葉を失っていた。テーブルの上にはキラキラした料理が沢山並べられていた。
「びっくりしたのよ、シエル様が殆ど作って下さったの。手際がとって良いわ。」
ラザニア、鮭のムニエル、ポテトサラダ、何種類かの果物、絞りたてのジュースもあった。
「…。」
メニュー自体は普段宿舎で作られている物からは大きく逸脱していない。しかし何度か我が主の手料理を食べたことがある身としては、明らかにクソ野郎の手が入ったことが理解出来た。
しかも料理は上手なようだ。勿論我が主の手料理も決して不味くはない。だが、明らかに形だけはクソ野郎の方が整っていた。
食べるべきか、食べざるべきか…
意地でも食べないか…
ぐぅー
くそ私の腹め、なんでこんな時に。
「食欲が無いのかしら…。」
心配そうな我が主。
ぐぅー
くそっ
ぱくぱく、がつがつ、むしゃむしゃっ
「食べてくれた。良かったわー。」
くそっ、くそっ、不味いぞ、不味いぞ、腹にしみるほど不味いんだからなっ
くそっ、旨い、くそ、
「くぅー」
褐色従者がジュースを飲み終えたところで、魔法使いが口が開いた。
「初めましてかな。シエルと言います。この前はすまなかった。傷は大丈夫かい?」
顔をやや背けながら従者は一瞥だけくれた。我が主からシエルなる人物は自分より年上だと聞いている。この国では年長者は敬われる。年長者への敬意については神殿でも厳しく指導されているのだ。
でも…、許せん。
「オミマイアリガトウゴザイマス。キズノホウハヘイキデス。」
無表情で答える。
「こらっ、ディエン。」
主の叱責が飛んだ。ビクッと体を震わせて、従者は俯いた。
「ごめんなさいね。いつもはこんなに難しい子じゃ無いのよ。」
「いいですよ、僕もやり過ぎたのですから。」
そんなことじゃネー。 私はこのもやし男が気にくわないんだ。
「ではディエン、もう寝るのよ。」
主が立ち上がった。
「えっ、ユウナ様、どちらへ行かれるのですか。」
従者は思わず声を掛ける。
「シエル様をお送りするのよ。」
「どこまでですか。」
「さっきシエル様と相談したんだけど、私は今日一日ここに居るわ。シエル様はデイエンの食事が終わったら帰ると仰ったの。」
意外、と従者は思った。そのまま二人っきりになると思ったのに。
「またね、ディエンさん。」
もやし男が自分の名前を呼ぶ。私の名前を気安く呼ぶな。
「じゃあ、シエル様、参りましょう。」
我が主に促されて扉を出て行く二人。
「あっ」
従者が声を掛ける前に二人の姿は扉の向こうに消えた。
「じゃあ、お気を付けて帰って下さいね。」
神殿の庭を越えての門の所まで来ると彼女はシエルを送り出した。
「ええ、大丈夫です。今日はありがとう御座いました。神殿の宿舎に入るなんて無いことですから。」
男性がそれに応じる。
「あの、あの、次はいつ会いましょうか。」
「えっ、あ、そうですね。何時にしましょうか。」
照れながらのユウナさん、可愛いー
「そうですね、明日、明日はどうですか。」
「あっ、明日は神殿の奉仕作業でして、午後からなら大丈夫かと。」
「分かりました、何時頃が良いでしょう。」
「15時なら。」
「分かりました。迎えに来ますよ。神殿の…、ここで待ってます。」
「分かりました。直ぐ参ります。」
一瞬の間。次の瞬間、男の手が伸び、軽く頬に口づけがなされた。
「…ほわぁー。」
赤くなる彼女。
「それでは。」
「また。」
彼女は男の姿が見えなくなるまで立ちながら今のことを思い返していた。




