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第六話 迷惑な後輩⑤

 翌週、俺は芝原を迎えに行くために機材物資運搬部門を訪ねていた。

 元々チーフの鴇田からは許可を得ていたが、流石に直接挨拶に行く。


「鴇田さん、すみませんが芝原を数日借りていきますね」


 鴇田は土木作業員がよく着るような上下のつなぎに身を包み込んだ筋肉質な男だ。明らかにデスクワークが似合わないこの男がチーフというのはうちの会社の七不思議のひとつだと言われている。

 興味がないから他の六つを何一つ知らんが、芝原が言うには俺が半分くらいらしい。俺はいつから七不思議の権化になっていたんだか。


「おうよ。うるせえが仕事は早いやつだからな。今回は貸しにしとくぞ」


 鴇田は薄れてきた頭部を撫でながら、俺にそう言う。

 金髪侍の後輩は仕事ができる。それは疑いようのない事実だ。


 他者との距離感に長けており、人を見る目があるため対人トラブルが少ない。更に肉体労も可能で運転もできる。鴇田が彼を気に入っている特筆すべき点としては何でもすぐノリで引き受ける後輩気質にもある。

 ようは使い勝手がいいってことだ。


 俺は深々と頭を下げる。


「本当に助かります。もう数を数えていないのですが、うちに行きたいと五月蠅くて五月蠅くて」


 芝原の状況を知っている鴇田は、昨日のやり取りを聞いた後に苦笑しながら肩をすくめた。


「最後のお願いか。小鳥遊も優しいな」


「自分でもそう思いますよ。ただ、その皺寄せが今回鴇田さんに行ってしまったわけですが」


 正直面倒だったという言い訳は口に出せないし、鴇田はそれをわかっているうえでの発言のようだ。


「構わねえよ。俺からしたらまず今回決まったデスゲームを無事に終わらせる。そんで打ち上げで旨い酒を飲めりゃ文句はねえよ」


 責任を取らされるのは各部門のチーフであり、物資や参加者などを運搬して直接的にはゲームを運営しないこの鴇田とて例外ではない。


「いつか因果応報で死ぬんだろうが、せめて娘が結婚して家を出てくまでは五体満足で迎えたいわけよ」


 鴇田には二人の娘がいて、絶賛反抗期中らしい。

 その二人が結婚するということはまだ数年は最低でも必要だろう。


「そのためにお前に協力するのは必要なことだろ。ということで今度また飲みにでも付き合えよ」


「何がということかはわかりませんが、わかりましたよ。そんなに反抗期が辛いんですか?」


 つい先日も仕事終わりに突然ブースに乗り込み、飲みに誘われたばかりだ。

 そこではただ只管に愚痴という名の娘自慢が始まった。何故俺を誘うんだ、という気持ちが強いが誰でもいいから話につき合わせたいのだろう。


 俺には子供がいないからわからないが、鴇田は本当に悲しそうな顔をしている。

 恐らくこの世の絶望を味わっている、そう思わされる顔だ。


「お前も子供ができたらわかると思うが、娘にお父さんの後にお風呂は嫌だの近寄るなだの洗濯物別にしてだの俺に人権はどこだよって感じだよな。デスゲームの方が人権与えられてるんじゃねえのか?」


 これは鴇田だからこそ言える冗談だ。

 鴇田ら機材物資運搬部門は参加者をデスゲームに参加させるときにスタンガンなどで気絶させて会場まで運ぶ。それは漁で打ち上げられた魚のように適当に。

 

「俺のおかげで豪勢な暮らしができるってのによぉ……秘密にしてるから仕方ないが」


 鴇田は表向き現場の作業員ということになっている。

 家族がいるものからしたら、自分がデスゲームという裏稼業に近い会社で働いていると告げるのは抵抗があるようだ。



「おい、芝原!」


 段ボール箱を持った芝原が近づいてきたため、鴇田は鼓膜を破かんばかりの声量で呼び止める。

 俺の真後ろから近づいていたようで、完全に油断していた俺の鼓膜は壊れたエコーのように変な音を反響させている。つまり頭が痛い。



「あ、タカさんじゃないっすか。時間より早いっすね」


 芝原がワイシャツ姿で走り寄ってくる。

 その様子は子犬のように弾んだ走りだが、実際には見上げなければならない男である。


「芝原、小鳥遊の邪魔すんじゃねえぞ」



 俺の邪魔をして何か起こった時に被害が来るのは自分だとしっかり理解している。

 伊達に俺が入社した時点でチーフになっていた男だ。


 芝原は段ボールを置いていくためにダッシュでいなくなり、すぐにスーツケースを持って戻ってきた。


「鴇田さん、俺頑張りますからね!」


「おめえは何もすんな。マジで」


 俺も無言で同意する。

 やはり一人でやる方が楽な仕事だ。



 そしてそこから北海道の空港に着くまで、只管楽しそうに芝原は観光スポットやお土産、特産品について語り続けるわけだ。

 完全に観光気分だが、俺はその様子を見て寧ろ安心する。無駄に仕事をする気で真面目にやられても迷惑だからだ。


 もしかしたら俺と仕事をできるのが嬉しいのかもしれない。知らないが。


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