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第五十二話 壊れかけの人狼⑦

「…………これで、終わり?」


「終わりだな。あとは霊能者を殺してから次の日に適当な村人を殺すだけだな」


 飛谷が安心したように吐息を妖艶に漏らした。

 恐らく今日が来るまで本当に俺が自殺すると思っていたのだろう。


「今の時間、なんで遅くなってたのよ」


 俺は拳銃を飛谷に見せながらテーブルに置いた。

 既に空の薬莢は二つある。


「その反応だと、やはり音は聞こえないんだな」


「……もしかして」


「ああ、もう霊能者殺しておいた。恐らく夜の時間は変わらないだろうしな」


 仮にすぐに夜ターンが終わっても、それはそれでありかと思っていた。

 どうせ明日やることは決まっている。



 今日、俺たちは本物の占い師を処刑した。

 女はヒステリックに感情論で訴えかけ、俺は冷徹に理論的に説き伏せた。


 どちらが正しいかはわかっていないのは明白だったが、感情論で泣き叫ぶ女と冷静に可能性や選択肢を提示する男。どちらが説得力を持つかはわかりやすい。


 混乱していたせいか、本物の占い師は本当のことを言うしかなく、飛谷が人狼であることを言ってしまったせいで呆気なく処刑されたわけだが。



「昨日の話の続き、聞かせなさいよ」


「……昨日の話?」


「なんで命を捨ててまでしてあたしを助けようとしたの。意味わかんない」


「え、だからお前が好きだから」


 自分で言っていて、非常に薄っぺらい言葉だと思う。

 そもそも本心ではないのだから当たり前だろうけど。


「……いい加減にして」


「別に大した理由はないが、知りたいなら暇だし話してやるよ」


 今日俺達で話し合う内容はない。

 明日、俺が万が一安定策を取って処刑される可能性はあるが、その場合にも飛谷は生き残るだろうから俺の仕事は既に終わっている。


「……今回のこの殺し合いの人狼ゲームにおいて、お前以外にどれくらいの数が希望しないで参加したと思う?」


 初日の雰囲気で俺はある程度察していた。

 だが、恐らく飛谷はそこまで周りを見ている余裕などなかったはずだ。


「お前以外には一人だけ。初日に殺されたあの男だけだ」


「……そうなの?」


「初日の雰囲気ではそうだな。つまり、それ以外は全員自らの意思で参加している」



 金が欲しいのか何かは知らないが。

 俺を含めて九人は自ら命の危険を賭けている。


「……お前、死ぬ覚悟なんてないだろ」


「当たり前でしょ! 逆にあなたはあるの!?」


「ある……というよりもあまり生きる希望もない」


 別に昔話をするつもりにはならなかった。

 理解してほしいとも思わない。


「俺はな、どこかで死に場所を求めていただけだ。死にたい俺と生きたいお前。利害の一致というわけだ」


「あなた高校生でしょ。なんでそんな死にたがってるの。教えて」


「…………」


 話すつもりはないと思っていたが、このデスゲームを飛谷と過ごして何を思ったのか。

 この女に話して何になるのか。


 ……ただの暇潰しか。



「飛谷、お前は大切にしていたものが目の前で消える。そんな経験はあるか?」


「……ないわね」



 俺だって始めからこんな人間だったわけではない。

 特に俺の家は四人暮らしで両親もいたし、仲の良い姉もいた。俺が小学校を卒業する辺りまでは。


 正確な日付は思い出せない。思い出そうとしてもできない。

 恐らく自分の中で記憶に封印している。


 ……それでも、確か雪が降っていた休日だったことは覚えている。

 その時まで俺には友達はいた。外で雪と戯れていた気がした。



「家に帰ったら家族が皆殺しにされていた」


「…………え」


「愉快な犯人でな、俺が帰ってくるまで家で待っていたようだ」


「…………」


 俺は他人事のように冷静に過去を回想していた。

 扉を開けた瞬間の違和感。何かを焼いている音。血の匂い。


 玄関から続く水の跡。今にして思えば犯人が土足で上がったから残っていたわけだが。



「フライパンで何を焼いていたと思う? まあ誰の何とは言わないが」


 飛谷は息をのんだ。

 そう、あれは何を焼いていたのか。俺の記憶には残っていない。


 ただ、それを楽しそうに俺に説明してくる若い男の存在は瞼の裏に焼き付いている。

 その辺りで俺は気絶したのだろう。



「起きたら病院だった。隣人から通報でもされたのか、愉快な犯人がわざと呼んだのか」


「…………」



 何故生かされたのか、それはわからなかったがあの時から俺は復讐に全てを捧げた。

 どうすればあの脳裏に残る男に復讐をできるか、同じような絶望を与えられるか、死よりも残酷な最期を迎えさせられるか。



「……あなた、その復讐にためるお金が欲しくて?」


 数秒の沈黙ののち、飛谷はぽつりと呟いた。

 だが、お前は間違っている。



「俺はさっきこう言わなかったか? 死に場所を求めていると」



「…………まさか!」


 そう。俺はとっくに復讐は終えている。


「犯人は近くに住んでいた大学生だった。偶然……そう、偶然後々出くわしたからわかった」



 偶然なんかではない。

 あのサイコパスは俺をわざと生かした。復讐に燃える子供を作り上げるために。


 家族を皆殺しにされて自らを怨むように仕組んだ男は何を見たかったのか。一人の子供が壊れる瞬間。育成ゲームのような感覚だったのか、それはわからない。

 サイコパスを理解はできないししようとも思わなかった。



「家族が肉塊になっているのを見たことのない人間にはわからないと思うが、俺は高校生ながら精神的には既に年齢を凌駕していた」


 俗に言うならば、精神が死んだということ。

 他の人間と同じように楽しくて笑うこともないし、悲しくて泣くこともない。一過性に苛立つこともあるが、あの男に向ける以上の怒りが浮かぶこともない。


 残虐な事件後でも親戚に引き取られることなく、様々な金銭的な財産によって一人俺はあの一軒家に住み続けた。

 恐らく普通の精神状態では無理だろう。だが、そもそもあの時点から俺は普通の精神状態じゃなかったわけだが。


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