第四十九話 壊れかけの人狼④
「はぁっ!?」
「とりあえず黙れ。これから説明してやるから」
幸いなことに、あの男が騎士だった場合誰を護衛するか。
もしも俺だったら、適当なやつを守ることはない。それよりも敢えて護衛をしないという選択肢を取るところだ。
だが
「恐らくお前を護衛するだろう。命のかかったゲームで敢えて護衛をしないという選択肢は普通とらない」
そもそも騎士が護衛をしないという選択肢が与えられているかはルールで明示されていない。こんな緊迫状態ではそこに気が付かなくても当たり前の話だが。
「え、待って。理解が追いつかない。あたしが護衛されるのと襲撃する意味はわかるけどそれをしないといけないの?」
「お前が占い師から占われる可能性がある以上、次のターンの時点でお前を白確定させなければならない」
飛谷が人狼だとばれてしまえば、まず飛谷が処刑される。
次に誰かを襲撃したところで残る人狼は占い師のどちらかでしかない。
この命を賭けたゲームで最も肝となる部分は俺の偽物占い師がばれることではない。
隠れている方の人狼が占われることだ。
「もしもお前が占われた場合、即座に俺は誰か別の人間を人狼として吊るさなければならない」
「でもそれがどういうことなのよ」
「例えば騎士がお前を護衛していたとする。次の昼間には誰も死人は出ない」
順を追って説明する。
勿論、明日の時点で混乱しているというのは村人である信憑性としては大事なところだが、理解できず馬鹿なことをする方が危険すぎる。
「となると騎士はそれを周りに言う言わないは別として、飛谷を村人だと勘違いする可能性が高い」
「それはそう」
「で、そのお前に占い師が人狼だというとどうなる?」
飛谷ははっとしたように俺の方を見た。
やっとここで理解できたのか。
「騎士からしたらあなたが本物の占い師だってわかる!」
「そういうことだ。そこまでいけばあとは俺が適当に処刑するだけでいいわけだ。仮に後々俺が保険として殺されたとしても、お前は人狼ではないという印象が強く出る」
まずある問題点としては、明日の時点で騎士が本物の占い師を処刑しようと提案することだ。これは俺が何とか丸め込んで止めなくてはならない。
霊能者が存在する状態で本物の占い師を殺せば、翌日俺が偽物だとばれてしまう。
そしてもう一つの問題点。
「そもそもあたしを護衛してなかったらどうするのよ」
「それはやばいだろうな」
どこかで博打を打つ必要がある。順当に戦って勝ってもいいが、確実な方法があるわけではない。
「今が一番相手の心理が読みやすい。明日以降はどうなるかわからない。お前の色香で男どもを誘惑できるならそうしてもいいが」
勝つために女の武器を使うなら俺はそれを推奨するだろう。
ただ、飛谷の様子を見るにそれを行使するつもりはないようだ。
「仮に俺が下手打っても、お前が一人で生き残れる方法だ」
「……わかった。あなたに任せる」
俺以上の代案がなかったのだろう。
数分考えた後に飛谷は静かに頷いた。
実際、単純に低い確率で博打を打つつもりはない。
今日、一人の男が死んで残り十人。
騎士は自らを護衛できず、そしてルール上普通はこのタイミングで真偽不明の占い師を護衛することはない。となると護衛の選択肢は七人。
霊能者が誰かは不明だが、男二人と女一人は明らかに自身が役職を持っていないと公表した。騎士からしたら隠れている霊能者を守れればアドバンテージを得られるため狙うとしたら残り四人。
その中で且つ好感度が高い飛谷が守られる確率は四回に一度よりも多いだろう。
「もしも……失敗したらどうするの」
声が震えている飛谷。
代案も考えているが、ここで説明するには時間が足りない。
「……そこは俺を信用しろ」
「少し前に言ったことと矛盾してるけど」
さて、そろそろ時間か。
俺はソファから立ち上がり、まだ座って俺を上目遣いで見上げる飛谷の肩を軽くたたく。
「頼んだぞ、飛谷」
「……因みにあたしのほうが年上だけど」
「もう少し年上要素出してから言えよ。そしたら使ってやるから」
一人で生き残ってからそういうことを言えと言いたいところだな。
ただ、年上だのなんだの言えるくらいには緊張は解けているのだろう。
……それに、飛谷からしたら俺達二人が誰かを襲撃するという行為が耐えられないのかもしれない。殺すとしたら俺が殺すんだろうが、俺が死ねば飛谷自身でやらなければならない。
「……むかつく後輩」
「そうかい、先輩のために命を賭けてやってるんだから、そんな素晴らしい感謝の言葉はいらねえよ」
明日からは人殺しになってもらうからな、飛谷。
明日度肝を抜いてやるよ。




