第四十八話 壊れかけの人狼③
俺は扉を潜って自室に戻るまで、鉄仮面をかぶり続けた。
流石に初日、占い師を騙るというのは疲れる。
「……さて」
夜時間までの数分間。
飛谷にこれからの作戦をどう説明すれば理解が早いか、頭の中で整理する。
多数決というのは恐ろしいものだ。
誰かがリーダーシップをとって、自分以外の存在を処刑しようとする。その理由は声が高圧的だの発言がないだの適当に作った。
初日、占い師という役職以外が潜伏した状態では殆どが当てずっぽうになる。
その中で飛谷の男を虜にできるであろう美貌は非常に有利に働くことになった。
どんな時でも異性からヘイトを買わないというのはプラス要素が大きすぎた。
男は七人、女は四人という配役。
初日のようにヒントがない状態で誰かを殺さなくてはならないとするならば、初対面で且つ比較のしようがない状態ではヘイト管理が重要になる。
そういった意味では俺以外の村人である男六人からは飛谷に投票は比較的ないだろうと思っていた。
「誰からも入らないのは流石だな」
本物の占い師は女。そして偽物の占い師である俺。
九人から誰かを選ばれるのだったが、意外と票はぶれなかった。
混乱したように周囲に攻撃し続けた大学生の男は死んだ。声を大きくして主導権を握ろうとしていたのだろうか、恐らくこのゲームを理解しきれていなかったのだろう。
ゲームでは一人ずつが発言するのだが、実際のリアルの人狼ゲームでは同時に話すことが多い。
この場合、声が大きい人間が中心になるのではなく、二人の占い師が司会の役割になる。
そしてモニターからの指示で二度目の夜の時間になる。
「……私、あなたが怖い」
開口一番。飛谷は明らかにドン引きする様に俺から距離を取った。
何について怖いと言われているのかはわからないが、協力はしてもらわなくてはならない。
「そうか。では今日は誰を襲撃する?」
「人が死んでるのよ!?」
発狂する様に飛谷は声を張り上げる。
俺は一応後ろの扉が閉まっていることを確認しなおした。
とりあえず声は聞こえていないと思いたい。もしも聞かれて飛谷が処刑された場合、残りは占い師二人を殺せばいいだけなのだから。
「それだけの話だ。だったらお前が死ねば良かっただろ」
「…………」
唇を噛み締める飛谷を見て、深々と溜息をついた。
偽善的な発想だ。誰かは死ぬ。
そして俺たちが襲撃すれば、特に俺たちが殺害するわけだ。
「ま、男どもからお前が狙われなくて良かったよ。女からのヘイトは集まりそうだからな」
「……あなたがうまく誘導したでしょ。他の人は混乱していただろうし、特にあの人も誰が元凶かわからなかったようね」
「人聞き悪いな。俺はお前を守るために必死なだけだ。ちょうどいい生贄がいただけだからな」
やつはスケープゴートだ。
とりあえず今この時間で残り十人。最速で残り六人を殺せば俺たちの勝利になる。
「俺からしたら、迷ってどこにも投票しなかったお前の方が怖い。自殺願望でもあるのか?」
他の住人は迷いながらも誰か彼かに投票した。
その中で誰にも投票しなかった飛谷というのはこの空間では異質だ。本来であれば、こんな殺人ゲームに参加しないというのはまともな感性かもしれないが。
「ご、ごめんなさい」
俺よりも年上であるはずの飛谷は幼く見えた。
歩んできた人生が俺と異なり過ぎるだけだろう。
「大丈夫だ。俺はお前を守る。だから協力しろ」
「う、うん」
さて、多少時間を潰したが、飛谷は少しでも立ち直ってくれるだろう。
「俺は流石に占い師になりきっていたからわからなかったが、誰が騎士かわかりそうか?」
俺が初日の犠牲者に選んだのは雰囲気からして騎士ではなさそうな人間だった。
だが、次のターンからはそうもいかない。
人狼側で恐れるのは、誰が騎士かどうかわからない状態で襲撃を防がれるところだ。
襲撃を防がれても、誰かわかれば次の日にそいつを殺せる。
飛谷は自信なさそうに、一人の男の名前を口にする。
「なんか雰囲気は普通の村人じゃなさそうかなって。霊能者かもしれないけど……」
「そこはお前の観察眼を信じる」
「え、絶対っていう自信ないわよ!」
俺たちは二人で残り八人を相手取らなくてはならない。
多少のリスクは織り込み済みだ。
石橋を叩いて渡れるゲームではない。石橋を渡るか渡らないか、ただその二択だ。
仮に渡っている最中で崩れるならそれはそれで終わり。ゲームオーバーだ。
だから渡るときは全速力で、下手なブレーキなど踏まない。
「初日は霊能者も隠れているし、人狼側は占い師を噛みぬくことはしない。つまり、今日だけは誰を護衛するかわからない」
「……そう、そうよね。じゃあ騎士っぽい彼を狙うの?」
それも悪くはない。
だが、見立てが失敗した場合にリスクを負う必要がある。占われていない村人の数が減り、相対的に飛谷が占われる可能性が高くなる。
「飛谷。お前多分今日本物の占い師から狙われるぞ。下手したら明日死ぬ」
ぎょっとしたように俺の方を向く。
明らかに女性陣からは飛谷にヘイトが向かっている。
簡単な話、見た目だけで男どもから狙われないという特殊なポジションにいるわけだ。隠れ蓑としては非常に都合のいい状態であり、現に俺はそれを利用している。
「だから死なないための手段をとる」
「……ど、どうするの」
声が震えている。いや、組んでいる腕すら震えている。
「とりあえず今日はお前を襲撃することにする」
俺は自室に置いてあった拳銃を飛谷に向けた。




