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第四十七話 壊れかけの人狼②


 飛谷絵梨は目をぱちくりとさせている。

 そんなに俺がテレビを見ているということに疑問なのだろうか。


「あなたの名前は」


「それは言えない」


「はぁ?」



「今は夜の時間だ。昼の時間になれば参加者が一堂に集まるだろう。そこで本来は初対面になるはずなんだよ。先に名乗ってお前に反応されるのは困るわけだ。まずは一度大きく深呼吸でもしろよ、天才」


「むかつく言い方ね、あたしよりもちびな癖に」


 飛谷は腕を組みながら悪態をついた。


「さて、いい加減人狼ゲームの作戦に移るぞ」


 この部屋にもあるモニターを見て時間を確認する。

 既に数分経っている。無駄な時間を過ごしてたわけだ。

 飛谷は表情を歪めながら困ったように俺を見下ろす。



 美形はどんな表情をしても映えるようだ。恐らく普通の一般人であればその動作でも見惚れてしまうのだろう。



「あたし、ルールは知ってるし、番組でやったことあるけどそんなにうまくないわよ……」


 言い訳する様な口調で絶望的な表情を浮かべている。


「番組では活躍してなかったか」


「……あんなのやらせよやらせ」


 通常どちらかは役職として出ないと成り立たないだろう。

 そして俺と飛谷、どちらがやればいいかくらいすぐにわかる。


 本当なら容姿の優れているこいつにやってもらいたいところだが致し方あるまい。



「それなら俺が占い師を騙る。あんたは初日だけでいい、完全ランダムな状況で処刑されないようにしろ。男女比は知らないが、男が多ければ適当に色目でも使え」


「……最低」


 俺に向けて軽蔑的な視線を送ってくる。

 だが、正直そんなことはどうでもいい。


「あんたは昼の時間で知るだろうが先に教えといてやる。処刑されたら本当に死ぬぞ」


「…………」


 恐らく頭では理解できているのかもしれない。だが、普通目の前で人が死ぬ光景を見たことはない。特に自分が殺すことなど一生で見る人間の方が少ない。



「色目で生き残れるんだ。安いもんだろ」


「……で、どうするのよ」


「どうするとは?」


 作戦についてだろうか。

 はっきり言ってそれは始まってからでないと全く想像できない。


 もしかすれば、抵抗して首輪を外そうとして何か起こるかもしれない。

 この不愉快な重さの首輪はただ俺達に趣味で付けているとは到底思えない。


 恐らく、何らかの仕掛けがあるのだろう。首輪が爆発するのか、電気が流れるのか、刃が出るのかはわからない。

 勝手に村人が死んでくれれば楽だが。


「先に言うと、間違っても首輪を外そうとするなよ」


「……もう遅いわよ」


 痛みでのた打ち回るほどの電流が流れるようだ。涙目の飛谷は既に実践してくれたわけだ。恐らくこれは抵抗させないための首輪だ。


 あまりにも抵抗した場合には死ぬレベルの電流が流れるのだろう。初回は警告とでも言う感じか。



「細かく作戦を立てて勝手に自滅するのが最悪だろ。出たとこ勝負で失敗したら死ぬだけだな」


「……なんでそんな」


 冷静なのか。

 それは自分でこのゲームに参加することにしたからとしかいいようがない。


「あなたは占い師を騙る。あたしは隠れるけど他に何をすればいいの」


「隠れる以外に何かできるほど余裕あるのか?」


 事実として疑問を浮かべただけだが、馬鹿にされたと拾われたようだ。

 明らかに不機嫌そうに飛谷は俺を睨みつけてくる。


「男女比によって作戦は変わるが、男が多いなら色目を使ってヘイトを買わないようにしろよ。それをやった上で余裕があるなら」


「あるなら?」


「恐らく初日潜伏している騎士を炙り出してくれ」


 自分が騎士だということが透ける発言をしているものがいないか。明らかに役職を持っている村人かどうかわかればかなり有利に物事を運べる。


 残り数分。飛谷の動揺は始めから比べれば随分とほぐれているが、それでもこの女がいつ失言をするのかわからない。


 組んでいる両手が細かく震えている。

 当たり前か、これが一般人の感性だ。



「まず生き残ることを考えろ。出来ないことはやらなくていい」


「……信じるわよ」


 何をそんな甘いことを。

 思わず俺は見返してしまう。そこで初めて飛谷と視線が合う。


 透き通ったその黒目は初めて大きく見開かれ、口角は少し持ち上がる。


「なに、その表情は」


「……飛谷。もしも生きて帰りたいのなら一つ俺からアドバイスがある」


 なに、と飛谷は聞き返した。



「決して俺を信用するな。己だけを信じろ。俺達はただの利害が一致しているだけだ。いつ裏切るかはわからないぞ」


「……裏切るつもり?」


 馬鹿正直に聞くのかこの女は。

 残り一分。俺はこの謎の空間に来て、初めて笑ってしまった。



「裏切るつもりはない。あんたを助けてやるって言ってんだよ、飛谷絵梨。あんただけは全力で守ってやるから安心しろよ」


 そうでも言わないと納得してくれないだろう。

 俺は嘘がばれないように適当にそう言い切った。

 ついでに握っている両手を上から重ねて手を包み込んでやる。


「因みに、俺はあんたの見た目には興味はない。ただ、その頭脳は有効活用させてもらうからな」


「……大丈夫、あたしもあなたは好きになれそうにないから。でもあなたが有効活用できるように全力で頑張るわよ」


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