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第四十六話 壊れかけの人狼①


 目が覚めると、知らない空間だった。

 ホテルの一室だろうか。


 気が付いたらベッドの上だった俺はすぐに首元の違和感に気が付く。

 まるで動物につけるような、金属製の首輪がつけられているが、俺が自分でつけた記憶などない。


 ……そうか、本当にデスゲームに参加できたのか。



 存在自体が半信半疑だったし、そもそも参加できるかも不明だった。

 けれど、この状況は迷う余地などなかった。



 ホテルの一室のようなただベッドだけが置かれた空間。

 ベッドは壁に固定されており、正面の壁にはモニターが。

 そして両壁には頑丈そうな扉が備え付けられていた。



「……なるほど」


 モニターの下には封筒がある。

 それを警戒せずに開けると、俺の名前とともに『人狼』という二文字だけが書かれていた。


 生きる目的もなく、ただ無として存在している俺が参加者を殺す側か。

 唯何の感情も動くことなく、とりあえず扉を開けてみようとする。


 ……両方とも開かない。


 ベッドに腰かけながらその理由を考える。

 何故扉が二つあるのかはわからない。恐らく片方はこれから行われる人狼ゲームの会場だろう。

 そして開かないということはまだ目覚めていないものがいるということか。

 


 デスゲームに何人の参加者がいるのか、敵はどれくらいかわからないが、ゲームで言うなら十人前後だ。


 ベッド側の壁に耳を寄せ、音が聞こえないか確認する。

 まるで防音室のように全く音は入ってこない。これは隣の人間が音を出していないのか、それともそもそもいないのか、音が聞こえないように壁が分厚いのか判断が付かなかった。


 例えば扇形の部屋であるならば角度からどれくらいの数部屋があるか想定は出来る。

 直方体の場合、普通の部屋の場合には全く想像もつかない。


 ただ、この無機質な作りの部屋はどこかのホテルを貸し切っているということはない。恐らくどこかに作っているのだ。

 となると、基本的には全員が同じ形、同じ大きさになると考えられる。




 そんなことを考えていると、何も映し出していなかったモニターが輝きだし文字が浮かび上がる。


『右手の扉から出て、向かいに部屋に入ってください。人狼サイドの夜時間は十分です』


 俺はその文字を見て迷わず扉に向かう。

 明らかに電子音とともに扉の鍵は外されていた。


 なるほど。

 部屋の外は廊下になっている、それも一直線に。


 一直線の廊下に扉が十一横に並んでいる。つまり、これが参加者の数だとわかる。

 そして廊下の向かいには一つだけ扉がある。


 俺は素早く廊下の端から端まで歩く。

 音は何も聞こえない。ノックでもしてみるべきか。


 いや、監視カメラで見られている以上余計なことはするべきではない。

 モニターが映し出された時点で十分を示すタイマーはカウントダウンを始めていた。無駄な時間をかけるべきではないということか。



 俺の部屋の位置はほどなく真ん中あたりだろう。端でなかったことからも、やはり防音加工があるのだろう。その証拠に、隅の扉が一つゆっくりと開いたのに気が付くのに遅れた。


 人間の見る目に乏しい俺でもわかるほどに美形な女だった。

 更に言うと、その女を俺は知っている。確実にその女は俺のことを知らないが。


 廊下を歩いている俺にぎょっとしたように反応し、続いて何かを叫ぼうと口を開きかけたため、俺は人差し指をたてて自分の口元に当てた。

 ここで声を出してばれるのはゲームとして成り立たない。


 恐らくゲーム性の崩壊を避けるために防音加工だろうが、だからといって全く音が通らないわけではない。



 手で向かいの扉に来るように指示をし、俺は先に扉を潜る。



「……な、なんなのよ。これ」


 扉の中の部屋は、先程俺が目覚めた場所よりも一回り程広かった。

 ベッドの代わりに一人用のソファが二つ向かい合って置かれており、間には小さなテーブルが配置されている。

 つまり、ここで作戦会議をしろということだ。


「残り九分か」


 そしてテーブルにはまたもや封筒が。


 呆然としながら、発狂しそうな、混乱している女を無視してソファに腰かける。

 封筒に迷わず手を伸ばし、中身を確認する。



 人狼デスゲームのルールが書かれている。

 占い師が一人、霊能者が一人、騎士が一人、人狼が二人、村人が六人。この村の配役。


 そして初日、夜の時間が開けた時の占い師による占いはなし。

 騎士による連続の護衛はなし。



「どういうことなのこれ、答えてよ!」


「静かにしろよ。声が漏れないとも限らないぞ」


 テレビの中ではもっと冷静に、優雅に、大人びていた気がしていた。

 だが、制服姿の女は髪を掻きむしりながら俺の方に近づく。


 今更だが、俺も制服だ。

 ただ、何一つ荷物はない。普段かけている眼鏡があるだけ感謝だな。



「な、なんでそんな落ち着いてるのよ……!」


 俺はその反応を見て、少しだけ首を傾げた。

 このゲームに参加する者は基本的に希望性だと思っていた。


 賞金、スリル、合法的な殺人などを求めて各自が勝手に情報を集めて、勝手に参加しているのだと思っていた。

 ただの金目的や、俺みたいな終わっている人間が味方であればもっとクールに適応できたのかもしれない。この女は違った。

 ……不覚にも、俺はこのゲームでの役割が決まった。


「答えなさいよ……!」


 セーラー服のその女はヒステリックにまた大声を出そうとしたため、俺は中指で二度机を叩く。

 そこまで大きな音は出なかったが、その音に驚いたようにぎょっと黙った。



「俺は自分が人狼だと書かれた紙を見てここに来た。お前もそうだな?」


「……そ、そうよ。なんなのこれ」


 一から説明するのは時間がかかる。

 そもそもそこまでの時間が与えられていない以上多少は本人で何とかしてもらうしかないわけだ。


 十分人狼の時間があるわけだが、それは自室に戻るまでの時間だろうか。それともこの部屋の時間か。下手をうってゲームを破綻させかねないな、慎重に動かなくては。



「まったく、天才ジュニアモデルだのなんだの言われてるんだからもっと冷静な奴かと思ったんだがな」


 女はぴくりと動きを止めた。

 何故数年前まで呼ばれていた通り名を知っているのか、そんな表情だった。



「何で知ってるの」


「あんたはテレビに出てたんだ。流石に知ってるさ、飛谷絵梨さん?」


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