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第四十五話 決起集会②(終)

「自らの命の安全が必須の状態で、且つ相手を蹴落とすというのはそれだけで面白いでしょう」


「そう、だからこそ君のデスゲームは常に盛り上がるのではないかね」


「そこに、更にギミックをつけるだけでねじれることもあります」


 雨田は焦らされているとわかっているのだろうが、それでも先を聞きたいのか更に先を促す。


 俺は今まで経理部門のチーフにしか言ってこなかったギミックについて口にする。



「例えば、村人側と人狼側でそれぞれにサブミッションを与えてみるんですよ。元々参加者は全員利害の一致をしているわけでもないのに、更にその選択を増やさせるんです」


「具体的にはどういうことかね?」



「我々の会社の一人を参加させるんですよ」


「………………」


 

 そしてそれは参加者全員に公開される。ただし、社員であっても自分の役職以外は全く知らされていない状態、ただの参加者と同じだ。


「村人陣営は、社員を昼間に処刑すれば賞金が倍になると伝えておきます」


 逆に人狼陣営には、社員を生かしたまま勝てば賞金が倍になると教える。


「そしてあらかじめ社員を村人陣営にしておきます」


 村人側からしたら、まず勝たなければ賞金はもらえないし死ぬ。だが、余裕があるタイミングでは社員を処刑して賞金を増やしたい。

 勿論人狼側からしても同じで、勝つためには殺さなければならない。ただ、なるべく生かしておきたい。



「社員は多数である村人から常にヘイトを受け続けるわけです。その中で自分が生き残りつつ勝つ道を提唱しなければならない」


「人狼側が昼間の処刑をあまりにも庇うとばれてしまうが、村人側も人狼を殺す方法が処刑しかないため無駄なターンを使わされる可能性もあると」


 更に、数人は強制的に拉致されてこのデスゲームに参加させられる者もいる。特にそう言った彼ら彼女らからしたら社員というのは恨みを晴らせる対象だ。


 個人的な恨みや賞金目当て、勝利優先など目的が参加者同士でもバラバラになると非常に収拾がつきにくくなる。


 雨田は面白そうに顔を歪めるのだったが、その後は真顔になった。



「しかし、その社員はどうするのかね。流石に希望者などいないだろう?」



「それは勿論。ただ、今回で言うとちょうどいい人材が」




 実は前々から経理部から相談を受けていた。

 社内で横領を働いている人間について。


 俺は内々に話を潰し、雨田のところまでいかないようにしていた。

 全てはこのゲームに参加させるために。



「数年前から社内で横領している人物がいます。主犯格が一人、共犯者が数名」


「……なるほど。そんな噂を聞いたことあったな」


 俺がもみ消していたことについては不問にしてくれるようだ。

 俺をこれで処罰するメリットよりも、次回からのデスゲームをどうするのかというデメリットが勝っていたようだ。



「私は、その主犯格に対してチャンスを与えようと思うんです」


「……チャンス? 見せしめではなく?」


「私がそんな冷徹な人間に見えますか?」


「君はそういう人間だろう」


 俺はさも心外な表情を浮かべてみる。

 恐らく全く何も響いていないのだろうが。


「今回生き残れれば、横領した額をある程度は得られるでしょう。それを会社に返納すれば不問にしようと思っています」


「…………そんなことで許されるというか?」


 雨田は多少気に障ったようで、仏頂面でそう言う。しかしこの男、デスゲームで生き残ることをそんなことで済ませるのか。

 俺は苦笑しながらもう少し付け足すことにした。



「村人側からのヘイトを浴びつつ、勝つというのは非常に難しいと思いますよ。下手したら発言権もなく殺されるでしょうね」


「……まあそれもそうか」



 それに、と俺は言葉を続けた。


「デスゲームの企画運営をする人間は、他のものと違ってとても大事な要素があるんです」


「大事な要素?」


 いきなり話が飛んだ様に雨田は感じているのだろう。だが、俺は一貫して話を繋げているつもりだった。


 デスゲームを企画運営するのは誰でもできる仕事ではない。

 デスゲームの雰囲気を理解し、参加者の思惑や行動を把握できる人物でなければならない。



「まともな人間にはできないんです。出来るのは、デスゲームに生き残るくらいの修羅場を潜って狂った人間くらいですよ」


「…………」


 雨田はここで初めて俺に恐怖したような表情を向けた。

 そして俺の言わんとしていることを理解してしまったようだ。


「雨田社長。あなたは私の前任がやらかした後に社長になったので知らなかったんですね」


「…………」


「つまり、そういうことですよ」


 額から冷や汗が流れていることに気が付いたのか、雨田はポケットからハンカチを取り出して拭った。



「……そ、そうか。君はそうだったのか」


「もしも生き残れたならば、彼をうちの部門に連れてこようかと思っています」



 ずっと俺の支部に異動を希望していたし、その辺りお互いウィンウィンというわけだ。


「……わかった。これ以上は何も言わないでおこう」


「その方が助かります」


「…………その社員は、デスゲームに参加させられることを知らないんだな?」


 勿論。

 そもそも俺に横領していると悟られていないとでも思っているのだろう。



「知っていたら対策を立てられるかもしれませんからね。生き残れないならそれはそれで見せしめになりますので有効活用、適材適所ですね」



 芝原靖人。

 自らの会社を立ち上げるためにこの会社で横領を行い続けた憐れな男。

 壊れた人間を誤って慕い続けた可哀想な後輩。


 しっかり最期の最期まで社員として全うしてくれよ、芝原。



 俺は無表情のまま、グラスを傾けた。奴への追悼の意を込めて。

 さようなら、芝原。


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