第四十二話 面談終了⑤
「花坂美琴に言っていた方法ってなんなんすか?」
「ああ、そんなことも言ったな」
「え、まさか嘘なんすか?」
流石に嘘ではない。
「そんなわけないだろ。考えてみればわかることだ、少しは自分で考えろ」
突き放す言い方にはなるものの、思考くらいはしてほしいと本当に思う。
仮にも俺の部署に異動したいんだろ。
「いや、普通にわかったんすけど、まだ高校生に働かせるってやばくないっすか?」
「そうか? 才能というのは年齢で決まるわけではないだろ。あれは天性の狂人だ。俺や飛谷にも負けずとも劣らない」
天性の狂人というのはどこにでいるわけではない。
今までの参加者では誰一人として見たことがない。はっきり言って俺たちの比ではないようなデスゲームを作れるかもしれない。
勿論今はただの高校生と狂人が共存しているのだが、これからは狂人であるその才能を思う存分に発揮してほしいと思うのは俺だけではないはずだ。
「生き残ったら本当に開催させるつもりなんすか?」
「本人が望むのならな。仮にそれでミスって死ぬかもしれんが後継者を育てる上では必要だろ」
流石にいつまでも俺だけでデスゲームを企画運営するのは難しい。
「随分期待してるんすね」
「当たり前だろ。まともな人間にあれは作れんからな」
「……確かにタカさんも飛谷チーフも変わってますもんね」
それについては否定しない。
だからこそ芝原、お前はうちの部署に来られない。心の中ではそう思っていたが、その事実を知らせるわけにもいかず俺は黙る。
「これで全員おしまいっすか?」
「そうだな。あとは俺らチーフ組で日程のすり合わせだな。主にスポンサーが生で見られるタイミングになるんだろうな」
流石の俺でもいつ開催されるのかは知らない。
麻空らの金持ちのために俺らがせっせと調整するだけだ。ただ、基本的には出している金額順に融通を利かせることは事前に伝えているため互いに誰に合わせられるかはある程度把握されている。
「楽しみっすね」
「……そうだな」
「浮かない顔っすね」
「当たり前だろ。ミスったら俺らが死ぬんだぞ。純粋に楽しいというよりも緊張感ありながらという感じだな」
芝原は末端であるため見せしめに殺されることはないと思いたいが、俺達チーフはいつでも殺されるわけだ。
一戦一戦が命懸けであるのは参加者と俺たちも相違がない。
「さて、そろそろ帰るか」
「そっすね」
深夜、俺たちは帰路についた。
流石に芝原は同居している恋人の元に戻っていった。
ここでこれから俺の家に来るとか言ったらどうしようかと思ったところだ。
そして電話。
こんな深夜に誰だと思い確認すると、携帯には鴇田の文字。
……随分と珍しい。
そもそも家庭持ちの鴇田が俺に連絡することはあまりないし、特にこんな深夜にはほとんどない。
「……鴇田さん、どうされました?」
『悪いな、夜に』
「ほんとですよ」
『その音、外か?』
「最後の面談をやっていました。ちょうど家の前ですよ」
『お、それならちょうどいい』
丁度いい?
こんな深夜に?
俺の電話越しの雰囲気を察したのか、鴇田はにやりと笑った。
『俺の家に来ねえか? 今一人で飲んでんだよ』
「……いや、日付回ってますけど。ご家族に怒られません?」
『まあ大丈夫だろ。流石に女だったら殺されんだろうがお前だしな』
何がお前だと言いたいところだが、今日は既に土曜日になっている。
別に朝まで飲んでいたところで娘たちに怒られるのは鴇田だ、俺ではない。
「……住所を教えてください」
『いいね、話が分かるじゃねえか』
既に携帯には住所が届いていた。
会社の近くということで、俺の家からタクシーでそこまで時間はかからないだろう。
「近日では駄目だったんですか?」
『いつ開催されるかわかんねえんだろ。なら早い方がいい』
「……それもそうですね。今タクシー呼んでるんでそんなに時間かからないと思います」
それよりもそういうことをするから娘の反抗期が継続するんじゃなかろうか。
個人の家庭について口を出す気は勿論ないが、そこは助言として言ってもいいのか?
口を開きかけたが、それ以上言葉は出ず諦めることにする。
『土産はいらんから早めにこいよ』
「…………わかりました」
俺はタクシーに乗り込みながら、土産は持っていかないことにした。
その代わり、何か面白い話を持って行ってやるか。