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第四十話 花坂美琴③

 数秒考えた後、花坂はぽんと手を叩く。


「運営側による刺客を送り込みましょう。例えばそれを殺したら賞金みたいなのはどうでしょう」


「……いや、どうでしょうと言われても」


 なんで参加する側の花坂が俺に提案をしている。

 ……ただ、面白い提案であることについては否定しない。



「例えば村人側が運営側の刺客を殺したら賞金が二倍、人狼側は生存させた状態で勝てば三倍とかでバランスがとれる気がします」


「……まあ今回はルールが決まっているので、これ以上介入は出来ませんけどね」



 明らかに落胆した様子の花坂を見て、心の中でげんなりしてしまう。

 だからこそ先にくぎを刺しておくべきだ、無駄に期待させる方が酷である。



「詳細は言えませんが、全員に復讐したいのなら、一つだけ方法は知っていますよ」


「本当ですか!」


 俺の胸ぐらをつかまんばかりの勢いで身を乗り出す。

 体裁すら保てないほどに興奮している。


 本当に狂人でしかない。



「ただ、それについてお教えは出来ません」


「何故でしょうか?」


 別にルールに抵触するわけではない。

 ただ、そもそもそこまで教えてしまうことが介入なのではないかと考えてしまった。


 基本的にはゲームに関係ない情報は俺の裁量に委ねられる部分が多いが、個人的な感情によって動くのは宜しくない。



「……それについては黙秘します。ただ、生存が条件とだけ言っておきます」


「それは本当なんですよね。死神からは嘘つかれましたし」


 デスゲームに参加して生き残れば復讐できるという点か。

 恐らく嘘は言っていない。全員が参加できるということは一切言っていないわけだしな。



「それはあなた次第とだけ言っておきます。我々はあなたにそう提案はできますが、伸るか反るかを選ぶのは花坂さんです」


「……わかりました」


 それ以上言うことはできない。

 これが俺の言えるギリギリのラインだろうか。


 今後デスゲーム作成に関与するならば格安で復讐させてもいいと思っていることは流石にまだ言えないわけだ。

 俺や飛谷の持っている金を出せば数億になるだろうし、花坂が必要な分の金額ぐらいは出せるはずだ。



「でも、良い話を聞けて良かったですね。個人的な話で言えば非常に面白かったですし」


「私は面白いわけではないので」


 それもそうだ。


「他にももっと聞きたいお話はあるのですが、まだ大丈夫ですか?」


「はい」


「この回答によってはもしかしたらスポンサーからお金が出るかもしれませんので、頑張ってくださいね」


 張り付いたような笑顔かもしれないが、努めて冷静に営業用の表情や口調を続ける。

 勿論スポンサーから受けたところで流石に億単位の金が動くわけでもないため、プラスアルファ程度の要素でしかないだろう。



「わかりました、お願いします」


 深夜にもかかわらず、毅然とした表情で座りなおしていた。

 ただ、ここまでの言動でまともな状態ではないため毅然としていても何の意味もない。


 それから数十分俺はマニュアル通りに進めていくし、優等生のように花坂は答えていく。

 可もなく不可もなく、マイナスポイントを作らない立ち回り。






「以上になります。質問や要望は……もう既に沢山仰っていただきましたがありますか」


「ないです」


 そりゃあもういいだけ言いたいことを言ったんだし当たり前だろう。

 特にルールについてもざっくり知らせているためそれ以上質問は出ないはずだ。



「一応開催時期については未定ですが、恐らくもう一度連絡を来ると想定しておいてください。遺書が必要であれば、書いておくといいでしょう。恐らく自殺で片付けられるでしょう」


 自殺というワードを出すかどうか迷ったが、他と差別することなく告げる。

 そして花坂も大して気にしないような態度で頷いた。


 帰る時くらいは芝原でも呼んでやろうか迷ったが、流石に無駄に花坂の機嫌を悪くする必要もないため一人で送っていく。



「宜しくお願いします。遺書を書くつもりはありません」


 その辺りについては自由に任せているから俺がとやかく言う必要はないだろう。


 俺は立ち上がり、大した意味もないが花坂に右手を差し出す。

 きょとんとした様子を見せながらも両手で俺の手を握り返した花坂。


 表情は硬いものの、踵を返して扉まで歩いて行った。


「楽しみにしていますよ、花坂美琴さん」


「……ご期待に応えられるようにします」



 頭を深々と下げ、花坂は帰っていった。

 完全に扉が閉まってから、大きく息をついて芝原に電話を掛ける。


『あ、終わりっすか?』


「盗聴させてんだから知ってんだろ。ほら、帰るぞ」


 一応色んなパターンを想定していたから芝原には隣の部屋で聞いているように指示しておいたわけだが。


「いやぁ、怖い高校生っすねぇ」


「怖いというか、壊れてるだろ、あれ」


 飛谷が壊れている奴を参加させることはないと言っていたが、俺目線で言えば壊れている。ただ、まあ面白いというのは否定しない。 



「健気に復讐にまみれた感じっすね。でもクラスメイトからの虐めを苦に自殺って女は怖いっすね……」


 しみじみと呟いた。


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