第三十八話 花坂美琴①
「さて最後の面談者か」
「そっすね、でも最後は都内なんで近くて楽っすね」
俺たちは本社が保有している建物で待っていた。
今回は高校生ということである程度時間が絞られなければ問題があった。
俺が企画する様になってからそもそも高校生を対象にしてこなかったため、今回だけ変則的に夜間の招集となる。
どうやって誘拐するのかは俺の与り知らぬところだが、無駄なリスクを負わせたあの狂人にいつか文句を言ってやりたいと思っている。
「高校生ってほんと珍しいっすね」
「珍しいも何も俺が避けているんだから当たり前だ。高校生のデスゲームは人気だが、リスクが高過ぎる」
今回が本当に例外中の例外だ。
俺は頬杖を突きながら、これから来る女子高生の資料を思い返す。
花坂 美琴。
都内の進学校の高校二年生。茶道部の部長。明るく周囲とも仲が良く、クラスメイトのみならず教師からの人望に厚い優等生。学業にも長けており、文武両道の大和撫子。
同じ茶道部員で親友の清川恵が高校一年の時点で自殺しており、原因は周囲からの虐めのようだった。ただ、あまり証拠もないようで学校側からも特に情報は出ていない。
「写真見るとめっちゃ美人っすね」
「お前の恋人とどっちが美人だ?」
「そりゃあ奈緒美っすよ。っつーかそう言わないとタカさんがチクるじゃないっすか」
別に人の家庭を壊す趣味はない。
「なんかこの仕事してると美男美女が多すぎて感覚麻痺しないっすか?」
「選択バイアスだな。そもそも選んでいるのが美男美女だからまるでデスゲームの参加者には美人が多いというものか」
選別する側の飛谷がそうやって選んでいるわけだが、選ばれたものを面談する俺からしたら美男美女が多くて当たり前ということだ。
今回も例にもれず、だな。
「……来たみたいだな」
「え、マジっすか?」
外で車のエンジン音が聞こえた気がする。
この部屋が完全に防音でもないし、そもそも道路側に面しているのだから。
「到着しました」
先に職員が俺らのところに来てそう教えてくれる。
芝原は少し姿勢を整えて襟元を正した。
入ってきた女性は来ている制服からすぐに高校生だとわかり、写真で見ていたためそれが確実に花坂美琴だとわかる。
こんな深夜にそもそも制服を着ていることに違和感はあるものの、ストレートの黒髪ロングにやや垂れ目気味な茶色の瞳。その眼はまっすぐ俺ではなく芝原の方に向いている。
……芝原の奴、何かしでかしたのだろうか。
口は一文字に結んでいる状態だが、明らかにこの金髪へ負の感情を思い浮かべている。
「初めまして、お座りください」
その状況について俺が何かするつもりもないし、何かするとしたら花坂自身が口にすることだろう。
花坂を迎え入れるということで、上座に座っている俺達の向かいにはソファが置かれている。
だが、花坂は立ったままで芝原の方を睨み続けている。
「あの、面談するのはあなたですよね?」
一度俺の方に視線をずらしてくる。恐らくより上座の席にいるのが俺だから、上司が俺であり部下が芝原だと思ったのだろうか。
それについて質問には黙って首を振って肯定する。
「可能であればそちらの方、席を外して頂けませんか? 二人だけで面談をしたいです」
何故か。
理由はわからない。とりあえず芝原に向けて嫌悪感のようなものを抱いていることはわかる。
「…………」
どうしたものか。
それを了承しようが拒否しようがそこまで影響はないのだろうが、そもそも意図が読めないため判断に迷っている。
この男が個人的に何か問題を抱えているのか、それとも俺と二人になりたいのか。
恐らく芝原については否定できる。となると俺と二人で話したい内容がある。
…………情報が少なすぎるわけだが。
「芝原、隣の部屋で待機しておけ」
「…………わかりました」
流石に抵抗することなく立ち上がって素直に部屋から出ていく。
その間もずっと険しい顔で睨み続けていた。
まるで親の仇でも見るようだ。
「理由について聞かせて頂いても?」
「……多分貴方たちは調べていると思いますが、私の親友である清川恵はああいった品性下劣な人間に虐められて殺されたので、見るだけでも吐き気がするんですよ。ただでさえ深夜に誘拐されて気が立っているのに、ああいう人間を見たくないんです」
「…………なるほど」
なるほど、わからん。
そもそも誘拐されてきている割には制服を着ているのも疑問だ。流石に眠るときに制服で寝るわけではないだろうに。
そして毎回面談をしてるからわかるが、こいつは本当のことを言っていない。
嘘かはわからないが。




