第三十七話 執念深き復讐者③
『もしもあなたが復讐したいなら無駄な質問はしないこと』
「…………」
迷う必要なんてなかった。
私は口を閉じて自称死神が続ける言葉を待つ。
『花坂美琴さん、デスゲームって知ってる?』
「……命を賭けた殺し合い」
電話の向こうで死神は笑う。
『そう、それに復讐したい奴らを参加させればいいのよ』
「そもそもデスゲームって映画とかの話ですよね」
何を馬鹿なことを言っているのか。
自分で質問しながらも、もしかしたらと思っている。自分が本当に求めていたようなものをこの死神は提供してくれるのだろうか。
『あるのよ、あなたにとっては朗報かしら』
「……どうやって参加させるんですか」
興奮しそうになる言動を抑える。
自分の復讐に近づいたことへの喜びが勝る。
私は深くため息をついて、緊張で声が震えないように気を付ける。
『電話口って信用できる? 会いたいなら会って説明してもいいのよ?』
「どちらでも信用できないんでいいです」
こんな殺し合いを提供しようとするこの死神をどう信用すればいいのか。
それであれば電話で問題ない。
『まず結論から言うわ。あたし達はデスゲームを開催している。命を賭けた殺し合い、勝てば大金が得られるけど負ければ死ぬ楽しい楽しいゲーム』
心臓がはねた。
本当にあるなんて。そして同時にこの電話が恐ろしく感じられる。
どうやって自分に電話したのか。違う。電話までの流れなんてどうでもいい。
何故自分に電話をしてきたのか。
『世の中には酔狂な人間は多くてね、お金さえ払えばなんでも実現するの』
「そのお金なんてありませんよ。ただの高校生ですから」
そう、金銭面はかなり問題があった。
世の中お金があればいくらでもやれることはある。でもそのお金がないのだから。
自分がもっとお金を稼いでいるような立場だったらもっと違うかもしれない。でもないものねだりの意味はない。今ある武器でやるしかないから。
『知ってるわよ。だから稼げばいいのよ』
「…………」
『あたしが何を言いたいか、わかる?』
わかる。でも、口に出すのは流石に迷った。
この死神は、まず私にデスゲームに参加しろと言っているのだ。
「……ご気分を害されなければお聞きしてもいいですか」
『いいね、そういう態度好きよ? 何故自分に連絡がきたのかってところかしら』
読まれている。
絶対にないとは思っているけれど、もしかして盗聴器とか監視カメラがあるんじゃないか。周りをきょろきょろと見る。
こんな映画の中での世界のようなことをしているらしい死神だったら絶対にないとは言えない。
『残念、カメラも盗聴器もないから安心して』
「…………」
その反応でどう安心しろというのか。
『マイク越しでも首を動かしたのくらいわかるわよ』
最早どこまでが本当のことなのか、どこまでが嘘なのかわからない。
唯一つ、死神にペースを握られている。それはよくわかる。
『全く、半年以上よくもまあ毎日復讐することばかり考えられたわね。流石のあたしでもそんな執着心はないもの。アドバイスだけど、身元が繋がるもので検索するのってリスクが高いわよ』
……つまり、携帯の履歴から私が復讐を考え続けていたことが筒抜けだったと。
だが、リスクが高い代わりに今回こうやって死神から連絡がきた。
『デスゲームってショーにみたいなものだからやっぱり見栄えも大事なのよ。特にあなたはお人形さんみたいで問題ないし』
こちらの名前も当たり前だけど、見た目も知っていると。
人の携帯の履歴を調べられるその技術もそうだし、まるで小説とか映画みたいな組織かもしれない。
「参加します。そのお金で恵を殺した奴らに復讐すればいいってことですよね」
私の恵みのためだったら命だって賭けられる。
もしも復讐心が薄れていたら、自分の命を賭けてまでできなかった。
でも、自分ではどうしようもなくて、自分の命を賭けるだけで大金を得られる。それで奴らに復讐すればいい。
『正解。やっぱりあなたに声をかけてよかったわ』
「…………死神さん」
『何かしら』
「それはいつやるんですか」
電話越しで何かキーボードを叩く音が聞こえる。
最近の死神は現代的になったものだ。
数秒繰り返された後に、口笛が聞こえた。
『まだ秘密。でも良かったわね、半年以内。卒業までには間に合うわね』
……どこまで知っているのか。
ここまで行くと恐怖よりも素直に驚きが隠せない。よくドラマで探偵みたいな人が色んな情報を調べてくるけど、そんな感じかな。
『あたしからの連絡はこれで終わりだけど、後々一回か二回は誘拐されるからよろしく』
「誘拐?」
『一応これはあたしたち側のルールで、参加者を全員面談してるのよ。面倒だけど宜しくね。面談にはいけてる男が来るから、詳細は彼に聞いて』
それ以上私に質問させず、電話は一方的に切られる。
残されたのは電話片手の私。
もしも着信の履歴がなければ、この数分は全て夢だったみたいに。
……でも、事実として携帯には非通知の連絡が来ていた。
母さん曰く、その日から私は元気になったらしい。
そう、生きる目的ができたから。




