第三十五話 執念深き復讐者①
絶対に許さない。絶対に。
涙も出なかった。いや、参列するときには既に枯れていた。どれだけ泣いたかもわからない。学校にもいけなかった。それくらい泣いた。
「美琴ちゃん、大丈夫?」
全然私よりも大丈夫ではないおばさまが声をかけてくれる。
喪服に身を包み、元々痩せていたおばさまは枯れ枝のように細かった。
多分、私と同じだったんだろう。悲しみに暮れていた。
「ごめんね、仲良くしてくれてたのに」
「…………おばさまが悪いわけではありません」
なんで謝るのか。絶対に悪いわけがない。
悲しみよりも怒りが込み上げていた。恵を殺した奴らに対して。
清川恵は私の大親友だった。
でも、つい数日前に死んだ。首吊りだった。
怒りで拳が震えていた。でも、多分怒りを抑えられるのは、もっと怒るべきその人がここにいるからだ。
「ありがとね、来てくれて」
原因は虐めだった。
恵は私と同じ茶道部だったけれど、コミュニティは狭くて内気な子だった。クラスの女子のグループには馴染めず、除け者にされていた。
私は知らなかったけれど、物を隠されたり盗られたり陰湿ないじめをされていた。
言ってくれれば何か私も手助けができたのかもしれないのに。
許せない。私の親友を死に追いやったやつらを。
恵の遺書には殺すべき、憎きクラスメイト達の名前が書いてあった。
当たり前だったけれど、憎き奴らは参列には来ていなかった。
私からしたら、担任も同罪だ。
気が付けなかった私が原因だろうけど、担任は絶対に虐めを認めなかった。
許せなかった。絶対に。
殺してやる。
絶対に殺してやる。絶対に絶対に絶対に殺してやる。
心の中で誓っていた。
「……美琴、大丈夫?」
葬儀が終わった帰り、母さんが恵のおばさまと同じように私を心配する。
多分、私は大丈夫ではないのだろう。
喪服を脱ぎつつ、鏡で自分の顔を見る。
腫れぼったい顔、乱れた髪。誰がどう見ても大丈夫ではない。
こんな見た目だったら深夜に道で遭遇したら通報されるかホラー扱いされる。
「大丈夫、明日からは学校に行くから。ごめん、母さん」
「恵ちゃん、いい子だったのにね……」
うちにも何回も遊びに来ていたし、母さんも気に入っていた。
でも虐めが原因だということは告げられなかった。告げたところで意味がないだろうし母さんに無駄に負担をかけられなかった。
ただ自殺したという事実で大体わかるのかもしれない。
部屋に戻った私は迷わなかった。
どうすれば私の親友に復讐できるか。それだけを考えた。
復讐すべき人間は十人弱。
どうすれば効率よく殺すことができるか。いや、殺すのは生ぬるい。どうやって後悔させてやるか。
ただの女子高生の自分に何ができるのか。
虐めを調べ上げてマスコミにリークすることも少しは考えた。
でもやめた。
ネットで調べれば虐めによる自殺はいくらでもあった。
ただそのうちの一つと処理されるのが関の山だろう。
では私刑にする?
……ただの女子高生に? そんなことができるの?
ネットで調べてもあまりいい案は見つからない。
一人だけなら殺した方が簡単なんじゃないかって思えるくらいに難しい。
主犯一人くらいなら道連れにできそうだけど、それでは足りない。全ての人間を絶望させなければいけない。
「……明日、学校行きたくない」
行ってあいつらと挨拶しなければいけないその事実が耐えられない。
でも、多分私は平然とできるんだろうね。
気が付かなかったとはいえ、恵の変化を見つけられなかったんだから私もあいつらと同罪だろう。
いつか、全員を地獄の底に送ったら私も罰を受けるべき。
それでも、まずは人を地獄に落とすところから。
どうやるのか。
どうすればいい? わからない。誰にも相談できない。
こんなことを考える私はおかしいのか。
恵は私の親友。それだけは変わらない。
私の大事な友達。
それを殺すなんて死んでも許さない。
明日からやつらに復讐するために。
明日から偽の笑顔を浮かべるために。
まずはもっと平静を装え。
気持ち悪い笑顔で近づいてくる奴らに気づかれるな。
味方のふりをしろ。絶対に気取られるな。
「美琴、ご飯作ったけど、食べれる?」
真っ暗闇の中で考えていた私に、母さんが声をかけてくる。
全然食欲はわいていない。
でも、復讐するためには何か食べた方がいい。吐いてでも食べろ。
私は静かなる闘志を、静かなる復讐を胸に秘める。
「……今行く。食べるよ」
絶対に許さない絶対に許さない絶対に許さない。




