第三十一話 狂人の集い③
会議はすぐに終わらせ、職員たちを職場に戻していく。
残ったのはチーフ三名。
非常にばつが悪そうな表情をしているのが二人。そして無表情が一人。
「本当に申し訳ない。まさかいきなりつけるだなんて思わねえよ」
「そうですか? 開発部門を信用しているだけですよ」
それは嘘。
「火薬抜いた状態で一応同じ重さにしたつもりだったのだけれど」
「どうでしょうね、他にも違う要素はありそうです」
わからないが、感覚的には俺がつけたことのある従来品よりも重かったのは確かだ。
それか完全に鋳型が違うせいでそう錯覚させられるだけかもしれないが。
「無駄な会議時間が本当に不毛なのでこれっきりにしておいてくださいね」
二人とも頷く。
何故俺をそういう目で見るのかは知らないが。
「特にあなた方が対立するのは一番無駄ですから」
「……まあそれはそうね」
「悪かったよ」
そして白鳥の携帯が鳴り、彼女は立ち去った。
俺と鴇田はそれを見送った後、会議室のテーブルや椅子を片付け始める。
「お前な、無茶しすぎだろ。いやまあ仲裁を頼んだのは俺だが」
「別に無茶ではないと思いますよ。死ぬならそれはそれですし」
表情は動かない。
もしもこれから殺される、と言われたなら多少身構えるかもしれない。
だが、不発弾を持っているというだけであればそこまで怯えることもない。死ぬときは何をしても死ぬのだから。
特にこんな職業をしていれば闇討ちにでもいつか遭うだろう。
「……小鳥遊、お前が少し怖いぞ」
「そうですか?」
よくわからない。
鴇田が何を言いたいのかがわからない。
「流石はうちのエース様ってことか」
「残念ながらうちのエースは飛谷ですけどね」
俺よりも大事なのは飛谷だから訂正しておく。
恐らく鴇田もそのあたり知っているのだろうがお世辞を言ってくれている。
「飛谷……ねえ。俺あんまり接してないんだよな。あいつお前にぞっこんだろ。あんなに美人なんだから結婚でもすりゃいいのに」
何をご冗談を。
俺に対して嫌がらせしてきて来ないあの女とどうして結婚しないといけないんだか。
俺は曖昧に笑う。
「お暇なら一緒に飲みますか? 今日うちに来ますけど」
「断っておくわ。お前がどこまで本気で言ってんのか知らんが、俺の知ってる範囲ではあいつはお前としか飲みにいかねえからな」
飛谷についてどこまで詳しいかは知らないが。
鴇田は邪魔をするつもりはねえよ、と続けた。何の邪魔なんだか。
「……お前ら、ほんとは付き合ってんじゃねえのか?」
「そう見えます?」
「見えるからそう言ってんだろ。逆にどうしてそう見えねえと思うんだ」
「……俺と飛谷はそんなんじゃないですよ。強いて言うなら」
俺は言葉を探す。
どんなのがいいだろうか。
鴇田にもわかりやすい言葉でどういえば良いか。
仲間……とは違う。友達のわけはない。
「悪友ですかね。それか戦友?」
「なんだそりゃ」
残念ながら鴇田には伝わらなかったようだ。
伝わらないならそれはそれでいいだろう。
「お前らの代は二人しか残ってねえから仲がいいのはいいことだが、戦友ねぇ」
俺たちの事情を知らないから仕方ないだろう。
別にそれを説明する気にはならないし、鴇田も興味はないのだろう。
「鴇田さんの同期入社なんてもういないでしょう?」
「……それはそうだ。残るやつは少ないな」
だが、と鴇田は呟いた。
恐らく俺の同期は入社一年も経たずに全滅している。
「ではまた今度芝原を借りてますね」
「……寂しくなるな」
「五月蠅いのはいないほうがいいと思いますがね」
「……それもそうか」
俺と鴇田は別れる。ふぅ、疲れたな。
「あら、高時遅かったじゃない」
「……遅かったも何も約束もしてねえだろ」
オフィスに帰ると、また飛谷が邪魔しに来ていた。
完全に邪魔しに来ている。
今回は俺に知らせる社員はいなかったものの、その空気感で流石にわかる。
明らかに男どもが色めき立っているし、女どもは嫉妬の雰囲気だ。
「早めに戻ってこれたから会いに来ちゃった」
「……普通に勤務時間内だから邪魔すんなよ」
ブースの中には俺と飛谷の二人。
流石に前回と違って勤務時間じゃないからか、くっついてくる気もなさそうだ。
俺はため息をつきながら、飛谷の為にコーヒーを淹れる。
「ありがと」
邪魔をしないなら文句はない。
そして飛谷は俺の仕事が終わるまでソファに座りながらのんびりとコーヒーを飲み続けていた。