第二十四話 勝ちに拘る男性④
男は枯芝と名乗った。
「ある会社で人狼ゲームが行われる」
聞いたことはある会社名だったが、その話は初耳だった。
そもそもそんなゲームを運営する会社ではないはずだ。
「そしてそこでは命を賭けて行われる。つまり処刑されれば死ぬ」
……何?
ソファに座りながら項垂れている男。つまり、この男の発言を真実だとするならば、この男はデスゲームで生き残った者ということだ。
「すまんな、酒に酔ってコメントしたのはそのことなんだ」
「お前、そのゲームに勝ったということか?」
男は狼狽する様に目を伏せ、黙って頷いた。
「二年前の話になる」
それまで枯芝はギャンブル好きの会社員だった。
ギャンブルに金を投じては負け、借金地獄になっていたところをある女が現れたことで世界が変わった。
「そこではな、部屋に十一人の人間が集められ生死をかけたデスゲームが行われた。俺はな、ギャンブルの腕は二流だったんだが、人狼の腕は結構一流だったんだぜ?」
枯芝はあるユーザー名を口にする。
それは流石の俺でも知っているようなかなり強い名前だった。勿論今は俺よりも下のランクに位置しているが。
いや、と俺は思い返す。
そもそもここ数年そのユーザーがログインしておらず、掲示板では死亡説も出ていた。
「お前がそのプレイヤーというのか」
「ああ、だがな。あの人狼ゲームは人狼ゲームじゃない」
そこまで言って言葉を止めた枯芝を見ると、完全に表情は青ざめており両手が震えていた。
「……俺はな、何もできなかった」
「……何も?」
向かいに座っていると如何にこの男が怯えているのが分かる。
「お前、人を殺したことは?」
「……あるわけないだろ」
「…………つまり、そういうことだ」
何がそういうことなのかはわからない。
「二日目でな、半分くらいは正気を失った。誰が味方で誰が敵かもわからないんだ」
そもそもそういうゲームだったが、多数決で自分が入れた者が死ぬ。次の日までに無差別で誰かが死ぬ。
そして、殺した犯人と一緒にいる。その事実に耐えられなかったと続ける。
「勝ったら何が得られるんだ?」
「……金だ」
その答えを聞いて、俺は落胆した。
正確にはその答えについてつまらないと感じてしまった。
たかだか金のためか。この男もしょせんそこら辺の虫けらか。
「おい枯芝」
「な、なんだ?」
「そのゲームに参加するならどうすればいい?」
俺は一生のこの間抜け面を忘れないだろう。
あまりにもアホみたいな顔をしていた。
俺は滑稽で笑ってしまった。
「お、お前、本気か!?」
「俺は人狼プレイヤーの頂点だ。俺が負けるわけないだろう」
「…………」
絶句している。目の前のこいつは虫けら。天才の俺のことなどわからないだろう。
俺はな、退屈なんだよ。
ついこの前、人狼でランキング一位になった。
次にやることがなくなっていたわけだ。その中で知らされたデスゲーム。
この俺が天才であると示すにはこれが一番なんじゃないか?
命がかかっているならば、より俺の天才性が際立つのだから。
「す、すまん。わからない。どこかから急に連絡を取ってきた」
枯芝は俺をまるで変な奴だと勘違いしているようだ。
ふむ、どうするか。
これも金をかければどうにかなるだろうか。
枯芝からデスゲームについて追及したが、少し話して奴は真っ青な顔で冷や汗をあふれ出したため一度止める羽目になった。
わざわざ遠出した俺の時間を無駄にしやがって。
そして次に枯芝という名前を見たのは、俺が自宅に帰ってから数日後だった。
『本日未明神奈川県横浜市で三十八歳男性が死亡しているのが見つかり、殺人事件と断定して調査を始めました。死亡していたのはこの家に住んでいた枯芝 孝之さん。自宅を訪ねてきた知人によって発見されました』
「…………」
枯芝という名前。
神奈川県、俺がついこの前言った場所だ。ニュースの映像も見たことがある。
……あいつは本当のことを言っていた。
つまり、これは口封じということか。
俺は自然と口を歪めていた。




