第二十三話 勝ちに拘る男性③
「くそが! 俺が正しいのになんでだよ!」
くそがくそがくそが!
なんで俺が負けなければなんねえんだよ!
カッとなって壁を蹴る。
いてぇ。
俺の人狼ゲームの初戦は散々だった。
俺の論理はすべて正しかった。だが、村人が理解できない。
俺の思考回路は完璧すぎる。だが、何故か人狼の思考回路に流されて正しい判断ができていない。
勿論嘘つきを論破することなど簡単だ。冷静に口調を荒げることなく、論理的に。
なのに……何故。
「なんで俺が殺されなくちゃならねえ」
俺の推理を聞いて反論できないから、俺の口調や語気について文句を言うことしかできない雑魚ども。
まともな人間であれば俺が正しいと理解できる。
……ふざけるな。
この俺が敗者だと? もう一度だ。
俺はこうして人狼ゲームにのめり込むようになる。
はっきり言ってすぐに勝てると思っていた。
俺は勝者だ。絶対に負けたくない。
「……虫けらに思考を合わせなくてはならない。奴らでもわかるように論理的に、短時間で」
ゲームに費やしている間に俺は大学を卒業していた。
片手間に株取引で金を稼ぎ続け、親だった者との音信はたった。俺も同類に思われたくないからだ。
大学をどこにしようかと考えたとき、文字通り適当な大学にした。
どうせ俺は株で一生生きていける金を手に入れたのだから。
今の俺は人狼ゲームにはまっている。
はまっているというと語弊がある。この俺が虫けらどもにゲームにのめり込むわけではない。
このゲームで勝者になればもう辞めるつもりだ。
俺は天才だから。
「……長かった。これで俺が一位だ!」
時間はかかったが、とうとう俺は人狼ゲームにおけるレートの一位となった。
虫けらどもの中には多少話が通じる奴らもいたが、それでも大半が俺の足を引っ張る連中だった。
如何に足を引っ張られても、完璧に勝てば一人でも勝てることがわかった。
「ふん、良い暇潰しになったな」
気が付けば一年以上プレイしていた。
その間に俺の金は更に膨れ上がっていた。
ふむ、俺のユーザー名である『uetaku』がどこまで神として崇められているか調べてみるか。
俺はネットで人狼掲示板を見る。
虫けらが匿名で一部の勝者を僻むサイトだ。
ここで批判されるということは他の皆が僻んでいるということだ。
概ね俺を崇める内容と、口調について文句を述べるような僻みだった。
満足しながら見ていると、一つだけ気になるコメントがある。
「……なんだ、これ?」
『こいつにあのゲーム参加してほしいわ、勝てたら本物だろうが』
……あのゲーム?
あのゲームとは何なのか。
だが、誰も知らないようだ。
正直興味から始めた勉強で全国一位にまでなった天才の俺だ。
これは気になる。
勝てたら本物。勝てなければ俺は偽物か?
だが、あのゲームというのは何のことなのか俺にはわからない。
金をかけてバイトを雇い、調べさせる。
あのゲームという唯一つのヒントから辿り着けるかはわからない。
だが、金さえかければ何でもできる。そもそもコメントした奴を探せばいいだけだ。
「あのコメントはどういう意味だ?」
俺はコメントをしたやつの家まで乗り込んだ。
「お、お前が『uetaku』か?」
「そうだ。お前が俺を煽ったんだ。これで嘘とは言わせんぞ」
男は高級マンションに住んでいたが、ひどく物は少なかった。
そして常に周囲に怯えるようなひどく歪な男だ。
男もまさかこの俺が来るとは思っていなかったのだろう。
「お、おい。ちょっと身体検査をさせてもらえないか?」
「は?」
意味が分からない。この男が何をしたいのかがわからない。
だが、尋常ではない様子を見て俺は従うことにする。俺からしたらこの男の行動などどうでもいいのだから。
カバンの中、服などしっかり調べられた後、男はほっとしたように腰を下ろした。
「……はぁ、大丈夫そうだな」
「何が大丈夫なんだ、早く説明しろ」
開いている窓を閉め、昼間なのにカーテンで入念に部屋の中を外から見えないようにする。
再度家の鍵を確認し、その上で俺は地下室に通される。
移動する前に電子機器類を全て金庫にしまうように命令される。
この男、歪すぎる。
そもそも三十代半ばで一人暮らし。
一軒家で地下室まであるものの、独身で何かに怯えているような生活。
まるで犯罪者のように見えるが、それだったらそもそもこの一軒家に住むか?
「悪いね、多分『uetaku』。お前から見たら俺はひどく気味が悪いだろう」
「そうだな。お前は歪だ」
地下室の鍵を閉める。
「これは絶対に他の人に話してはならない。この意味がわかるか?」
「わかるわけがないだろ。さっさと説明しろ」
俺は興味が湧いていた。
この男、何に怯えているのか。そしてそれがこれから聞く話ともつながるんだろう。
「……デスゲームって知ってるか?」
「ん? ああ。命を賭けてやるゲームのことだろ? 殺し合いだったり脱出ゲームだったりする。映画や漫画で見たことがあるな」
元々小声で話していた男は、更に声を小さくした。
「…………実はな、実在する」
「は?」
こいつ、何を言っているのか。
だが、決して嘘をつくような雰囲気ではない。いや、そもそも嘘をつく意味がない。
「俺はな、そのデスゲームの生き残りなんだ」