第二十二話 勝ちに拘る男性②
高校受験を控えていた時、両親は俺を呼んだ。
「拓也、高校についてどうする? 私たちはお前の意見を尊重しようと思っているが、大学までは出てもいいと思うが」
「じゃあ適当な高校でいいや。別に高校でも学ぶことないだろうし」
恐らく俺はもう大学レベルを超えていた。
高校へ行く意義を見出せなかった。天才の俺に虫けらと同じ枠に収められても困る。
「そうか、わかった」
「一応県内のレベルで一番高い場所に行くかな。もしかしたら話が通じる奴がいるかもしれないし」
俺は同年代を下にしか見られなくなった。
事実として下だった。
全国模試で数回負けたことはあった。だが万全の状態では俺が負けるはずもなく、俺が文字通り日本一と言っても過言ではなかった。
俺は天才だ。
だからこそ高校に行く必要はない。
少し前、自称担任が一度だけ奇妙なことを言っていたことがある。
「お前、学校に来ないと友達もできないんだぞ?」
友達?
友達というものは生きていくうえで必要な物なのか?
電車に乗ったら隣にいる奴と何が違うのか。
俺がそう聞くと、男は口籠った。
「友達の必要性はどこにあるんですか?」
「いや、え、えっと、悩んだ時に相談に乗ってもらえるし、一緒に遊べば楽しいだろ」
悩みは自分で解決できるし、上辺だけの同情など必要ない。悩みを周囲にばら撒かれる可能性もある。
一緒に遊ぶ相手であれば友達である必要もない。今はネットも発達しているのだから。
やはり、無駄だ。
恐らく友達という言葉は、虫けらどもが互いに馴れ合い傷をなめ合うためのものだ。
俺は高校には殆どいかなかった。
この日本の教育システムが糞ということもあり、出席日数という無駄があった。
何故俺がこんな無駄なことをしなければならないのか。
それならばもっと有益なことができるのに。
俺はこの頃株式に興味が移っていた。
勿論俺はまだ未成年でこの株式投資というものは出来ないのだが、母親に興味を持ったことを告げると自由にやらせてくれた。
元々俺の家は金に困っていない。
お小遣いから始めた株取引。
「……つまんねぇ」
つまらなかった。
始めはシーソーゲームのように勝ったり負けたりした。
だが、途中から俺の勝ちが積み重なるようになった。
そうなるとお小遣いは何倍にも膨れ上がった。
勝ち続けるということはつまらない。
別に負けたいわけではないが、こんなの誰がやろうが金が増えるだろ。
寧ろ何故金を増やせないのか、俺には理解できなかった。
そして半年後、俺の金は何億にもなっていた。
通帳を見た両親は流石に驚いていた。
そしてその表情を見た時、俺は知ってしまった。
ああ、自分の両親もこの程度だったのかと。
ずっと自分の生みの親だから見る気はなかったが、所詮はこの二人も同じなのだ。
天才ではなかった。俺のことをわかっていなかった。
ひどく冷めたような気がした。
そしてその金で俺は出席日数を買った。何百万かちらつかせればすぐに成立した。
学業面も金銭面も俺は完ぺきだった。
……でも何故だろう。俺は満たされない。
自分が熱中できるものはないのか。
この頃になると俺は天才ではあるが、肉体面では他の人に負けることは知っていた。
頭が悪いのだから身体を動かすくらいやってほしいものだ。俺はそう思った。
だから俺のこの天才的な頭脳を活かして凡人を見下せる何かを俺は探そうとした。
たいていのゲームでは俺が勝ってしまう。
たまに負けるとしても俺は勝つまで学習し、そして最終的には打ち負かしてきた。
金もあるのだからハイスペックなパソコンは買った。
オフラインの一人でやるゲームは満足感が得られないため、誰かと対戦できるゲームを好み続けた。
「くそが、ラグが出てんじゃねえか!」
格闘ゲームはつまんね。技が出るはずなのにラグかよ。
くそが、こんな虫けらになんて普通負けねえだろ!
俺はコントローラーを投げ捨てる。
くそ、また新しいの買うか。これは俺が負けたわけじゃない、コントローラーが悪い。
運ゲーもつまんねぇ。
こんなの勝つ奴が始めから決まってんだろ。天才の俺を勝たせないために仕組んでろこれ。
偶然俺が辿り着いたのは
「人狼ゲーム?」
村人と狼に分かれて行われる頭脳、心理ゲームだった。
ルールはすぐに理解できる。そしてこのゲームの勝ち方を理解した。
つまり、相手を言論で打ち負かし、狼を吊ればいいということ。
自分が人狼であれば、相手の言動を論破して村人を吊り押せばいい。
俺が正しさを証明するのは簡単だ。
あとはそれを周りの虫けらたちにもわかるように説明するということ。
俺の頭脳があればこれも簡単だ。
そう思っていた。始めるまでは。