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第二十一話 勝ちに拘る男性①

生まれ落ちてからずっと俺は勝者でいた。

 一時的な負けはあったとしても、最終的には勝ち続けていた。自分が本気で挑めばどんなことで勝ち続けられると思っていたし、常に勝ちを示してきた。

 

 俺は勝ち、他の周りは負ける。それだけは自明だった。



 生まれは福岡。

 俺は弁護士の父親と医者の母親の間に生まれた。


 生まれてからずっと何不自由のない生活だった。

 勿論金に困るような家庭ではなかったし、両親からの愛もしっかり受けた。


 そして何より、俺には才能があった。

 ピアノを弾けばすぐに上達したし、ヴァイオリンやサックスなどもすぐに習得した。スポーツもできたし、勉強もできた。両親は俺にあれこれ与えてきた。


 小学校に上がる頃、俺は既に中学の勉強を終えていたらしい。

 別にそれを意識したことはなかったし、ただその時は読書にはまっていただけだ。


 両親は俺を関東の名門校に進学させようか悩んでいたようだが、俺からしたらどこにいても勉強や芸術はできる。

 だから無理して進もうとも思わなかった。



 周囲は俺を天才と呼んだ。


 テストはケアレスミスを除けば殆どが満点だった。運動もできるし芸術にも秀でている俺のために天才という言葉があるようだった。


ただ、俺は凡人の気持ちがわからない。

 そもそもテストというのは勉強ができないやつのためにある。何故か何度勉強しても覚えられないものの為にテストということで復讐させているのだ。


 知っている知識の再確認をしたところでそれ以上知識が増えるわけではない。俺には全くの無意味に感じられる。



 小学校の頃、俺の周囲には常に人がいて皆が俺を褒め称えた。

 俺の気分は悪くなかったし、全ての人間が下に見えていた。


 だが、中学に上がる頃、それは異質に変わった。


 俺がどんな成績を取っても、周囲の人間は気持ち悪そうに俺を見つめるだけだった。

 そしてこう言うのだ。


「あいつは天才だから」


 天才だから?

 天才だから俺はテストで満点取れるのか? スポーツができるのか?


 そういう発想だからお前は凡人なのだ。

 俺は努力を見てきていない。ただ突っ立っているだけで天才になれるとでも思うのか?



 そこ初めて俺は天才という言葉を理解した。

 天才という言葉は凡人である虫けらどもが、全く歯が立たないときに自分の言い訳にするために用いられる言葉なのだと。


 俺は紛うことなき天才だ。

 それは周囲のレベルを見れば分かった。


 日本ではこの年齢では大学に受験することはできない。

 勿論入学することなどできないが、俺は日本で一番レベルの高い大学の合格ラインをすでに超えていた。



 俺は中学に入ってから一人だった。

 まともに会話が成り立つ奴はいなかった。全てが虫けらだった。


 もしかしたら関東に出ればもっと俺と話すことのできる奴はいたかもしれない。だが、福岡にはいなかった。



 よくよく考えたら、何故学校に通っているのか疑問に思った。

 別に学校で習うものなど存在しない。


 俺達よりも無駄に年を食っている教師どもが無駄に時間をかけて虫けらの為に無駄な授業をしている。



「拓也、学校に行かなくていいのか?」


「行く必要がなくなったよ、父さん。それなら自分で学んだ方が楽だ」


 両親は天才の俺を尊重していた。

 俺が虐められていると勘違いしていたかもしれないが、別にどちらでもいい。


 俺から言えることとしたら、同じレベルの人間は近くにいなかった。


 一応両親を心配させないため、全国模試だけは受けた。

 ずっと全国で一位だった。



 気が付けば俺はずっと家にいた。

 世間ではこれは不登校だという。俺には理解できない。


 中学で学ぶべきことがないのだから、何故行く必要があるのか?


 義務教育なのだが、不登校がクラスにいるのは宜しくないと思ったのか、担任を名乗る男が何度か家に来た。



「植村、なんで学校に来ないんだ? みんな待ってるぞ?」


「……逆に聞きますけど、何故学校に行かないといけないんですか?」


 みんなが待っているというのは確実に嘘だ。

 そもそも別に俺が待たれたいとも思っていないからどうでもいいが。


「何故って」


「そんなことも説明できないのにここに来たんですか?」


 言葉に詰まった自称担任を見て、俺は呆れた。

 本当に何しに来たんだ。こんな低レベルの奴しかいないから学校に行く必要がない。


「もう少しまともな説明ができるようになってから来てくれません? このあなたに会う時間が無駄なんで」


「おま」


「そろそろ帰ってください。俺はあなたほど暇じゃないんですよ」


 自称担任は俺の隣にいる母親に視線を送るが、俺の味方であることにも気が付いていない。

 そもそも俺の母親はあんたらみたいな学のない人間ではない。


 それから自称担任は何度か来たが、それ以降俺は家に上げることはなかった。


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