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第二十話 天才の狂人③

「なんでそう思うの?」


「何となく」


 というより、俺よりも忙しいやつがそんなくだらないことのために昼休み来るとは思えないから。



「社内で金をネコババしてる人がいるって聞いたけど、誰か知ってる?」


 俺はぴたりと手が止まった。

 だが、止まってしまったということは既に奴に勘付かれたということだ。


 失敗した。こいつは基本会社にいないから油断していた。


「……流石に俺じゃないぞ」


 辛うじて紡ぎだしたのそんなくだらない一言。



「高時がそんなことするわけないでしょ、その情報が知りたいだけ」


 俺が何か知っていることを勘づかれた時点で俺の回答は決まっていた。

 下手に誤魔化しても無駄だな、これは。


「上から無駄に広めるなと言われている。以上」


「えー、ちょっとくらいいいでしょぉ? あたしの身体触っていいから」


 胸を寄せるな。

 だが、と俺は思案する。こいつは興味がないことにはとことん興味がない。

 こいつが気にするということは何か社内の横領事件に興味がある?


「その情報をどう使う? 俺はそれに興味がある」


「どう使うも何も、次回のデスゲームに参加させようかなって。それまで生きてたら」


「…………」


 俺は狂っていると思っていたが、こいつも中々に狂っているようだ。社内で横領していた人間をデスゲームに参加させようとする発想は常軌を逸している。

 瞬き一つしないで見つめてくる飛谷は、俺の微細な表情の変化、息遣い、動作から全てを把握しようとしていた。



「お前の中でデスゲームに参加させる基準はどうなってんだよ」


「別にいいけど。壊れかけている人かこれから壊れそうな人。基本的に参加させたくないのは既に壊れている人」


 話題を逸らそうとした俺の意思を汲み取ったのか、飛谷は話に乗る。

 俺が絶対に何があっても口を割らないことを知っているんだろう。



「全員が壊れそうな人で構成すると偶然の一つで全て瓦解する可能性があるから、受け皿になりそうな人間も必要なわけ」


 それをどうやって見極めているかは聞かない。どうせ聞いてもわからない。

 わからないからこいつが重宝されているわけだし。


 参加者の大部分をこいつが決めているわけだが、他の拉致されるメンバーとどうやってバランスを調整しているのかはよくわからない。



「あ、そうそう。今回、一人すんごい受け皿になりそうな優良物件がいるわよ」


「そんなやついたか?」


 俺は今まで面談した参加者を思い返す。

 どちらかというと壊れそうな人間が大半だった。壊れかけている人間と区別ができない。



「まだ面談していないはずだけど、花坂(はなさか) 美琴(みこと)っていう都内の女子高校生」


 俺は食事の手を止めて、訝し気に飛谷を睨んだ。

 デスゲームの参加者には基本基準はない。


 そもそも俺たちの企画するデスゲームに合う面子であれば問題はない。

 可能であれば、スポンサーたちに受けそうな見栄えのいい若い人間がいい、その程度の認識だ。


「お前、高校生を混ぜたのか?」


「あれ、ちゃんと書いてたけどもしかしたら書き間違っちゃったかな…………ごめんなさい」


 ……こいつ、その高校生をいれるために年齢を誤魔化したのか。

 そして俺は察した。この事実はいずればれる。だからそれを謝りに来たのだ、俺がその花坂美琴に会う前に。


 俺は基本的に高校生以下は除外するように言っている。


 理由は簡単で、高校生以下の多くは家族とともに暮らしており、デスゲームのために何度か招集しなければならない以上こちらのリスクが高まる。

 若い人間を使うことはスポンサーの受けとしてはいいのだが、そもそもこの会社の所業が世間の明るみに出る方が危険だ。ハイリスクハイリターンである必要はない。

 ローリスクハイリターンのような人材もいるわけだ。借金のある見た目のいい木本みたいなのがいい例だ。



「虚偽記載については悪かったと思ってるけど、絶対に高時も気に入るわ」


「巨乳なのか?」


「えっと、それは違うけど。ごめんね」


 いや、冗談だから真面目に反応するな。

 俺がすごく滑ったみたいじゃないか、まあ滑ったんだけども。


「あんまりあたし、壊れている人って選ばないんだけど。そのあたしでも選びたくなるくらいぶっ飛んでるから」


「お前が言うのか」


「あたしが言うから意味があるんでしょ? それは高時もおんなじだけど」


 この女がそこまで言うとは興味が湧く。

 今までにそこまで言われる参加者は見たことがない。



「……スカウト部門に言っておく」


「ありがと、あたしが言っても弾かれそうだし」


 偶然、花坂美琴が最後の面談者になるわけだが楽しみは最後にとっておけるわけだ。




「さ、行きましょ。午後からあたしまた移動しないといけないから」


「お前な、俺がまだ残ってるのにそれを言うか」


 やれやれ、食事が半分以上残っているが諦めるしかないか。

 仕方なく会計を頼む。


「高時ったら奢ってくれるの?」


「当たり前だろ」



 俺はいつも通り抑揚のない声で言う。






「お前の管理という名目では経費が落ちるんでな」


 この会社では飛谷絵梨の名前を出せば何でも経費で落ちる。

 後々知ったが、これが七不思議の一つだった。


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