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第二話 迷惑な後輩①

 オフィスでプレゼンの内容を再確認する。

 万が一にでもミスがある場合には、すぐスポンサーに訂正を出さなければならない。


「……疲れた」


 携帯の通知がかなりの数になっていたが、その差出人を見た時点で俺は無視を決め込む。

 構う暇はない。


 会社のサーバーを使って、他部門のチーフたちに連絡しておく。

 無事にデスゲームの開催が決まったこと、日時や場所。それまでにやらなければいけないことなど事務的な内容全般。


 デスゲームを開催する上では、勿論俺がチーフを務める企画運営部門は最もウエイトを占めているが、他の部門も全て協力しなければならない。命がかかっているのだから当たり前だが。

 特に重要なのは参加者を選別する参加者管理部門、そして当日誘拐して会場まで連れてくる機材物資運搬部門だ。



 人道を外れた催し物をすることで成り立つこの会社では気を付けなければいけないことが多い。

 だからこそストレスがたまる。ただその代わり金の羽振りがいい。

 入社してからまだ十年も経っていないが、恐らく同年代と比べて十倍前後の給料をもらっているわけだ。



 時刻は十時を回っていた。

 流石にそろそろ自宅に帰りたくなってきた俺は、専用のブースを出て鍵をかける。


 秋口に近づいてきた都内は少しずつ過ごしやすくなってきたが、まだまだスーツの上着を羽織っていては暑く感じられる。



 俺はネクタイを緩めて、上着を脇に抱えて人通りの少ない道を進む。



 その間も携帯の通知は増えていくが、俺はげんなりとしながら全てを無視する。

 通知の殆どが今最も会いたくない男ナンパ―ワンの部下からの連絡で、最早彼女なんじゃないかというレベルで連絡してきやがる。


 普段でも忙しい時は殆ど無視するし、今日のように疲れている時も当たり前で無視する。


 それでもめげずに連絡してくるこいつは恐らく普通の感性を持ってないようだ。





「タカさん、遅かったっすね」


 だからこそ、こんな夜にも関わらず俺の自宅の前で待ち伏せをしているわけだが。



「……芝原、何でここにいるんだ?」


 芝原(しばはら) 靖人(やすひと)。年は二十七歳。大学時代俺と同じサークルの二つ下の後輩で、社会人になっても部署は違うものの会社の部下だ。

 平均を余裕で上回る高身長に、同性でも惹かれてしまうような整ったパーツに屈託のない笑顔。髪を金髪にしてちょんまげを模っているという点を除けばホストと言われても納得ができるようなイケメン。それが芝原だった。


 社内の女性からも一目置かれており、結構モテるらしい。俺からしたらどうでもいい情報だが。



「いやいや、タカさん! めっちゃ連絡したじゃないっすか!」


 手に持っている携帯を、俺の前でぶんぶんと振ってみせてくる。

 そこで仕方なく俺は確認すると、芝原が飲みに行こうという旨の連絡を只管寄越してきていた。

 

「お前は俺の彼女かなんかか?」


「いやいや、タカさんに彼女なんていないじゃないっすか」


 別にお前に真面目な返答は求めていない。

 タカさんというのは芝原だけが使う俺の呼び方だった。小鳥遊(たかなし) 高時(たかとき)という韻を踏んだような名前のせいだ。


 この芝原という人間は非常に厄介で、見た目だけでなく性格もイケメンであり色々な人間を利用して数多くの情報を集めてくる。余計な情報も含めて。

 しかしこいつはデスゲーム会社における物資調達をメインにする機材物資運搬部門に属しているから全く使い道のない情報力だ。


 恐らく今日スポンサーに向けたプレゼンが行われることを知っていたため、わざわざ俺の家の前で待っていたのだろう。



「……お前な、同棲している恋人がいるのにサークルの先輩の家に夜来るとか正気を疑うぞ」


「大丈夫っすよ。奈緒美にはタカさんの家に行くっつったら許可は出たんで!」


 奈緒美というのは芝原の学生時代から付き合っている彼女だ。

 来年あたり式を挙げるという噂は聞いた。主にこいつが惚気ている間に知った情報だ。



「……日付越える前に帰れよ」


「お邪魔しまーす!」


 俺は面倒になって扉を開ける。


 ……やれやれ、うるさいのを家に招き入れてしまった。

 満面の笑みで俺の一軒家に侵入する後輩。もうこの光景に見慣れている俺は何とも思わないわけだが。


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