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第十九話 天才の狂人②

「ご、ご注文はお決まりですか?」


 店員は俺と飛谷を見て、一瞬息をのむように停止した。

 まず飛谷を見てその美貌に驚き、そしてその飛谷が何故俺みたいな一般人と一緒にいるのか、そんな感じか?


 見てくれは一級品だ。頭は超一級品だ。ただし他は不良品だ、完全に壊れてやがる。



「ほんと久しぶりね、半年ぶりくらい?」


「……一度電話しただろ。あとメールも」


 勿論全て仕事の案件だ。

 ただ、今の一瞬だけで言えば、まるで遠距離恋愛のカップルが久しぶりに出会ったみたいだが、断じて違う。決して違う。


「つれないねぇ、いっつも電話してるのに出ないのに。ま、それもご褒美みたいなものだけど?」


「……飛谷、本題を話せよ」


 基本的に俺への嫌がらせに注力する狂人だが、それでも普段全国を飛び回っているこの女が理由もなく俺のところに来るはずがない。

 というか理由もなく頻繁に来るなら、俺はこいつをとっくに殺している。


 つまらなさそうに飛谷は頬を膨らませる。

 妖艶に反射する形のいい唇が開かれるまで、俺は黙り続ける。



「面談進んだかなって、流石にあたしの管轄なんだから把握しておきたいのよ」


 仕方なさそうに本題に入る飛谷。


「進捗はメールで送ってるだろ」


「未か済だけで何を判断すればいいのよ、これだから男ってやつは」


「いや、それは俺が悪かったかもしれないが」


 だが、半分前後終わっており、残り三人だったのはお前も把握しているはずだろ。

 心の中で反論したが、そもそもこいつ相手に反論は悪手だから口には出さない。


「どうせ今回もお前が選んでくれた奴らで確定しているから心配するな」


 飛谷はずば抜けて仕事ができる。

 もしも誰が退社したら困るかと言ったら、間違いなくこいつの名前を挙げる。それくらいデスゲームを運営する上で必要な人材だ。



「うーん、そういうことじゃないんだけど、もういいわよ。で、最近は誰か言ったの?」


 だからこそこの飛谷には特別な権限が与えられているし、社内でのルールは基本適応されていない。私服で出勤しても文句は出ないし、チーフが一番オフィスにいない状態でも皆納得している。

 ……というかオフィスにいない方がスムーズに回ると聞いたことがある。


「誰だっけ……あ、確か木本ちゃんだ」


「お前から聞いてた通り、確かに頭の回転は早かった。あれなら初日は生き残れるだろう」


「あー、やっぱり? 高時だったらそう言うかなって思った」


 飛谷は年齢よりも若く見られるが、それでも今は妖艶な年齢相応に成熟した表情だ。深すぎて俺には底が見えない。

 俺よりも一つ年上の今年三十歳。年齢相応というのが誉め言葉かは知らん。


「そう言うとは?」


「え? 死にそうだなーって」


 俺は一言も死ぬと言ってはいない。

 ただ、初日『は』生き残れそうと言っただけだ。


「高時、それちょーだい」


「……好きにしろ」


 俺のランチについているサラダを返答する前にとって食べる飛谷。

 返答の前に食べるなら聞くなと言いたくなったが、一言も言わずにいきなり奪われたらそれはそれでむかつく。


「代わりに一口上げる。はいあーん」


 ナポリタンを一巻きしたフォークを俺の口に問答無用に突っ込む。

 お前、俺が自分のランチを食べたタイミングでわざと突っ込んだろ、おい。


 傍から見たら食べ合いをしているように見えているが、俺たちはそんな仲ではない。


 俺は白米とナポリタンがまざって胃袋に流れるのを感じながら、頬杖をついて飛谷を見る。


「良い意味でも悪い意味でもまともだった」


「だよね、高時がそういう子欲しいかなって選んだから。それに加えて見た目は合格、知能も合格。ぴったりでしょ?」


 膨大な数のデスゲーム参加者候補の中から、基本的には飛谷が選択する。無数の資料、写真、情報から十名前後を選ぶというのは通常の人間では難しい。適当に選ぶのは難しいことではないが、俺の作った原案でのデスゲームに合いそうな者を見繕うのは非常に難しい。というか飛谷にしかできない。


 俺とデスゲームのイメージを共有した状態で、尚且つ大量の参加者の組み合わせを作り上げるのは正気の沙汰ではない。


「特に麻空が好きそうだしな」


 飛谷は麻空とは面識がないが、何度かスポンサーの好きそうな特徴は教えている。恐らくこいつもそれを意識して選んでいるはずだ。



「まな板だから高時の好みじゃなかったわね」


 無言を貫く。何を言っても無駄だろう。


「さっき言おうか迷ったが、参加者については元からお前の名簿通りに通すんだから進捗を聞く必要はないだろ」


「高時はあたしを信用しすぎ。いい加減一回くらい突っぱねてもいいのに。そのためにあたしがいるんだよ?」


 何をおかしなことを。


「そりゃ信用するだろ。お前の選ぶ目と頭脳は正確だ。俺以上に正しいのに何故突っぱねる必要がある?」


 まぎれもない事実。

 当たり前のことだから当たり前のように告げる。


 飛谷が参加者管理部門に移ってからデスゲームを十回は行っているが、参加者について一度も問題やクレームが起こったことはない。そしてこれからも起こらない。

 

 正しいものを信じて何がおかしいのか。

 無論、お前を信じているわけではない。お前の選択眼を信じているだけだ。



 俺の言葉を聞いて、飛谷は柄にもなく嬉しそうに笑う。普段から浮かべている人を苛立たせるような笑いではない。それくらいは俺にでもわかる。



「それが聞きたかったのよ、うふふ」


「…………」


 そんなに自分の選択があっていることを確認したかったのなら電話でいいだろと思ったが、それで満足するなら文句はない。


「ほんと高時ってあたしのツボを押さえてるのよね」


「……どういうことだ?」


 相変わらず天才の言っていることは意味が分からん。

 こいつと付き合いが長い俺でも流石に困惑せざるを得ない。



「……まあいい。そしてまだ本題には入らないのか?」


 飛谷はキョトンとした顔をした。


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