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第十七話 面談終了②

「で、金の件だが、お前が思うに木本は何故ゲームに参加したと思う?」


 少し本質ずれた質問だったかもしれない。

 だが、芝原は少しも考えずに回答してくれる。


「え、借金でしょ?」


「今のは聞き方が悪かったが、借金だけであれば水商売などでも返せるわけだ」


 確かに、と頷く芝原。

 ……こいつの胃袋はどうなっているんだか。既に何杯ものビールが吸い込まれていく。


 最終的にはピッチャーで飲んでも変わらないんじゃないかと思う。



「では何故水商売ではなく、このデスゲームを選んだか」


「……一気にお金を稼げるから?」


 別に間違ったことは言っていないが、それでは足りない。


「お前は何故一気に金を稼ぎたいんだ? それならむしろ女性であれば水商売が生理的に無理という理由の方がとっつきやすくないか?」


「え、でも利子とかあるじゃないっすか」


「別に一つの正解を問いているわけではない。それはお前の回答であっているだろうが、木本はそうではない」


 妹が気がかりだからだ。

 恐らく一人で借金を背負わされたならば水商売でも他の道を選んだことだろう。


 だが、自分の命を晒してまでデスゲームに参加した。

 それは何故か。


「長らく水商売をしながら借金を返すのならば、それだけ負担は長い時間かかるだろう。必然的に家族と接する時間がなくなる。特に病の母親がいて、幼い妹がいれば特に避けたいだろう」


「……だからってデスゲームに参加するんすか?」


 芝原は信じられないような、理解できないような顔をしている。

 こいつは見てきたことないんだろうが、デスゲームに参加するような連中はとんでもなくどうしようもない理由を持っていることがある。


「一度の命の駆け引きで向こう何十年得するかもしれない」


「え、でも負けたら死ぬんすよ!」


 それについては芝原の感性が正しい。

 だが、人間プラスになることは堅実にこなす癖に、マイナスなことはギャンブルに走る癖がある。


「でも勝つかもしれないだろ?」


「……それはわかったっすけど、それとあの金の関連は何なんすか?」



「あれはただの手付金みたいなものだ。あいつからしたら、何億という賞金と言われても実感がわいていない。いつも借金生活だったからな」


 必要最低限なものしか手に入らない生活。

 勿論化粧品などもろくに買っていないのだろう。


「常に追い詰められている人間は、いざというとき何をしてくるかわからん」


 例えば、俺たちから進んでゲームを壊さないと知っていれば、無理やり裏で参加者を殺しかねない。それだけ切迫している状態だ。



「常にピンと張りつめられた糸はいつ切れるかわからない。だから多少のはした金を渡して緩めてやる必要がある」


 多少の余裕を与えてやるわけだ。

 そして俺にとってははした金じゃないっすよ、と呟く部下を無視する。



「ゲームには何十億も費やされている。たった数百万円でそのリスクを減らせるなら十分やる価値はあるというものだ。別にあの女を思いやったわけでも同情したわけでもない」


 木本が一番恐れているのは、妹に何も残せないで自分が死ぬことだ。

 せめて五百万円があれば、これで親戚の家に頼むこともできるだろう。実際子育てをしたことのない木本を騙す程度には十分な金だ。



「きちんと頭脳を本領発揮してもらわないといけないんだよ、俺たちは」


「いや、すんませんした。俺が浅はかでした」


「大丈夫だ、元からだから」



 俺たちは雑談をしながら食事を続ける。

 すっかり芝原の機嫌は戻ったようで、どうでもいい話を只管俺にし続ける。


 そして一本の電話。

 その着信音は俺のものではなく、芝原のものだ。


 仕事用の携帯であり、外に出ていこうとする芝原をここで出るように指示する。

 流石に外で電話はどこで誰がきいているかわからない。


 それならば喧噪な居酒屋の方が幾分かましだろう。



「なんか、俺明日支社に行かなきゃいけなくなったんで別行動でもいいっすか?」


「構わん。鴇田からだな」


 鴇田からの指示で、デスゲームの時の搬送手順や誘拐方法の確認だろう。


「ところでこんな感じでああと四人でしたっけ、やる感じすか?」


「ああ、だが残り二人だな。勝手に都内の二人は捌いておいた」


 予定が合わなかったから、と適当に言い訳しておく。

 たまには俺一人でやりたい仕事もあるんでな。


「福岡と都内の二人。ただ、俺は他の仕事もあるからもしかしたら少し時間があくかもしれん」


「絶対に呼んでくださいっす!」


今日の雰囲気を見ると、特段俺の邪魔をする気はないし、話し相手としては成り立っている。下手なやつと出張に行くよりかは楽だ。




 翌日、俺はすぐに東京へ戻った。

 因みに芝原は一週間程度旅行を楽しんでいたことを鴇田から知らされる。

 俺は経理部門にわざわざ足を運び、頭を下げてまで芝原の宿泊費移動費を経費から落とさせないように伝えておいた。


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