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第十六話 面談終了①

 ぶすっとふくれっ面の芝原を連れて、一軒の店に入る。

 

 個室の居酒屋で、かなり繁盛しているようだった。

 俺は周囲の飲み会の音を聞きながら、芝原の対面に座る。


 とりあえずここまで五月蠅ければ、ピンポイントでここに盗聴器がなければ会話を聞かれる心配はないだろう。

 勿論、会話をするときは気を付けるが。



 俺は勿論飲まず、芝原分のビールが届く。


「ちょっとタカさん! 俺にあんなこと言っておいて何してんすか!」


「何の話だ?」


 おおよそ想像はついていたが、俺はとぼける。

 恐らくこいつにも思うところがあるだろうから、勝手に吐き出してもらおう。


 大きな音を立ててビールのジョッキを叩きつけた芝原。

 一気飲みして勢いがついただけだろうが、五月蠅い。



「感情移入しすぎじゃないっすか!」


「……お前な、もっとわかりやすく話せ」


 感情的になって更にビールを注文するお怒りの芝原。

 どうでもいいが、お前は酒が飲めればなんでもいいんだな。


 料理が届き始めたため、俺はジョッキを持つ芝原を待たずに手を付けることにする。



「本番のルールを説明するし同情してお金渡しちゃうし流石にダメっすよ!」


 そこだろうとは思っていた。

 面談についてきたことのない芝原でも、流石にそう思うか。


「同情をしていないし、別に俺が何か問題を起こしているわけではない」


「主催者なんすから参加者に肩入れなんてダメじゃないっすか!」


「本気で俺が肩入れをしていると思ってるのか?」



 声量が増大してきたため冷ややかな視線を送りつける。

 酒が入っても、流石に俺の視線に怯んだ様に少し音量が下がる。


 まったく、盗聴されないとは思っているがだからと言って大声で話していいものではない。

 


「お前はもう少し視野を広く持った方がいい」


「いや、持った結果肩入れしているように見えるんすけど」



「それに少しは自分で考えろ」


 芝原は腕組みをして考えこむ。

 そして数秒後、またビールのジョッキを空にした。つまり、諦めたということだろう。


「教えてくださいっす!」


「…………お前何も考えず思いつかずただ俺への批判をしていたのか」


 もう少し思慮深くなってほしいものだ。だが、この割り切りは何も悪い面だけではない。時間を節約できる。



「まずルール説明についてだが、これは単純にテンポを重視しただけだ」


「テンポ?」


「芝原、もしもあの説明なしにいきなりデスゲームが始まったとする。ルールについては説明されるが極限状態で理解できると思うのか?」


 あの場で質問は受け付けないし、人狼ゲームに詳しい参加者が親切に説明してくれても信じられないだろう。何せこれから殺し合う間柄なのだから。


「ルールを勘違い、把握漏れをして損をするのは誰だ?」


「……そりゃ木本遥子でしょ」


「違う、スポンサーだ。次に俺達」


 こいつは何を言っているのか、俺には一瞬理解できなかった。

 俺たちは参加者のための慈善事業ではない。利益、損失を考える会社員だ。



「デスゲームはサーカスのショーみたいなものだ。多少のハプニングでも笑い話だが、例えばショーが始まらない、役者がそろわないなどが最悪なわけだ。そしたら客たちから金を返せと言われてもおかしくはない」


 デスゲームの場合、金の返却ではなく俺たちの命が徴収されるだけだ。


 猛獣使いは猛獣に芸をさせる。ピエロは客を笑わせる。

 役割があるから、多少ぐだついても何とかなる。


「だから最低限の枠だけ教えたわけだ」


 それ一つの理由。

 そしてもう一つが、


「それに、そこでその質問ができることを評価しているだけだ」


 デスゲームにおけるゲーム内容は事前に知らせない。

 そういう風に参加が決まった時点で告げられる。だからこそ参加者たちはネットでどんなゲームになりそうか調べることだろう。


 推測はできるが、あくまでも推測の域を出ない。



「お前は就職活動で面接に行った時に、自由に質問していいとしても給料の実態だったり残業時間、有給申請だったりを聞けるのか?」


「いや、俺はできないっすね……なんか悪い印象を与えそうだなーって」



 日本人のいい癖でもあるし悪い癖だ。

 だが、多くの人間はそうなのだ。このような命を賭けるデスゲームであったとしても。


 俺からしたら就職活動でも多少の人生が左右される場面だ。その状態で何も知らないで挑む馬鹿はいないし、必要があれば聞く必要ある。

 しかし面談をしていても意外と聞かれることは少ない。



「色々な要素を加味してでも、俺にゲーム内容について聞いた。どうせ俺たちの指先一つで彼女は死ぬ。であれば最悪の事態にならないと読み切ったんだろう」


 そこで一歩踏み込む度量というのは必要だ。

 そして今の会話から、芝原はその度量を持ち合わせていない。


 仮に悪い印象を与えても殺されるかもしれない。そして、ルールをいきなりその場で言われてゲームを知らなければ普通敗北しても死ぬ。


 その天秤だ。



「だから理由としては二つ。ゲームのテンポを重要視したのと、あの子の度胸への敬意って感じだな」


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