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第十三話 木本遥子③

 木本は記憶を探るような、そんな視線の彷徨わせ方をする。


「人狼ゲーム」


 俺はもう一度はっきり聞こえるように言う。それでも反応が変わらなかったところを見ると、聞いたことはあるが内容について覚えていない、そんな感じか。


「ルールを説明します。これは本番と同じですのでメモを取っても構いません」



 俺は持ってきたカバンの中に入っていたルール説明用の紙を取り出す。

 面談でルールを説明することは多くはない。いや、正確に言えば数えるほどしかない。


「人狼ゲームは味方に成りすました嘘つきを会話で見つけ出すゲームです。今回は十名のプレイヤーが村人として振舞いますが、その中には人狼が二名混ざっていて、村人に化けながら村を滅ぼそうとします」


 一ターンを昼夜に分けて、昼のターンで村内の会話や仕草から村人全員で怪しい人物を多数決で処刑する。

 夜のターンでは人狼同士が話し合って村人一人を襲撃することができる。そしてこの襲撃が成功した場合には村人が死亡する。


 それを村人は人狼を全滅させれば勝利、そして人狼側は村人と人狼の数が同じ以下になれば勝利となるまで続ける。


「……えっと、つまり始めは八人側と二人側で始まり、一日過ぎるごとに昼夜合わせて二人ずつ死ぬってことですよね。最長でも三日で終わるってことですか?」


 勿論ここでいう三日というのはゲーム内での時間だが。

 俺は内心、この木本の理解が早いことに驚いていた。先程の反応を見ても人狼ゲームを本当に知らなかったのだろうが、そこからゴールを先に考えているのは理解の早い証拠だ。


「勿論それでは人狼を探す方法がないため、村人の中には特別な力を持ったものが存在します」


 占い師:夜から昼の時間で一人占うことができ、対象者は村人か人狼か把握できる。

 霊能者:夜から昼の時間で昼間に処刑された者が村人か人狼か把握できる。

 騎士:夜の時間で自分以外の誰かを指名することで護衛できる。護衛された者が人狼に襲撃された場合襲撃は失敗する。


 これは比較的オーソドックスなルールだ。

 普通のゲームではここに狂人という役職がはいることもあるが、デスゲームにおいては登場しないため俺は説明を省く。


「そして、少しややこしいかもしれませんが騎士は同じ者を連日指名することができず、毎回別の誰かを選ぶ必要があります」


「つまり一度襲撃が失敗した場合でも次の日に襲撃すれば確実に殺せるということですか」


「その通り、仮に一度護衛されてでも情報漏洩を防ぐために殺すこともあるかもしれませんね」


 役職の内訳だけで言うと、人狼が二人、占い師、霊能者、騎士、そして何の力を持たない村人が五名。

 一見村人は力がないため不利な立場になることもあるが、何も見えないからこそ村人は人狼の矛盾を見つけることもできる。



「あの、この人数では人狼がかなり不利では? 護衛できる存在や人狼を当てられる存在がいるなんて」


「なので通常このゲームでは人狼の片方、ないしは両方が何かしらの役職を騙って村を混乱させなければなりません」


 例えば本当の村人を人狼だと言ったり、本物の占い師を処刑させようとしたり。

 俺はここで一度区切る。


 恐らく理解力が高い木本でも、流石に情報量を詰め込み過ぎている。

 一度冷静に考える時間が必要だ。



「では、ここで質問をします。」


 メモを取っていた手が止まる。


「実はこの役職の数の場合、通常のゲームでは村人側が圧倒的に有利です。ですが、デスゲームではそうとは言い切れないのです。理由はわかりますか?」


 この回答で恐らくこの女性の生死がわかる。

 これはゲームの本質、謂わば肝と謂われる場所だからだ。


 対面でもオンラインでもいいが普通の人狼ゲーム、命を賭けたデスゲーム。その違いが分からなければ生存率は一気に下がる。

 現に俺は今まで同じような質問をしてきたが、その半数以上は質問に答えられず、答えられなかったもので賞金を得たものは殆どいない。


 護衛が一度でも成功した場合でもゲームの最長は四日。

 騎士という存在。そして騎士は自分自身を護衛できず、連日同じ者を守れないこと。


「あ、そっか。例えば初日に処刑されるのを防ぐために騎士だと名乗ってしまえば十中八九人狼側から襲撃される。霊能者でも一日しか護衛できないから、どこかで襲撃される」


 そう、このゲームは負ければ死ぬゲーム。

 自分の命を犠牲に村側を勝たせることができるかもしれないが、生存者にしか賞金は与えられない。



「村人は八名で一心同体というわけではないのです。自分の命可愛さに有力な情報を出さないこともあるわけです」


 大雑把に言ってしまえば、通常騎士は村人の代わりに死ぬことによって、他の役職が職務をできる時間を稼ぐ。結果的に稼いだ時間で人狼を見つけ出す。



「例えば自らが役職を持っているようなことを匂わせれば初日に処刑されないでしょう。ただその代わりに人狼から襲撃されやすくなるわけです」


 で、余裕を持ちすぎればヒントの少ない初日に多数決で処刑される。



「自分の命を大事にしつつ、自分の陣営を勝たせる。これは非常に難しいことです」


 俺は記憶を回想していた。

 正しい主張にも関わらず周囲にヘイトをばら撒いたせいで殺される占い師。他人の人格を攻撃してぼろを出させて処刑する騎士。個人的な敵対関係によって襲撃しようとする人狼。確率の低い盤面を考え続けて決断できない村人。

 

 それらを俺達……いや、観客たちは楽しんでみているわけだ。


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