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第一話 デスゲームの企画者


「以上で、第七回デスゲームの概要となります。ご質問があれば是非お願いいたします」


 暗い空間の中で、やや擦れた声をさせながらプレゼンをしめた俺はテーブルの横に置いてあったミネラルウォーターを口に含む。

 会議室のライトが灯り、プロジェクターの電源が切られたことで、プレゼンターとして話し続けた俺は周囲の反応を確認することができる。


 端的にわかりやすく、そして短時間にまとめて入念に作り上げたプレゼンなので勿論自信はある。

 どんな質問が即答できるし、そもそも質問を出させないほど丁寧に作り上げたのだから。


 だが、それでも俺は緊張感を保ったまま、座っている老人達から視線を逸らさない。

 如何に俺の完璧なプレゼンであろうと、彼らの気まぐれでぶち壊しにできるのだから。


「すばらしいプレゼンだった。ただ、ちょっといいかね?」


 一番真ん中を陣取っていた老人がしわがれた声で質問する。

 今までも俺の企画するこのデスゲームに何億、兆にも届きそうな金額を提供する酔狂なスポンサーだった。


「ありがとうございます。何でしょうか」


 水を先程含んだばかりなのに、自分の口が乾くのを感じる。頼むから答えられる質問にしてくれ。

 俺は心の底からそう願う。


「私の記憶違いでなければ、今回のプレゼンは前回のデスゲームとほぼ同じような気がしないかね? 勿論毎回盛り上がるのだが」


 内心ほっとした。

 齢八十にも近いこの金持ちの記憶力は正しい。今日話したデスゲーム、人狼ゲームにおけるルールは殆どが第六回と同じだ。

 寧ろ前回は参加者十一名だったのに対して、今回は一人減らした十人と単純に縮小したように錯覚させられる。


 この老人からすれば、人間の命を賭けたデスゲームに何億も投じている。金が湯水のように湧き出る彼からしても不必要に大金をドブへ捨てる気はないようだ。


 ここでの回答によってはスポンサーを引きさがられる可能性もあるわけで、俺はなるべく言葉を選んで発言する。



麻空(あさそら)様、ご心配は御尤もかと。しかしご安心ください。敢えて本日は説明を省きましたが、確実に皆さまがお喜び頂けるようなギミックを用意しております」


 まずは共感。そしてその心配を払拭する。


「ふむ、小鳥遊(たかなし)君。君のデスゲームはいつも私の渇きを潤してくれる。勿論今回も同様に期待しているよ」


 けらけらと笑う。金の亡者め。俺は心の内で毒づく。

 人の死でしか渇きを潤すことのできない狂人。だが、そんな頭のおかしい金持ちのおかげでデスゲームを企画、運営して見世物にするこの会社が存在するわけだ。



「ありがとうございます。必ずやご期待以上のゲームをご覧いただけるかと」


 そう言うしかない。

 期待に応えられなければ、俺は次回のデスゲームの参加者にさせられるか、周囲が気付かないうちに失踪させられるだろう。


 深々と頭を下げて、杖を突きながら立ち去る麻空を見送る。

 続いて他のスポンサーたちも無言で会議室を出ていった。


 残されたのは社長と俺。


「なんとかなったみたいだな。相変わらず完璧なプレゼンだったぞ」


 俺と一蓮托生でプレゼンに臨んでいた雨田(あめだ)はぽんぽんと肩を叩く。

 プレゼンターである俺を見ることしかできない還暦の彼は、もしかしたら俺よりも気が気じゃない状態だったかもしれない。

 無事に五体満足に隠居できるかは常に俺の企画力次第というわけだ。

 

 デスゲームで成り立っているこの会社は、企画の破綻で会社が傾く可能性を常に持っている。

 俺の前任が過去のデスゲーム本番でやらかした時には、複数名の地位ある人間たちはスポンサーに謝罪へ行ったきり姿を消し、その後目撃情報はない。


 勿論俺の前任も跡形もなく消え去った。



「ギミックについては知らせなくて良かったのか?」


「たまにはいいでしょう。彼らは暇なのですから。いつも同じように知った状態で始まってはつまらないでしょう」


 俺らは会議室の鍵を閉め、真っ暗闇の廊下を進む。

 スポンサーのために夜からプレゼンが始まったからだ。


「心配はしていないが、決して油断のないように」


 勿論だ。俺だって自分の命が惜しい。

 そして社長は今後の俺の日程について質問してくる。


 俺の仕事は企画を作って運営をすることだが、この雨田はスポンサーたちがそれまでにより多くの出資をさせるためのご機嫌取りをしなければならない。


 何度も接待に出掛け、気分良く付き合いを続けてもらう。過去に俺も何度か高級料亭に呼ばれたことはあるが、もう二度と行きたくないと思わされるほど厳しい接待だ。



 幸いなことに、麻空を含めてスポンサーの多くは俺の企画力を高く買ってくれているため、いつも通り進めばとんでもない額の予算が手に入るわけだ。

 そもそも予算が降りるかどうかがデスゲームの開催が決まってからというのも問題だが、こればかりは金持ち貴族たちの気の赴くままだ。


「参加者の一部と面談して参加可否の最終確認を行うのと並行して、会場の下見や搬送経路、道具などの最終チェックを行います」


「何も君が率先してそこまでやらなくてもいいと思うが。しかし君が必要だというのであれば何も言うまい。面談のついでに旅行でもしてもいいから自由に経費を使いたまえ」


 企画運営部門チーフである俺が自ら足を運ぶ必要はないのだが、一つの油断、一つのミスで全ての破綻に繋がる可能性があるため念入りに行っていく。

 俺がミスして飛ぶのは俺の首だけではない。石橋を叩いて渡るのではなく、石橋を叩いて壊して新しい橋をかけさせる。それが俺だ。



「いつも通り酔狂な方々のために、参加者の情報を調べ上げますよ」


 デスゲームで命のやり取りを肴に酒を飲みつつ、誰が勝つか、誰が生き残るかなど当てる賭けも我が社で取り仕切っている。

 競輪や競馬などと同じで、スポンサーたちは参加者の人間性や性格などを加味して選択することが多いため、しっかり調べなければならない。


 奴らからしたら賭けに負けて大金を失ってもそこまで困らないだろう。その証拠に自分が気に入った参加者に賭けることも多く、勝ち負け云々よりも誰を注目しているか示すためだろう。


 だからこそ、参加者たちを俺がしっかり面談する必要があるわけだが。



「君のストイックさには感服するよ。我が社は君に任せている限り安泰だと自信を持って言える」


「過大評価ですよ、雨田社長。それでは失礼します」


 俺は自分のオフィスが見えたため、頭を下げて社長と別れる。



 自分の命が惜しいだけだ。そして罪のない社員たちを巻き込むのも嫌なだけだ。

 デスゲームで殺し合っているのは参加者達。俺たちはそのお膳立てをしているだけ。

 金持ちが勝手に大金を賭け、勝手に大いに盛り上がる。


 …………詭弁だな。だが、この会社はその詭弁で成り立っている。


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