ルリちゃんの向日葵
2020.7.24
投稿ジャンルを間違えました。ご迷惑をお掛けしました。
_(´ཀ`」 ∠)_
ルリちゃんは同じ保育所に通う女の子ですが、近所に住んでいるにも関わらず、あまり仲良しではありませんでした。
朝、お母さん同士がすれ違うと「おはようございます」と笑顔で話しますが、ルリちゃんはお母さんの後ろに隠れてしまいます。
お休みの日に、お父さんと散歩に出かけると、必ずルリちゃんの家の前を通りますが、ルリちゃんは恥ずかしそうにこちらを向いてはくれません。
「こんにちは」とお父さんがルリちゃんのお母さんに挨拶をして、和やかに話します。お父さんはルリちゃんのお母さんが大好きみたいです。
ルリちゃんはお父さんが居ませんでした。
難しい言葉は分かりませんが、どうやらとても怖い病気になってしまったらしく、ルリちゃんがまだ、ほんの小さい時に死んでしまいました。
僕とお父さんが散歩をするとき、ほんの少しだけルリちゃんは、羨ましそうな顔をするのでした。
だから、僕はお父さんと散歩すると、必ずルリちゃんの家の前を通ります。
でも、お母さんはお父さんとルリちゃんのお母さんが話すのが、少しだけ嫌みたいです。それが何故だかは最後まで分かりませんでした。
ルリちゃんは保育所ではとても大人しい女の子です。
誰とも遊ばず、一人で絵を描いている事が殆どでしたから、絵の上手さだけは保育所で一番でした。
「かわいいヒマワリだね」
僕が話し掛けると、ルリちゃんは驚いたような顔をして、それから暫くモジモジと照れて、僕にヒマワリの絵をくれました。
「いいの?」と聞くと、黙って頷いたので、僕は「ありがとう」と笑顔で応えました。その時のルリちゃんの顔は分かりませんでしたが、耳が赤くなっていたのを、今でも覚えています。
ルリちゃんが引っ越すことになりました。
お父さんは残念そうに、お母さんはいつも通りにしていました。
ルリちゃんが保育所に通う最後の日、僕はルリちゃんに何て声を掛けて良いのか分からず、結局その日は一言も会話をしないまま、ルリちゃんは帰ってしまいました。
空いたルリちゃんの棚は、とても寂しそうにしてましたが、少し経つと別な子の棚になっていました。
もう誰もルリちゃんの話をしませんし、覚えているのかすら分かりません。
ルリちゃんの使っていた色鉛筆だけが、唯一残された思いで。誰にも使わせたくない。けれどもその色鉛筆すらもやがては消えてしまい、新しい物になってしまいました。
僕が大きくなり、俺を名乗るようになって、お母さんが亡くなりました。
お父さんはとても悲しみ、俺も泣きました。
最初の一年は泣き続けました。
次の一年は寂しくなると泣きました。
三年目は落ち着きましたが、仏壇の前を通ると、お母さんとの思い出が蘇ります。
五年目になり、もう大丈夫になった頃、家に帰ると知らない女性が仏壇に線香をあげていました。
「……この向日葵の絵、まだ持ってたんだ…………」
キラキラした今時のギャルメイクをした女性は懐かしそうに、仏壇に置かれた向日葵の絵を眺めていました。
「今日からヨロシクね」
俺は何が何だか分かりませんでしたが、夜にお父さんが帰ってきて全てが分かりました。
「父さんな、昔近所に住んでいた、ルリちゃんのお母さんと再婚することになったんだ」
「えっ、じゃあ昼間来ていたのは……ルリちゃん!?」
「母さん、良いか?」
お父さんが仏壇の前で手を合わせました。
「ルリちゃんは今でもお前のことを覚えてくれたそうだ。お前も仲良くしてくれよ?」
「……急に言われても……」
次の日、父は原因不明の腹痛で、暫くトイレから出ることが出来なくなりました。仏壇に供えた果物が腐っていたらしく、知らずに食べたお父さんがやられたようです。
「あなた、大丈夫?」
ルリちゃんのお母さんが背中を摩ります。
「ダメだ……! トイレ! トイレー!」
暫くして、腹痛は治まりましたが、それからと言うもの、お父さんは財布を無くしたり、犬に噛まれたり、痴漢と間違われたり、車を傷付けられたりと、酷い目に会い続けました。
一方、僕は、大人になったルリちゃんと二人きりで出掛けたりしました。
服を買ったり、一緒にご飯を食べたり、子どもの頃に出来なかった事を沢山しました。
「ルリ、もう離れたくない」
「僕もだよ」
その日ルリちゃんの着ていた向日葵のシャツは、とても夏らしくて可愛らしかったです。
読んで頂きましてありがとう御座いました!