プロローグ
読んでくださりありがとうございます。
色々と至らぬところがありますが、どうぞ!
それはまさしく当事者とそうでない者とで感想が一変する光景だった。
そうでない者にとっては華やかで格好いい、男ならばだれしも、いや女子でも一度は憧れるだろう現代の英雄譚。
巨大で恐ろしい竜の姿をした化け物に対し、最先端技術と古の叡智を会わせし鎧と武具-霊機-で立ち向かう者たち。
化け物が少し遠くに位置する、軍艦の砲だと言われれば信じてしまうほど巨大な銃身のライフルを持つ者や、自らを中心に複数の魔法陣を立体的に噛み合わせ巨大な魔法陣を作りあげている者、それより更に後方の戦車や対戦車ミサイルなどをまとめて邪魔だとばかりに火を噴けば、その射線中に一瞬光の壁が現れ彼らを焼くはずだった業火はあらぬ方向へ向かい、お返しとばかりに火砲にミサイル、巨大な槍の形をした光や氷塊が化け物を容赦なく襲う。
そのような攻撃を化け物は先ほど現れたのと似た光の壁で防ごうとするが、その光の壁は耐えきれなかったらしくいくつかの攻撃が着弾。化け物が衝撃でもんどりを打ったその隙を逃さんとばかりに、プレスの前に空へと退避していた剣や槍などの武具を持った者たちが一斉に攻め立てる。
彼らの持つ武具は振るえば突風が吹きすさび、斬りつければその斬線をなぞるように燃えあがるなど、見る者を「このまま簡単に化け物を倒してしまえるだろう」と根拠もなく錯覚させてしまうほど派手で華々しい戦闘風景。
攻め立てられる化け物は鋭い爪を横薙ぎに振り払い、翼を羽ばたかせて飛び上がろうとする。
横薙ぎの爪と羽ばたきによる突風で、攻撃していた彼らもそのほとんどは自主的あるいは強制的に距離を取らされ何人かは地面に叩きつけられていた。
しかし、化け物の足が地を離れようとしたその瞬間。
足元に魔法陣が浮かび上がり、まるで足と地面が接着されているように地面から離れることはなくバランスを崩してしまう。
そこへ大きな光が降り注ぎ、爆発音とともに立ち上った粉塵に辺り一面が包まれた。
それをテレビや携帯端末などで見ている者たちは大人は彼らに武運があることを祈ったり、戦い方を寸評するなどし、子どもは純粋に化け物を退治している彼らを感謝と憧れを持って応援していた。
一方、当事者にとってその場は地獄と言って間違いなかった。
〔今のプレスの防御で5五人が魔力限界に達しました!〕
「地面に叩きつけられてた者の内二名が戦闘続行不能。撤退補助のためもう二名戦線を離脱します。」
〔弾を打ち尽くした車両は補給へ下がれ!弾がなければ何も始まらん!〕
〔魔力限界で抜けたやつの代わりはこっちから回す。陣地防御の本職には劣るが無いよりマシだろう。〕
〔助かります!〕
「9号車、13号車はポイント38へ。負傷者、魔力限界者と合流し,ともに撤退してください。」
「現在、支援攻撃のため『あまぎ』より発艦したMF-3八機が15分後、続いて百里より対大型異獣兵装のMP/B-7二機が約23分後に現戦闘地域に到達予定です。」
作戦指揮所であるこの部屋のそこかしこを飛び交う、現場の通信にオペレーターによる指示や報告。
それらを聞いている日本国防軍機動防衛総隊第二大隊隊長、八泉 幸三大佐はその全てを聞き分けられてしまうことに「聖徳太子もこのような感覚だったのかな」と今はそのような状況ではないと分かっていてもつい、そう考えてしまった。
「ゴホン」
そんな八泉大佐の考えを敏感に察知したのか、隣に立つ副官にして参謀の一人でもある七田 恵中尉から咳とともにジト目を向けられた。
八泉は若干居心地の悪さを感じつつ、現在の状況を自分の中で纏め、その結果今後どのような状況になるかを予想していく。
「七田中尉」
「はい」
「今回の迎撃作戦、君から見てこのままで成功すると思うかね?」
形は問いかけだが八泉の中では既に答えは出ていた。
しかし、現場での実績とカリスマ性で今の地位にいると言ってもいい八泉にとって現場のカンである自分の考えと、論理的な七田の意見はある意味答え合わせとして今回も尋ねていた。
「率直に言って厳しいでしょう。」
それは八泉と同じ答えであり、八泉は「やはりか」と顔をしかめた。
「一応尋ねるが、理由は?」
「いくつか挙げられますが、一番は目標の鱗の防御力の高さでしすね。」
「だろうな。」
これも八泉と同意見だ。
「ちなみに、我らの現戦力で目標を殲滅できる可能性は?」
「百里が間に合えば不可能ではありませんが、その前に前線が崩壊する確率が高いかと。」
「分かった。」
その言葉を聞いて八泉は数瞬目を閉じたあと、徐にオペレーターへ「総魔導部隊長、山西少佐に繋いでくれ」と命じた。
「山西少佐との通信、開きます。」
「・・・?」
八泉の行動が理解できないのか、七田中尉は訝しげにしながらもとりあえず自分が口を出すべきではないだろうと沈黙しているようだった。
〔八泉隊長、何でしょうか?『
通信から聞こえる山西少佐の声には若干の不満が聞いて取れた。おそらく前線維持の忙しさからだろう。
「そちらも大変だろうから簡潔に言おう。山西少佐、正直に言って航空支援まで前線を持たせられるか?ああ、ここで精神論は挟まないでくれよ?」
これは確認だ。八泉とおそらく七田も同じ見解であろう、この状況の。
〔・・・『あまぎ』からの支援まではなんとかなるでしょう。しかし、それで目標にどれだけの損害を与えられるかで状況が変わります。今回の異獣で厄介なのは魔核が体内深くにあることに加え、体表の鱗の硬度と柔軟性が高いレベルで備わっている点です。先ほどの攻撃も鱗に阻まれ、実際のところあまり効果はありませんでした。百里の貫通爆撃ならばとは思いますが、艦載機の支援は正直無いよりはマシというレベルの可能性が高いです。そしてそこから百里の支援まで楽観的に見て5分といったところですが、近接組が耐えられない可能性が高いです。そうなるとあとはズルズルと・・・〕
やはり現場も同じ結論に至ったらしく、尻すぼみになっていったので八泉がセリフを引き継ぐ。
「前線が崩壊し、目標を自由にしてしまうか。」
そうなってしまうと迎撃作戦は失敗。異獣がどのような行動を取るかわからない。
太平洋に出てくれるなら良いが、東京をはじめ都市部に移動されては目も当てられない。
「・・・わかった。では大隊長として命じる。本作戦参加の近接魔導部隊全ては『あまぎ』艦載機の航空支援に乗じて後退、拘束・観測部隊の援護に回れ。」
「隊長っ!?」
〔なっ!それでは防御部隊の負担が!〕
流石に黙っていられなかったらしく七田中尉も「何を考えているんですか!?」と言わんばかりの形相をしているし、山西少佐は「何をバカな」といった様子だ。作戦指揮所内も少し騒がしくなったように感じる。
だが、八泉はそれらを一切無視してただ一言こう告げた。
「『神風』を呼ぶ」
と。
『神風』
その言葉を八泉が出した瞬間、人間だけが一瞬時が止まったかのように物音以外の音が消えた。
その光景を見た八泉は苦笑いをこぼしつつ、「納得したかね?」
と画面の向こう側と隣に向けて声をかけた。
〔ッ申し訳ありませんでした。しかし、あれは都市伝説や戦場伝説の類いでは?〕
山西少佐は直ぐに復帰したが、なおも半信半疑なようで食い下がってくる。
「ん?君は彼らにあったことがないのか。なら、この後嫌でも知ることになるだろう。彼らについての噂には、誇張は多少有ってもうそはないということにね?」
そして八泉は「何か異存はあるかね?」と締めくくった。
その顔には「これで話しは終わりだ」という意志がありありと浮かんでいた。
〔・・・了解しました。全近接部隊は『あまぎ』艦載機の航空支援に乗じて後退。拘束・観測部隊の援護に回します。しかし、防御部隊の方にも少し不安があるため一部を回したいのですがよろしいでしょうか。〕
山西少佐は渋々だが納得したようだ。意見具申については七田中尉に目を向けると「問題ないかと。」と小さく返してきたので
「構わない。その辺りの裁量は山西少佐、君に任せる。」
とその意見を了承した。
〔ありがとうございます。それでは。〕
「ああ」
通信を終えた八泉は椅子に深く腰掛け、「ふぅ」と息を溢した。
「・・・まさか、『神風』を使うとは。確かにそれなら万に一つの失敗もまずないでしょう。」
七田中尉は独り言のように八泉へ話す。本来は注意しなくてはいけないが、まぁいいだろうと八泉は無言で先を促した。
「しかし、彼らに関しては同じ防衛省の下部組織とは言え指揮系統からして違います。正直なところ、私も半信半疑なのですが・・・。」
「まぁ、確かに不安に感じるのも解るが・・・」
日本国情報庁特危対応隊、通称『神風』は一般には情報が公開されておらず、各省庁を始めとした各種政府機関の一定以上の立場の人間でないとその情報に触れることもできず、また、『神風』に関する完全な情報を持っているのは情報庁だけだと言われている。
ただ、その任務の関係上、防衛省、警察、検察庁、国防軍にはそれなりに噂としてその存在が広がっており、こうして話すことがてきるのだ。
「確かに組織の構造上、多少の軋轢はあるが前から「何か手伝うことがあるなら手を貸す。」と向こうがと言っているし、ウチの方もあまりいい顔はされないがそれを除けば特に問題はない。」
国防軍としては「自分たちの面子は確かに大事だが、国民の生命と財産、隊員の命の方がそれより大事」という感じなのだろう。
「しかし、個人的に情報庁の長官とは知り合いだが、あまり好きではないな。」
「何故てす?」
「人からイラつかれる、ウザがられることをわざとやるからな。」
八泉の脳裏には出向という形でしばらくいた、情報庁時代がちらついてくる。
「ヤな人ですね。」
と七田中尉が相づちを打つので「だろう?」と八泉は返した。
「情報庁の情報収能力は高い。特にこういった緊急時の諜報活動は凄まじいからな。大方、この会話もあちらには筒抜けで既に準備されているだろうな。」
内部協力者などを使ったヒューミントにはじまり、機械式の盗聴盗撮に通信の傍受や端末のハッキング、式神による潜入などなど、聞いた時は仮にも同じ国を守る仲間なのにそこまでやるのか。と八泉は呆れと憤慨で思わず呟いてしまったのを覚えている。
もっとも、その呟きも当時教育担当だったあの男にはしっかり聞こえていたらしく、後日の研修訓練で組織がどのように弱くなるかを実際に叩き込まれたうえに「貴方は少々善良すぎます。多くの人は貴方のようではないんですよ。」と言葉は心配しているが顔はニヤニヤ笑っていて完全にバカにした煽りをうけたが。
「たがしかし、なぁ。」
とはいえ、いくら向こうが問題はなかろうと頼み事をする以上、内心は嫌だとしても此方から連絡するのが筋だろうと八泉は備え付けの通話機に手を伸ばそうとしたその時、「ピリリリ」と通話機が着信を知らせた。
このタイミングで連絡してくる相手など八泉には一人しか浮かばず、七田中尉も今までの話しから察したのか苦笑している。
気を抜かれた八泉は
「な?あの人の嫌らしさがわかるだろ。」
と深いため息とともに小さく愚痴りながら着信を取った。
〔ということで今回の任務は大型異獣の5~10分ほどの足止めと、もしも貫通爆撃でも殲滅し損ねた場合の止め役だね。〕
気楽そうに言ってくる上司の言葉を聞いて悠希は思わずため息をついた。見れば隣にいる天音も「うわぁ」と言わんばかりの顔だ。
「うわぁ」
「いや、言うのかよ」
思わず突っ込んだ僕に対し「いや、つい自然に出てしまってな!ほら分かるだろ!」とあたふたと弁解する相棒。どうやら突っ込んだことが怒っていると勘違いしているらしい。
「別にそんなあたふたしなくてもいいでしょ。どうしたの?」
「そ、そうか?その、なんだ。さっきの声音が寒々しかったから、昨日ユウのケーキ間違えて食べてしまったのをまだ怒ってるのかと思ってさ。なんかユウ、朝から不機嫌だし。」
なるほど。もう気にしてないつもりだったけど、どうやら無意識に態度に出ていたらしい。ただ、理由を聞いてムカムカが蘇ってきたが。
「ごめん。聞いてまたムカムカしてきた。」
お風呂上がりの楽しみにしてたのに。
「げっ、やぶ蛇だったか。」
「ホントに済まなかったってー」とすり寄ってくる天音をハイハイとあしらいつつ「まあそれより」と話を戻す。まあケーキに関してはこの任務のあとにベリーフラワーのフルーツミルクレープで許してあげよう。
「長官の人の悪さもう少し抑えた方が良いと僕は思いますよ?」
今回の概要を聞いて分かりきってはいたが、それでも改めて長官の人の悪さを思い知る。
「確かになー。今回だって聞いてる限りじゃ分かっててタイミングあわせたんだろ?」
じゃれあいモードから復帰した相棒も同意してくれるらしい。
まぁ、ウチにいてこの感想を長官に持たないのは本人だけだろうが。
〔狙ったのは事実ですが、そもそももっと早くあちらが要請してくれればこんな尻拭いの様なことには成らなかったのです。〕
「意趣返しですよ。」などと言っているが向こうからすればその指揮官に取っては嫌な相手に頭を下げさせても貰えず更に嫌な思い出をほじくりかえされ、現場の特に魔導師には僕たちが美味しいところだけを持って行ったと感じるだろう。
そしてこの長官はそれもわかった上でやっているので質が悪い。
この相手を不快にさせる言動は現役時代に仕込まれたと本人は言っているが、それを信じている者は誰もいない。
〔さて、話が幾度か脱線しましたがリラックスタイムはそろそろ終了です。時間的猶予もそんなにありませんからね。〕
パンパンと手を叩いて長官が雰囲気を切り替えた。それとともに自分たちも意識を切り替える。安寧に漂う影法師から、災いを吹き祓う神風へと。
〔任務内容は先の通り、情報の秘匿は国防軍がやってくれるそうなので今回は気にしなくていいです。〕
その言葉を聞いて天音が嬉しそうに微笑む。
天音はそういうのは僕以上に苦手だから、なにも考えずに済む!と喜んでいるんだろう。
なので
「脳筋ごり押しはダメだからね。」
釘を刺しておく。
でないと、天音は防御すら考えず突撃するバーサーかープレイを嬉々としてやるので僕が大変なのだ。
普通に戦いなさい。普通に。
「ちぇっ。わかったよ。けどさ?少しぐ〔リラックスタイムは終わりと言いましたよね?〕すみません。」
長官に怒られてシュンとする天音可愛いな。
と、ダメダメ。お仕事お仕事。
〔禁則事項、現場裁量についてはレベルBとします。では紫乃崎特位、藤堂特位、現時刻を以て本任務の発令を日本国情報庁長官として宣言します。音声コード入力。『我ら三界をわたる神風纏い』〕
「「『災いの憂い吹き祓わん』」」
長官の承認コードに応じて僕たちも受領コードを返す。
このコードのやり取りとともに長官との通信は終わり、僕たちには霊機が最初から纏っていたかのように顕れていた。
「ん、完全展開による機構部及び霊殻部ともに異常無し。ユウは?」
「同じく異常無し。国防軍の戦術ネットワークとの接続も完了。同期するね。」
だが、お互い慣れたもので直ぐに霊機のチェックと、戦場への介入準備を完了する。
「よっしゃ、ほんじゃまぁ、一丁」
天音が少しワクワクしたように呟く中、背部翼型スラスターが唸りはじめ足元に魔法陣が顕れる。
「派手にヤりますかねっ!」
その叫びともにスラスターが思いっきり噴かされ、少し赤く成りはじめた空へと飛び出していく。
「最近、面倒なのばっかりだったからっ」
それに続き僕もスラスターにエネルギーを回しながら滑空術式を展開、
「ね!」
天音の後を追い、空へと飛び出した。
ご読了ありがとうございます!
色々「ハ?」となったと思いますが、簡単な設定はすぐに上げようと思いますのでそれでご容赦ください。
あと、後書きは身バレしない程度の週間日記も書いていこうかなと思います。
もし興味があればどうぞ。
では、お目汚し失礼しました。