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少女は人になる

作者: 湊 悠美

リハビリ作品。


登場人物の大半が病んでいるので御注意を

R15はその為です

「当店自慢のザッハトルテとフルーツタルトです。カフェ・オ・レとホットチョコレートと共にお召し上がりください」

「……ありがとう、お兄さん」


 部屋に入るや否やお茶菓子が運ばれきた。その速さに心底驚いたらしく、異国の少女が笑みを浮かべてお礼を言った。先程までの愛らしい人形のようなものではなく、年相応の幼さを感じられるもの。先程までと違う笑みに驚きつつ、青年は店員の鏡として動揺する事なく礼をした。

 青年の姿を見送り視線を戻すと、目の前に座る異国の少女が、美しい所作でホットチョコレートのカップを傾けている。その動きも人形のように隙がなく、呆然と動く人形に見惚れる。


「美味しい!お姉さんもお召し上がりください!」

「…うん」


 ニコニコと促され何も考える事なくカップを手にとった。コーヒーの香ばしい香りを堪能し、悠然とした動きで一口含む。苦味とミルクの美しいバランスに幼き王者はどうにか我を取り戻し、異国の少女に対し一番の疑問を問う。


「貴女の名前を教えてくれる?」


 今の状況や自分の正体などを聞くわけでもなく、『名前』を『自分自身』を見ようとしている。少女の『人間らしさ』を()()異国の少女は目を見開き、可愛らしい笑い声を上げた。






 幼き王者、『若き女王』の異名を持つ少女は国一番の実力者である。『絶対王者』を地に落とし実力を示した少女は、別段両親が名の知れた力の持ち主ではなかった。つまり天賦の才にて『絶対王者』に打ち勝ったのだ。


 その『才』を見いだしたのは『絶対王者』、国民の『憧れ』であり『英雄』とも呼ばれた人物。


『君は俺を追い越せるかもしれない』

 そんな言葉を『憧れ』に言われてしまえば、その道に進まない方がおかしいだろう。彼の真意に気づかず、その言葉を胸に()()()()()()()数々の実力者を倒してしまう。その実力が噂になる頃には、『絶対王者』への挑戦は当たり前のものとされていた。

 だが、周囲は『絶対王者』が()()()()()の挑戦を受けるわけがないと思い込んでいた。少女の血縁にその道で有名な人物はおらず、()()ではなく類いまれな()で勝てたと信じていた。もしこの小娘に才能があったとしても、『この国の英雄』が()()()()()()()()()()()と。

 そんな周囲を裏切り、彼は少女の挑戦を受けた。少女の周りを、自身の息がかかった者たちで固め害されないように徹底して。彼にとって少女は『唯一負けても良い相手』『自分だけが負かして良い相手』だったからである。初めて会った時から『未来の花嫁』を手に入れようと考えていた彼は、彼女が自分の元にくるように仕向けた。彼女の『憧れ』を利用しこの道に進まさせ、少女が強くなれるように気づかれないように部下を利用した。


 そして。

 彼の期待通り少女にとっては思いかけず、大勢の観客の前で行われた試合は少女の勝利で幕を閉じた。彼は忘れないだろう、少女が真っ青な顔をして座り込んだ姿を。少女も忘れられないだろう、彼に言われた『俺以外に負けるなよ』と言う愛の(呪いの)言葉を。



 そこから『若き女王』の生活は変わっていった。

 何も知らない女の子では許されなかった。天賦の才も許されなかった。『王者』に望まれていたのは絶対的な力。だから、『英雄』に勝ってしまった『女王』は憎まれていた。

 と言っても彼らは大人だ。嬉しそうに彼女の元を訪れる『英雄』の企みなどすぐに気づく。少女を哀れむが、国と少女では国を選んでも仕方なかった。


 哀れな生贄(少女)は疲れていた。周りの人間の優しさにも気づかず、民の期待や国の誇り『王者』の(呪い)に蝕れていた。

 外を歩けば記者たちに囲まれる。何か一言でも漏らせば面白おかしく書き立てられ、家族にも迷惑がかかってしまう。

 本日もこの喫茶店への道中、変装した記者に声をかけられた。野次馬も集まり始めいよいよ彼女の心が限界を迎えそうになった時、異国の少女に声をかけられたのだ。




「お姉さんってば、本当に人間らしいのね。普通は、私について聞きますけど?」


 楽しそうに笑う異国の少女に、幼き王者は開きかけた口を閉じた。何度か瞬きをし不思議そうに顔を傾げる。


「私は()()()()()()?」

「そうよ?いろんな責務を背負ったお姉さん」


 スッと表情が消え去った。可愛らしい笑みが消えた顔は、蝋人形のように生気を感じられない。キラキラと輝いていた瞳も嘘のように虚。今までの表情が嘘だと錯覚するほど、目の前に座っているのは人ではなかった。


「私、こう見えてお姉さんより強いのです」


 その言葉に少女は少し頷く。少女も()()()()()一番の実力者だ。相手の力量ぐらい判断できる。例え『女王』と『絶対王者』が二人がかりでも、目の前に座る()()には勝てそうにない。


「そんな私の渾名はご存知?」

「……天使や女神かな?」

「当たらずとも遠からず。……(わたくし)正真正銘の()()()と呼ばれております」


 クスッと小さく笑いフルーツタルトを口に運ぶ様は、天使の様に愛らしい。容姿は化け物かと思うほど秀でているが、こう言う場面では愛らしい()()の様な反応をする。この()()の様な反応を見せられれば、いくら大人顔負けな仕草や喋り方でも自分より年下の可愛い子供にしか見えない。

 そんな()()がどうして化け物であるのだろうか。


「内面、考え方の問題ですかね?(わたくし)、感情を露わにしてはなりませんの」

「……私って、感情が出やすい?」

「いいえ?狐と狸の化かし合いが楽しくて……ついつい勉強し過ぎました」


 ウフフッと妖艶な笑みを浮かべた姿は、確かに天使とは言い難い。同性である少女ですら惚れてしまいそうになる。


「それだけなの?」

「賢いですね。……そうです、少々()()()()()()()


 どうにか話を逸らせば、正解だったようだ。妖艶な笑みが消え、精巧な人形がこちらを見つめてくる。先程との違いは、瞳が陰っている所だろう。よくよく見れば口元も微かに歪んでいる。


「お姉さんと同じように、上に立つものとしての仕事もしております。その仕事と同じくらい大事なのは、挑戦者を負かすことです」

「負かす?……()()()?」

「……その察しの良さでは生きにくいこともありましょう。いや、今の状況がそうですね」


 愛らしい容姿に似つかぬ声の低さで異国の少女は笑う。その姿は天使とは程遠く、()()そう呼ばれるべきモノだ。


「えぇ。他人の感情を察することでができるからこそ……いいえ、それを察せざるを得なくなった。後天的……違いますね。既に壊れかけておりましたか。

 ですが、今ならまだ間に合います」


 少し笑みを溢した異国の少女の姿はまた変わっていた。今度は聖女のような慈愛に満ち溢れたモノ。

 ……だが、聖女らしい清らかさが感じられない。先程の悪魔と同じように感じられる。


「お姉さんが察しられた通り、(わたくし)は『人』である為に()()()()()()()()

 だから私は負けられない。人外の才能の持ち主が人にまけてしまえば、それは本当の化け物になってしまう。

 私は人である為に、他人が己の上に行くのを許さない」


 慈愛に満ち溢れた聖女から悪魔のような言葉が聞こえた。彼女の考えは確かに壊れている。

 だが、『英雄』をその座から下ろしてしまった少女は分かってしまった。かの『英雄』も目の前の少女の歳(よりは上である)から、『王者』の座についていた。彼もその才能から恐れられるべき立場にいたと聞いた事がある。彼の功績が人を救い、皆が忘れたように『英雄』を称え出した。

 だから、彼は英雄の立場が嫌いだ。民たちの『憧れ』が苦しい、負けてしまえば()()()()()()()。酔う時に口にしていたと、彼の部下が話していた。

 その気持ちは少女も一緒だ。『英雄』を討ち破っても、『若き王者』は何もしてない。いつしか、悪に手を染めるのでは無いか?そう、話されているのを知っている。記者たちがその傾向がないかと、取材していることには()()()()()()


「でも、お姉さんは狂っていませんよ?」

「え?」

「だって、アナタは人を見ようとしているでしょう?見ず知らずのいかにも怪しげな少女と個室で話し、それでいて名前を聞くなんて人らしいじゃないですか」

「そう……なの?」

「はい!」


 そう言って笑った少女は、最初に見せた年相応の笑顔を浮かべていた。


「私の話し相手になってくれませんか?お姉さん」

「喜んで!」




 こうして、『若き女王』が人として生きる為の挑戦が始まったのである。















裏話

実はバレンタインの話だったんです。その名残が冒頭のザッハトルテとホットチョコレートです。それ以外は何も残っていません。残りませんでした、残念無念。

絶対王者もただの馬鹿野郎としかなりませんでした。

バレンタインから変わったのが、『王者』と言われる苦悩についてです。どの世界でも勝ち続けるには色々と苦労がありそうでしたので、『才能』と表現させて頂きました。

ですが気に入りつつも、もっと違う表現がしたいと思う感情があります。



その為、この話を基準にして中編を書こうと思います。視点は裏設定が止まらない異国の少女です。

魔法の世界にしたいと思います(貴族はあり)


いつになるか分かりませんが、楽しみにして頂けると幸いです。




以下は、改稿に影響が出ない程度の設定です。


少女(若き王者、若き女王)

『絶対王者』に才能を見出された普通の娘。周囲からまさしく天賦の才と言われている。

『絶対王者』の恋愛感情(とは言い難い代物)には気づいていない。(寧ろ呪いだと苦しむ)

周囲の感情には元から機敏であったが、人の悪意に触れすぎたことによって悪化した。その為、心配する周囲には気づいていないが、怖がっている周囲の思惑には気付いている。

異国の少女により、人間らしく生きようと考え始めた。


絶対王者(愛の怖い人)

少女の才能に惚れ、少女が自分の元に来る様色々と画策していた。少女に向けられるのは一種の恋愛感情(本人曰く)。

己としては愛を囁いているつもりだが、そんな訳はない。いい加減にしろって言いたい(周囲の人間が胃を痛めている)。

異国の少女により恋愛風味もヤンデレ風味も消され、登場すら消された。可哀想に。

年下趣味ではなく、才能に惚れた後全てに惚れた。外見は重視しない男。



異国の少女(愛らしい人形、化け物、人外、蝋人形、聖女、悪魔、etc)

外見は人外じみた美しさで、内面も少々と言っていいのか迷うほど狂っている。と言っても、見たことも会ったこともない少女を救う為に色々と根回ししたあたり、人間らしい一面も。

伝説に残るほどの強さと実力の持ち主。

幼児と表現されるほど幼い。

狐と狸の化かし合いが大好き。1を聞いて10に気づき、その情報を3倍にして返す。(彼女の舌はよく回る。口論しないほうが良い) 故に、絶対王者の歪な感情に気づき愛が怖い人と呼び(怖がってできれば)関わりたくない。だが、少女を救うためには仕方がないと諦めている。


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