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ホワイトマン  作者: 水見 あさや
1.日常
8/67

1-7


 ステージの中央に立つマージの高らかな歌声で、ステージは幕を開けた。

始まりに伴奏はなく、マージの声だけがホールいっぱいに広がる。



 マージの歌声は不思議だ。

一度聞くと、そのまま頭の中に住みついて離れなくなる。

声を張るところはパワフルに、気持ちを落ち着けるところはしっとりとメリハリがきいていて、パートによってがらりと印象が変わる。

目を閉じて聞いているととても一人で歌っているようには思えない。



 器用に音程を操るマージは、聴覚だけで人を支配する。

スピーカーから流れるのは過去に録音したCDの音源だけれど、パフォーマンスと融合して観客はそれに気付かない。

同じ曲でも何パターンも用意してあって、常連客はおろかショーガールですら、最初は生歌だと思っているくらいだ。



 高らかに歌い上げたマージが両手を広げるのに合わせて、上部のライトが中央から舞台袖へ、カーテンを開くようになめらかに点灯する。

一つ一つのスポットライトの下で待機していたあたしたちは、スイッチが入ったように動き始める。

短いスカートを揺らして客席へ歩き出すと、マージの歌にうっとりと酔いしれていた観客の目の色が変わる。

音楽に合わせてぴたりとポーズをとる度にライトが激しく明滅し、客席を煽る。



 センターを陣取っていたマージの前に躍り出て、観客の視線を強引に奪う。

照明が控えめになる度、客席の前方はもちろん、端や最後列まで残らず目を配る。

一人でもつまらなそうな顔をしている男がいれば、すぐさまウインクを送り「あなたのことを見ているわ」と合図をする。



 マージが静ならあたしは動だ。

互いに自分の武器を活かしてステージを引っ張っていく。

自信をもってパフォーマンスをする人間に、自然と観客の目は集まってくる。



 せわしなく瞬いていたライトがスポットに切り替わった。

ショーガールの一人がその中でポーズをとると、客席から歓声が上がった。

ライトが切り替わり、次のショーガールが浮かび上がる。

ちょっとしたメンバー紹介の最後から二番目があたしだ。

唇をとがらせて胸を強調したポーズをとると、歓声がぐっと大きくなった。

トリを飾るのはもちろんマージで、あたしの時よりも更に大きい声があがる。



 マージが歌うシーンではその足元に跪き、影と同化して気配を殺す。

ライトを浴びるマージはため息がもれる程に美しい。

スタンドマイクに這わせた指でリズムをとり、気持ち良さそうに目を伏せて唇を動かすマージを、特等席に座る観客の気分で堪能する。



 センターに立つあたしとマージは、ショーガールたちに取り囲まれて徐々に一つの円の中に閉じ込められる。

マージはあたしの髪に指先を絡め、あたしはマージの身体にすり寄る。

スピーカーから流れるマージの声に合わせてあたしも口を動かし、コーラスを歌っているかのような演出をする。



 歌い終えたマージがマイクから手を離したタイミングで、スタンドを蹴りつけてそれを倒した。

マージに易々と近付こうとしたら、同じように蹴っ飛ばしてやるから。

あたしの無言の牽制を最後にライトは消え、ホールは大歓声に呑まれた。



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