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ホワイトマン  作者: 水見 あさや
5.デート
65/67

5-12


「そんな風に言ってくれる人はあなたが初めてだわ。あなたは最初からそうだった。たくさんの荷物を抱えて困っていたあたしを、見返りも求めずに助けてくれた。ねぇ、あなたはどうして、そんなにもあたしに優しくしてくれるの?」



 ホワイトマンが浮かべている笑みから、わずかにでも何か見えないだろうかと目をこらす。

あたしの真剣な視線に多少たじろぎはしたものの、ホワイトマンは目を逸らそうとはしなかった。



 ホワイトマンは、小さく息を飲み込むように顎を引いて、こう言った。



「あなたのことが好きだからです」

「すっ」



 想像以上の答えが返ってきて、思わずおかしな声が出た。



 愛を囁かれたことなんて、今まで数えきれない程にある。

それがペットをあやすような軽いものや、あたしの腕には余りある深い思いだとしも、あたしはすべて受け取って同じくらいのものを返してきた。

それができたのは、向かい合う相手があけっぴろげに好意を見せつけていたからだ。

事前にそれを感じていたからこそ、頭の中に気の利いたセリフをいくつも用意して、相手が気持ちを打ち明けてくるのを待つだけの余裕があった。



 それが、今はまったくいい対応ができなかった。

ホワイトマンがそんなことを言い出すとは思ってもみなかったからだ。

好きとか嫌いとか、そういうはっきりした感情を、恥ずかしがり屋のこの人が表に出してくるとは思わなかった。



 あなたのその好きっていう気持ちは、どういう意味を持つものなの?

好きの種類にも色々あるじゃない。

綿毛のように軽いものから、大岩みたいに重いものまで。

あなたは一体、どういうつもりであたしを好きだというの?



 しんと静まり返るテラスで、今の言葉の理由を求めようとした。

ふと違和感に気づき、言葉を喉元で押し留める。



 ちょっと待って。

まりにも静かすぎる。

ティータイムのカフェって、もっと賑やかなものじゃなかったかしら?



 視線を動かし、店内の気配を窺って唖然とした。

あたしたちの周囲にいるお客が、おのおのの会話を中断してこちらのやり取りに耳を澄ませていた。

中には、好奇心を隠さない図々しい視線を向けてくる人もいる。

ホワイトマンの声は決して大きくはなかったものの、他人の興味を引く内容だったせいで、余計な人まで注目してしまったらしい。

空いた席を片付けていたウェイターまでも、やけにもたついた手つきでテーブルを拭いている。



 ホワイトマンも周囲から注目されていることに気付き、少年のような羞恥の表情をして顔を伏せた。

その反応がかわいくて笑い出したい気持ちもあったけれど、それ以上に彼に注がれる無遠慮な視線に浅い怒りが湧いた。



 あたしは、さっと演技の笑みを張り付けると、注目している範囲の人間に届く声量で言った。



「あら、ありがとう。それは、あたしのショーのステージに惚れ込んだということ? つまりはこれからも、熱心なファンでいていただけるのかしら」



 あたしたちがどういう関係なのかと探る不躾な目に、「ステージに上がる立場の女とその観客」という答えを押し付ける。

あたしの目配せに気付いたホワイトマンも、わざとらしく声を張り「そうです。ご存知かと思いますが、私はあなたの大ファンなのです」と答えた。



 あたしたちの関係が進展するんじゃないかと期待していた周囲の人間は、そのやり取りを聞いてあっさりと諦めて、さっさと自分たちの話に戻っていった。



 テーブルを片付け終えたウェイターがその場を離れるまで、あたしたちはにやけた視線を交わすだけで黙っていた。

適度な雑音が周囲に満ちた頃、テーブルに両肘をつき、前屈みになってホワイトマンに囁いた。



「タイミングが悪かったわね。もう、突然あんなことを言い出すんだもの、驚いたわ」

「すみませんでした」

「謝らないで。責めてるんじゃないの。好意的に思ってもらえるのはとても嬉しいことだわ。どうもありがとう」



 気を取り直して、二人だけの話に意識を戻す。



「さっきの言葉に、あたしは答えを用意するべきなのかしら。あなたは、あたしにはっきりとした返事をしてほしい?」



 口元に笑みが乗っているのは自覚している。

でも、今のあたしはきっと、優しい微笑みとは明らかに異なる、一歩引いた愛想笑いを浮かべているのだろう。

それに気がついたのか、ホワイトマンはわずかに身構えた。



「いいえ。先ほどの言葉は、あなたに何かを要求するものではなく、感じたことをそのまま口にしただけのものです。どうして優しくするのか、という問いかけに適切なのは何かと考えた結果、あの言葉が出てきました」

「そうなの。よかった、安心したわ」



 もし答えを必要とする類の告白なら、受け取ることはできなかったから。

そんな言葉を胸の中にしまい込む。



 紅茶のカップをそっと持ち上げ、ポットから継ぎ足さずに飲み干した。

あたしの目を覚まさせる程に、それは冷たくなっている。



「今からあまり楽しくない話をするけど、無理に相槌を打たなくてもいいから。聞きたくなければ無視してね」



 そう前置きして、声の調子をワントーン下げる。



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