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壊れないよう何重ものクッション材で包んでもらった小鳥を連れて、あたしたちは通り沿いのカフェで休憩をとることにした。
スクランブル交差点の角にあるその店の存在は知っていたけれど、入るのは初めてだった。
せっかちな冬の日差しは傾き始めたものの、慌てて屋内に逃げ込む程の寒さはまだない。
現に店頭に並ぶテラス席には、弱々しい日差しの下でティータイムを楽しむ人たちが大勢いた。
テラスの端のパラソル席が空いたのに目をつけ、ウェイターにねだってテーブルを片付けてもらった。
交差点から一番遠いそこは、行き交う車の流れも、テラスに座るお客も、通りを歩く人も眺めることができるなかなかの席だった。
目を細めて通りを見つめるホワイトマンの腕時計に目をやり、思った以上に時間が進んでいることに驚いた。
「もうこんな時間なのね。あちこち案内してくれてありがとう。疲れたでしょう?」
「そんなことはありません。私はいつもこんな風にふらふらと歩き回って、行ったことのない店を探していますから」
けれど、と言葉を濁して、ホワイトマンはわずかに眉をひそめた。
「けれど、なに? 教えて」
食いついたあたしをちらりと不安そうな目で見やり、ホワイトマンは遠慮がちに口を開いた。
「貴重な休日の過ごし方として、今日は相応しかったのでしょうか」
「それは、どういうこと?」
「あなたの隣に立つのが私でよかったのか、ということです。街を歩きながら、あなたは何度も声をかけられていました。視線を送っていた人数ともなれば数え切れません。そんなあなたの隣にいるのが、私のような男では」
「いくら親しく声をかけられても、相手はただの通りすがりの男だもの。足を止める必要なんてないわ。
一人で歩いてる時に声をかけられても、立ち止まったりしなかったわよ。
もう、物憂げな顔で何を言い出すのかと思えば。
あたしは今日、あなたとの街歩きを心底楽しんでいたのよ。見てわからなかったかしら?
それなのにあなたは、そんなことを考えながらペースを合わせてくれていたの?」
わざとらしくむくれると、ホワイトマンはおたおたと慌て出した。
想像通りの反応を素直に返されると、かわいげのない演技なんてたちまち解けてしまう。
「冗談よ。怒ってないわ、ごめんなさい。でも、今言ったことは本当よ。あたし、たまの休日まで知らない男といたがる程、寂しがりじゃないのよ。なんて、毎晩違う男と過ごしている女の言い分なんて、説得力に欠けるでしょうけど」
そのことに触れてもいいものかと、ホワイトマンの表情が惑う。
テーブルの上で両手の指を組み、目を伏せて顎を引く。
パラソル越しに暖められた空気が頭上に浮遊してはいるものの、日差しは遮られて暗く、ホワイトマンの目元や口の端には濃い影が落ちている。
視線を落として黙り込んだ今、ホワイトマンがまとう朗らかな空気は消え、やけに距離を感じた。
目の前にいるはずなのに、手も声も届かない場所へ行ってしまったみたいだ。
それは不愛想でとげとげした拒絶ではなく、自分の存在を空気に溶かして雲隠れしたようだった。
そうして人目に触れない姿になって、自分の考えが結論に至るまで押し黙る。
そんな姿だった。
自分の気持ちをこねくり回して探っている最中の相手に、「どうして黙るの」なんて急かすことははばかられた。
言葉を整理し、納得できる形で話し出すまで、邪魔をしてはいけない。
あたしは店内の様子を何気なく眺めるような体勢で、ホワイトマンを盗み見ていた。
心の中で、言葉が固まったのだろうか、ホワイトマンが顔を上げた。
スローモーションの映像を見るように、薄い唇がそっと開く。
その喉の奥から、深く落ち着きのある声が発せられようとしたその時、タイミング悪く注文したものが運ばれてきた。
せっかく固めた決意が、シャボン玉のようにぱちんと弾けてしまった。
それに自分で驚いた顔をして、ホワイトマンがあたしの前に戻ってくる。
うっすらとした緊張感に引き締まっていた空気が、束の間和らぐ。
ホワイトマンの前には優しい色合いをしたロイヤルミルクティーが、あたしの前にはフルーツティーのポットと、揃いのティーカップが置かれた。
ガラスのポットの中にはりんご、オレンジ、梨、桃、あんずなど、大きくカットされたフルーツがぎっしりと詰まっている。
もくもく上がる湯気を揺らして、角度を変えて満足いくまで目で楽しむ。
紅茶をカップに注ぐと、湯気が空気中にふっと広がり、自然と頬が緩んでしまう程に濃厚な果物の香りが漂った。
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