5-7
「それにしても、あなたのお話はとても面白いわ。すっかり聞き入って、料理が冷めてしまったくらいよ」
「それは申し訳ありませんでした。ですが、ありがとうございます。あなたこそ、人に話をさせるのがお上手ですね。熱心に聞いていただけるのが嬉しくてつい話が弾み、同じく料理が冷たくなってしまいました」
ほのかに温かみの残る肉を口に運ぶ。
固くなってはいるものの、程よい歯ごたえがあってそれはそれで美味しい。
「思えば、旅先でのことをこんなに語ったのは初めてです。社の人間は利益になりそうな話しか聞きたがらないので、私も必要最低限のことしか伝えないのです」
「そんなのもったいない。商品以上に素敵な話があるのに、それを聞こうとしないなんて」
握った手を振って訴えるあたしを、ホワイトマンは目尻にしわを寄せて優しいまなざしで見た。
時間をかけて食事を終え、食後のコーヒーを満足した心地で飲む。
このコーヒーは、さっき見かけた時と同じく店主がカウンターで挽いて淹れてくれた一杯だ。
その工程を知っているからこそ、更に美味しく感じられる。
「あなたはお仕事柄、素敵なものを見つける能力に長けているのかしら。あたしもそれなりに出歩いてきたつもりだったけど、こんなに落ち着く店や、あなたがくれるようなセンスのいいお菓子を知らなかったわ」
「休暇中だというのに、仕事の延長のようなことをしてしまいます」
「それが嫌でなければ、いいことなんじゃないかしら。だってあたし、あなたがくれる贈り物にいつも楽しませてもらってるもの。目で楽しんで、舌で楽しんで、食べ終える頃には疲れを忘れられるようなものばかりなんだもの」
「ありがとうございます。そう言っていただけると救われた気持ちになりますね」
ホワイトマンは少し緊張した面持ちで、そっと視線を持ち上げてあたしを見た。
「午後もお時間はありますか? 今日はまだ行ったことのない通りを歩きたいと思っていたのですが、よろしければ一緒に街を散策しませんか」
「嬉しい。ぜひお願いするわ。あなたが好きなものは、どうやらあたしも好きみたいなんだもの」
ホワイトマンの目の奥がきらりと輝く。
それは飢えた獣のきらめきではなく、胸に押し込め損ねた喜びが弾けた、そんな光だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
*




