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今夜ホワイトマンがくれたのは、重くもないけれど軽くもない、不思議なものだった。
袋の口に巻かれたワイヤータイをとき、ほんの少しだけ胸をときめかせながら中身を取り出した。
透明なプラスチックのケースに入っていたのは、ロックアイスのようにいびつな形をした、半透明の砂糖菓子のようなものだった。
舌の上に乗るくらいの大きさで平たく、それぞれにホワイト、ピンク、ブルー、イエローなどの色がうっすらとついている。
ケースを左右に振ると、中身がからからと軽い音を立てる。
ふたを開けて触れてみると、それはさりさりした感触だった。
つまんでいても溶ける気配はなく、まるで作り物のようだ。
ケースには期限が印字されたラベルが貼られているから、食べ物ではあるらしい。
つまんだ指に力を入れると、表面に細かなひびが走った。
またしても、見たことも食べたこともない代物だ。
「またあたしの知らないお菓子。こんなもので機嫌をとったつもりなの?」
むしゃくしゃした気持ちで、さっきひびを入れてしまったピンクを一つ、ぽんと口に放り込んだ。
見た目通り、氷砂糖のように固いんだろうと思い切り噛んでみると、それは予想に反して軽い食感であっさりと崩れてしまった。
しゃりしゃりとした歯ごたえが面白く、それを追いかけて噛み砕くうち、遅れて控えめな甘みが口の中に広がった。
想像よりずっと面白い歯ごたえで、もう一つつまんでみたくなった。
薄い氷で覆われているような、これの中身はどうなっているのだろう。
イエローをつまみ、今度は半分だけかじってみた。
表面の軽い食感の部分は砂糖のコーティングなのに対し、中は透き通ったゼリーのようだった。
とろりと零れ出しそうなのに、触ってみるとしっかりと固まっていて、半透明な砂糖の中に光を蓄えている。
素朴な美しさに惹かれ、部屋のライトにかざしてみる。
なんだか懐かしい色合いだ。
ぼんやりと記憶の欠片を探るうちに、今の今まで忘れていた思い出が急速に眼裏によみがえった。
そのカラフルな砂糖菓子は、浜辺に打ち上げられたガラスの玉、シーグラスに似ていた。
割れたガラスの破片が、波に洗われるうちに角をなくし、冷たい感触を持つ不透明な玉になる、あれだ。
幼い頃、波打ち際で見つけてはポケットに入れて持ち帰った。
そんな浜での思い出が、波の音と共に打ち寄せてくる。
排ガスと香水のにおいでまひしたあたしの鼻が、懐かしいにおいを嗅ぎつけた。
饐えたようなにおいが鼻の奥にしつこく引っかかる、あの町の潮の香りだ。
発作的に胸がちくりと痛んだ。
あたしはまだそこでのことを振り返りたくはないのに、ホワイトマンがくれたきれいな菓子のせいで、意識とは関係なく思い出してしまう。
あたしをおびやかす小さな菓子なんか、腹いせに細かく噛み砕いて食べてしまおうかと思った。
でも過去と重ねたら最後、そんな残酷なことはできなくなった。
それはかろうじて残っているあの町での温かな思い出が詰まった、脆いガラス玉のように思えた。
それを粉々にしてしまうなんて、あたしにはできるはずがなかった。
食器棚から深型のテイスティンググラスを取り出し、その中に砂糖菓子を空けた。
グラスの中を滑るそれは、ガラス玉と同じように擦れた音を立ててはしゃいだ。
心のどこかを危うくさせる不思議な菓子を眺めているうちに、あたしをおびやかしていた気持ちの悪い眠りや、重苦しい疲れは収束していった。
テーブルの上に置いたグラスを、床にしゃがんで側面から見つめる。
指でグラスを揺すると、中に入った思い出の破片がからんと小さく音を立てた。
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