3-5
「一体どうしたのよ、クルト。なかなか出てこないから焦ったわ」
「ステージ慣れしてるあんたから、ライトに飲まれたなんて聞きたくないわよ」
「袖で見てるこっちまでひやひやしたぜ。なぁアレル」
「ああ、本当に。どうしたクルト? もしかして立ったまま寝てたのか?」
息を切らして楽屋に戻ったあたしを迎えたのは、仲間たちからの矢継ぎ早の冷やかしだった。
それは責める口ぶりではなく、めったに失敗しないあたしをからかう軽口だ。
支配人は失敗すらかわいがってくれるから、あたしを叱ることができるのはマージだけだ。
幸い今夜はその姿はないから、あたしはみんなからの茶々を受け流すだけでよかった。
「ステージ上で寝たりするもんですか。驚かせてごめん。くしゃみが出そうになっただけよ。それにしても、指笛を吹いたのは誰? あたしは犬じゃないわよ」
「ごめんクルト。咄嗟に昔飼ってた犬を呼ぶ時のことを思い出したのよ」
細かいウェーブがかかった髪を一つに結った子が、唇に細い指を添えて息を吹く。
すると狭い楽屋に、あたしを呼び起こしたのと同じ音色が響いた。
あたしはわざと怒ったふりをして、シガレットケースを掴んだ。
「次の出番もすぐ来るわよ。下りてこなかったら、今度こそ出番をもらうからね」
「わかってる。今度はとちらないように、屋上でリハーサルしてくるわ」
肩をすくめて言い返し、あたしは夜風の中へ飛び出した。
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