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きらびやかなその世界は、昼に活動して夜眠る規則正しい街に取り囲まれて存在していた。
見上げる程に高い壁に囲まれ中は見えず、耳を澄ませても雑多な賑わいのひとかけが聞こえるだけで、様子を窺うことはできない。
暗闇に覆われている間だけ開く門をくぐることが許されるのは、夜を楽しむ術を知っている大人だけ。
通りを照らす派手なネオンも、そこかしこに漂う濃厚な空気も、未熟な子供には有害だからだ。
夜通し明かりが絶えることのないその街は、日が昇らない長い夜を意味する白夜、通称ポーラーナイトと呼ばれていた。
ポーラーナイトの光にはどれも色がついている。
ピンク、イエロー、グリーン、パープル、様々な色が混ざり合って訪れる人間の目の奥を焼き、街一帯を染め上げている。
その光は、街を囲む壁に阻まれて外には漏れないものの、ふたをしていない上空からするりと逃げ出して、都会の真ん中をオーロラのように彩った。
毒々しい街では、金があれば何でも手に入った。
食べ物や服、装飾品はもちろん、知識や居場所、友達や恋人だって選んで得ることができた。
当然その代償は大きく、元手のない人間がたやすく手を出していいものじゃない。けれど、時間や金銭の感覚があっという間に狂ってしまうこの街では、自分で自分の手綱を引くことは難しい。
何も失わずにこの街を出るには、砂糖菓子のように甘い誘いに乗ってはならないし、熟した果物を思わせるかぐわしい香りの正体を知りたいと思ってもいけない。
猫なで声に振り向いたら最後、抗う間もなく引き込まれ、終わりのない坂道を転がることになる。
枝分かれした道をピンボールのように弾み続けた末に待つのは、賭け事に没頭して日常を壊したり、商売女に惚れ込んで心を壊したり、量が増えるアルコールに身を壊すといった悲惨な末路ばかりだ。
東の空が白む頃、一晩中はめを外していた客人たちはようやく眠気を覚え、朝霧の中、安心して眠れる巣へと帰り始める。
そうして客人を吐き出して、朝が来ると同時に街は息を潜める。
あたしはポーラーナイトのことを、夜の始まりと終わりに大きな呼吸をする、生きた街だと思っている。
美しさも汚さもないまぜになっているこの街が、あたしは気に入っている。
ちっぽけなあたしだって、ここでは歯車の一つくらいなら回すことができた。
幸運にも、あたしはこの猥雑な夜の中に居場所を持っている。
スポットライトに全身を焼かれながら、あたしは今夜もステージに上がる。
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