0 夢世界の入口
守らなければならない。
そんな使命感が、心に染み付いたのはいつだろう。
「………ね…ね…ねぇ、聞いてる!?」
「うにゃ…?」
「テ・ス・ト!!取りに来て!!」
「ふわぁ…はいはい、わかりました~」
「補修よろしくね」
「は?」
「はい!じゃあ今日はここまで!またね〜」
7時間目の終了のチャイムと共に教室を出ていった。
俺は高橋悠人。
陸上部に入ってるごく普通の高校1年生。
俺は思うが、この世界は常に幸福も不幸も人々に均等に配られてるらしい。
「ここ最近一番くじでA賞決まったと思ったらこれかよ…」
補修を受けて帰る途中声が聞こえた。
少なからず俺は。
(お前の人生半分よこせぇ!お願いだからぁ!!人生の勝利を君に託すから!!!)
「…は?」
周囲を見渡しても車が通るばかり。
幻聴だろう。疲れてるんだな…
(ねぇ!無視しないでぇ…はぁ…なんで人間から許可貰わなきゃいけないの…めんどくさい…錬金術でさっさと魂くくりつけて戻っていい?)
「ちょ、許可云々の前に説明してください…まずお前誰だよ…せめて姿くらい…」
(私は夢世界の住人Aでーす。事情があって君の人生半分貰いに来ましたー。なので許可くださーい。)
「…お引き取り願えます?」
(はぁ…なんで、あんたに説明しなきゃいけないのかわからないけど仕方ないわ、10秒間目つぶって先を見つめなさい?)
「はぁ…」
(人間に魔術って通用するの…?《やってみるか》)
ふとすると見た事のある風景が浮かぶ。
小さな部屋の中で、戦っている。
最近見た夢だ。
「危ない!!」
その声で目を開ける。
自転車と衝突手前だった。
「すみません…」
「学校の帰りでしょ?お疲れ様。」
気付けば家の前を通り過ぎていた。
「疲れてるんだな、俺」
それから寝るまであの声を聞くことは無かった。
家に帰り色々考えてみたが、何も分からなかった。
「そろそろ寝るか…」
そうして俺の意識は闇の中に消えた。
(…ね…ね…ねぇ、私の事分かる?)
(お前はさっきの声の子か…ここは?)
(ここは夢世界。現実世界だと脳に不可がかかりすぎるから連れてこれるかなって思ったけど、流石は選ばれし者ね…)
(夢世界…それより今日俺に映した風景は何?)
(そうね…私と彼は恋人であり同僚だと思ってくれればいいわ。それで、あの部屋で戦っていた理由なんだけど事情があるから気になるのは分かるけど避けるわ。それで私は錬金術師なのだけど、この人間界に彼の魂を受け入れるだけの器を持つ人間の子がいると聞いて探した結果貴方みたいなの。)
(俺が…?)
自然とそんな事を口からこぼしていた。
(私は彼が好きだって言うのもあるんだけど違う事情で、蘇らせなければならないの…ただ夢世界にも人間界と同じで、死者を蘇らせてはいけないという理があってね…)
(蘇らせる…?何だよそれ…何がしたいんだよ…!?)
(パニックになるのは分かるわ…でもよく聞いて!別に貴方の命を狩る気はないの!!人生の半分って言うけど貴方が起きてる時間は貴方の時間よ!邪魔はしないわ。ただ寝る時だけ彼の時間にさせてあげて…)
そう言う彼女はどこか寂しげな表情をしていた。
俺はそんな彼女を見捨てることが出来なくて優しく言ってあげた。
(いいよ。夜の時間だけなんだろ?)
すると彼女の顔が明るくなる。
(本当に!?ありがとう!でも最後に一つだけ私から忠告はさせてね。力には溺れないで…きっと今は分からなくても少しづつ分かるはずだから。私の名前も…)
(お前の名前…)
(ありがとう!今日はしっかり休んで。私はこれから術式を展開させなきゃいけないから。《リリース・トランスレイト》《▫️▫️▫️▫️・▫️▫️▫️▫️》▫️▫️▫️▫️。)
そうして僕の意識はまた暗転した。
まさかこれから僕が2人の世界を駆け巡るなんてこの時は誰も分からなかっただろう。いやもしかしたら彼女は知っていたのかもしれない。