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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 2
6/29

Part 2-1 I'm not looking forward to what we'll see out there

230 East 21st Street Gramercy Manhattan,NYC 16:35



午後4:35 ニューヨーク市マンハッタン グラマシー区 西21番街230番地




 ESS第一部隊のトラック5が高く低いパッシャーとワイルのフェデラル製電子機器が生み出す音を交互に鳴らしながら第13分署の前の西21番街の狭い道を走って来ると一般の通行車数十台が慌てて右の路肩に寄って道を譲った。


 キャビンの助手席に乗った分隊長のコスナー巡査部長は見えてきた状況に慌てて、運転しているカトレア巡査に車を止めるように命じブレーキを掛けた緊急トラックは13分署のかなり手前に停車した。その途端に幾つもの銃声が窓ガラス越しに聞こえだした。


 分署前に路駐する数台のPC(:パトロールカー)をバリケードに数十人の制服警察官が路肩を含めわずか十フィート(:約9.1m)ほどしかない道を挟み向のテラスハウスへ銃撃を行っていた。街のど真ん中で拳銃だけでなく半数近い警官がアサルトライフルで発砲している異様な光景に二人は息を呑んだ。


「隊長、連絡では発砲しているのは一人の女で──」


 カトレア巡査が戸惑いながら上司に尋ねた。


「用心して掛かった方がいいぞ! あれを見ろ。連中は戦争してる。容疑者は一人じゃないかもしれないぞ!」












 アンの部屋の引き剥がしてきたドアの陰に隠れエステバンは怯えていた。ドアの裏側には鉄の板がくっ付いていて銃弾を受ける度に指で押したように盛り上がりボクシングのゴングの様な甲高い叫びを立て続けにあげていた。


「坊主ゥ! 奥の階段から五階の俺の部屋に行って銃がしこたまある部屋の右から三番目の引き出し開けてスタンナグ2310と書かれた箱をありったけ持って来いィ! ありったけだァ! S・T・A・N・A・Gだぞォ!」


 隠れている階段下の物置から変な女の人が銃声に負けない大声で少年に命じた。その開いたドアにも鉄の板があるらしくエステバンのわずかに見える視界の一部で女の人が扉の陰に隠れ横下から腕を突き出し凄まじい勢いで家の外に向けアサルトライフルという大きな銃を撃っていた。床にはその銃が吐き出した金色の筒が足の踏み場もないほど散乱している。


「おばちゃん! ボク、おばちゃんから離れたくない!」


 エステバンが大声で返事をすると眉間に青筋を浮かべ顔をひきつらせながら女が振り向いた。


「バカガキぃ! 誰が“おばちゃん”だァ!? 俺様はまだ二十代だァ! さっさと行かねェと、尻の穴、三つするぞォ!」


 怒鳴られてもエステバンは本当にあの変な女の人から離れたくなかった。廊下と階段だけで十人の男の人を気絶させたあの人は圧倒的に強かった。皆が拳銃を持って倒れていたのを歩いて廊下を通り一階まで降りてくる間に少年は確かに自分の目で見てしまった。その内階段で倒れていた一人は女の人と同じぐらい大きな銃──それもアサルトライフルというらしい──を持っていた。あの人は一度も撃たれずに皆を簡単に倒した。それに彼女は易々《やすやす》と部屋の扉を引きがし──がすところを見ていたけど、間違いなくあのひとは片手で引きがした──少年の為に肩に担ぎ上げ一階まで持ってきてくれた。少年にとって間違いなく変な女の人は頼もしい人だった。


「でも──“おねえちゃん”から離れたらボク死んじゃうよ!」


 それを耳にして女はいきなり銃をエステバンの隠れる扉に向けフルオートで七発撃ち込んだ。


「さっさとォ、アモ取りに行きやがれェ! この“クソ”・“ガキ”! じゃねェと二人とも蜂の巣だァ!」


 エステバンは仕方なく黒いナイロンバッグを引きり廊下の奥へいずって行った。












 ショーン・ブラッカム警部は分署からわずかに離れた路駐の車の陰で荒い息をついていた。部下三人が瞬時に銃弾に倒れ、階下から応戦した制服警官の弾幕に紛れ逃げ出そうとした刹那、後ろから右足のアキレスけんを撃ち抜かれ、片足を引きりながらその車の陰に逃げ込んだ。


「クソッたれが! あの女、サイボーグか!? こんな仕事一万ドルじゃあ割に合わねえ!」


 言ったもののそんなはずはあり得ないと女を否定し続け彼は動く気配を背後に感じ振り向くと、黒いプレートキャリアーを装備し、タクティカル・ヘッドギアを被りM4A1を前屈みに構え、小走りに凶暴女のいるテラスハウスへ進む一団を目にした。背中には白いロゴでNYPDと表示されている。


 ESSだ! これであの女は射殺される! そうすればどさくさに紛れ、あのガキをかっさらってやる!


 ブラッカム警部は車のバンパーに手を掛け起き上がると片足を引きりながらこの期に及んで逃げ出した玄関へと向けて通りを渡り始めた。












 ESS第一部隊のコスナー巡査部長はM4A1カービンのバットプレートを肩に引きつけエイムポイントの視界に目的のアパートの正面玄関を捉えながら、13分署とは逆側の建物の際を早足で進んでいた。


「スコット、ローガン、お前たち二人は隣の建物上階の窓から移れないか見に行け。移れたら、状況を報せつつ階下へ侵攻」


 ヘッドセットのムーヴマイクにコスナー巡査部長が命じると彼のイヤープラグに二人から了解した旨の返事が聞こえてきた。即座に一団の中から二人が抜けアパート隣の玄関ドアを押し開き中へ入った。


 残った五人がテラスハウスの正面玄関に近づくと13分署の警官たちは射撃を中止した。


 コスナー巡査部長は太股ふともものポケットから収縮棒の先に小さなミラーの付いた索敵具を取り出すとスリングでカービン銃を胸元に下げ姿勢を下げ出入り口の際に片膝かたひざをつき鏡を突き出した。玄関内の七ヤードほど先の通路片側に階段があり、その下の扉が開いて死角を作っていた。その後ろ奧にも通路に扉が有りその横倒しになった扉のせいで廊下奥の床が死角になっていた。


 容疑者は何処だと息を潜め室内の様子を探り続けるといきなり室内から銃声が響き突き出していた小さなミラーが砕け散った。コスナー巡査部長は収縮棒を投げ捨てカービン銃のグリップを握りしめた。


 小さなミラーを廊下奥から視認出来るはずはなかった。なら容疑者は階段下の開きっぱなしの扉の陰に隠れているはずだった。彼は後ろを振り向き顔を左手で覆う仕草をした。後方に構える四人は即座にベルトのポーチからガスマスクを取り出すと顔面に装着した。命じたコスナー巡査部長も片手でガスマスクを装着し、その手で腰のベルトにぶら下げた閃光手榴弾を引き抜くとセーフティー・ピンのリングを口にくわえピンを引き抜いた。そうして握りしめたレバーの指を開きレバーが歩道に跳ぶと一秒待って階段下の開きっぱなしのドアの際へ勘を頼りに放り込んだ。


 爆音が始まったら、即座に五人で突入するはずだった。直後、一発の銃声が室内で響きコスナー巡査部長の構える目の前に筒の中間がいびつくぼんだ閃光手榴弾が転がり出た。避けることもかなわず彼らの目前で凄まじい連続した爆轟と日中でも直視できない輝きが広がって驚きの中でコスナー巡査部長は容疑者があなどれないことを思い知った。












 アンは玄関出入り口の際下から覗いた小さな確認鏡を撃ち抜くと弾薬の尽きたFN SCARーHアサルトライフルの最後の弾倉を抜きコートのポケットに押し込むとタクティカル・ベストのベルトで脇に下げ二挺のKSGー25ショットガンに握り替えた。吊り下げていた四挺のショットガンにはまだ九十発近いビーンバッグ弾が残っていた。だがナイロンバッグに小さな樹脂球の詰まった特殊散弾は飛距離が極端に短い。彼女の隠れる階段下の物置からはせいぜい玄関内に入りきった者しか倒せなかった。


 少年がNATO弾を持って戻るまでなんとしても玄関を死守しなければならなかった。彼女はこんな事なら廊下奥にミニガンを設置しておくんだったと悔やんだ。どのみちこのテラスハウスはアジトの一つにしかすぎない。他のアジトは早急に外敵からの攻撃を退ける火器増強をしようと彼女が思った刹那、乾いた転がる金属音が聞こえ十ミリの圧延鋼鈑を張り付けている扉のそばに黒い金属缶が転がってきた。


 目を丸くしたアンは瞬時に至近距離で閃光手榴弾を撃ち飛ばした。


 閃光手榴弾など一般の制服警官は使わない。外で連続した爆轟が始まると彼女はESUが来ていることを知り、遣いに行かせた子供が心配になり始めた。













☆付録解説☆

☆1【I'm not looking forward to what we'll see out there】嫌な予感


☆2:【Truckー5】E-ONE社が手掛ける緊急車両の一種です。E-ONE社は各国政府関係の特殊車両を製造するメーカーで、警察特殊車両や消防車両などを主に製造しています。Truck-5はESS(⇒Part 1-5後書き付録解説)が使用する緊急車両でもっとも大きな部類の車両になります。日本の中型トラック並みのサイズがあり武装火器だけでなくESSの複雑な職務を遂行する為にレスキュー装備も搭載されています。


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