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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 6
27/29

Part 6-2 You want to know the truth

1666 White Plains Rd, Bronx, NYC 01:25


午前1:25 ニューヨーク市 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地




 住宅地上空ギリギリを三基のAGMー114Rヘルファイア対戦車ミサイルはサステーナーの排気を響かせ飛び抜けるとピオニエレーネ・ファミリーのドン──ヴィト・カルーソーの邸宅外苑の雑木林に達し終末突入モードに入りDIP(:命中指示点)から反射してくるレーザー・エネルギーの最も高い地点を目指し進路を集束させた。


 アンとジェシカに脚と肩を撃たれ、邸宅のフェンス外に倒れ気を失っていたファミリーのメイドマンの一人ルチアーノ・ボンターレは大きなダクトから急激に空気が吸い込まれる様な音を耳にしてまぶたを開いた。その瞬間、雑木林のわずか上を三つの炎が走り抜け、地鳴りのような爆轟に体を震わせた。


 まさか、あの女アサシンが今のをやったのかと撃たれてない肩を起こし屋敷を見た。庭の生け垣越しに見える屋敷の高い屋根に届きそうな炎が荒々しく踊り狂っていた。それを目にしながら彼はこれがもう組織間の争いのレベルでなく完全な戦争なのだと思って、力が抜けると落ち葉の上に再び横になり呟いた。


「もう──俺らの手に負えねェ──」








 急激に圧迫してくるそれら(・・・)を敏感に感じ取りアンはリビングの隅まで引きっていた横倒しの両袖机の裏へ飛び込んだ。一対の黒のパンプスとメイド服のペティコートがその陰に引き込まれた刹那、何もかもを揺るがす地鳴りと、急激に高まった空気を追いかけてきたオーブンの様な熱波がエステバンの上に覆い被さったアンの背中を焼いた。


 リビングの窓壁は一瞬で全壊し、下がっていたシャンデリアは破砕しドアの方へ吹き飛んだ。その内開きのドアも蝶番をねじ切られエントランスへと高圧に弾き飛ばされた。照明器具だけでなく部屋の中の調度品何もかもが壊れ焦がれてくすぶっていた。


 いきなり起きた背後の窓壁の爆裂にガルシアは出入口の傍らまで弾き飛ばされ炎に呑み込まれた。爆風が収まると、炎の上がる横倒しのガルシアは腕を立て体を起こし始めた。だが彼のスーツはまったく燃えていなかった。まるで空気の上着を着込みそれに火が広がっていた。


「許さん──許さんぞ女──」


 完全に立ち上がると彼は倒されて天板の焼け焦げた両袖机をにらみつけた。そこからアンが立ち上がり姿を見せた。


「手めェ、しぶといじゃねェか!」


 アンはガルシアへそう吐き捨て、ほおのムーブマイクに小声で指示した。


「ジェス! 壁の倒壊した部屋に立つスーツ姿の男へ目標指示! 残弾すべて撃ち込めェ!」


『コピー(:了解)、御師匠!』


 ジェシカの返事にアンは引き伸ばしに掛かった。


「お前、忘れちゃいねェだろうゥなァ?」


「何をだ!?」


 周囲の火が消えたガルシアは服から埃を払い、ネクタイを直しながら尋ねた。


「身体を持つ事による縛り──をだ」


「女よ──そんなものを超越しているのがこの私だ!」


「そうは思えねェなァ──ガトリング砲弾に仰け反り、対戦車ミサイルに怒りを露わにしたお前は、明らかに頚木くびきられてるぜェ」


「ふん、女よ。それをこれから──」




「直爆で証明してみせなァ!」




 ガルシアのことばをさえぎりアンは男に吐き捨て、直後にまた彼女は机の陰に身を沈め長いブロンドの髪が吸い込まれ掛かったその須臾しゅゆ、アンディ・ガルシアの側面に五発の対戦車ミサイルが音速で群がった。


 一瞬でリビングは溶鉱炉の有り様に転遷てんせんした。ガルシアは凄まじい高圧に目を閉じ仰け反り五発のスーパーチャージHEAT(:成形炸薬弾)の収束する鋭い火焔にほおを波打たせた。その瞬間、彼の結界に亀裂が走り、無数の隙間から炎が蹂躙じゅうりんし彼は焼き焦がされ始めた。ガルシアは叫び声を上げ体を掻きむしったが食らいつく炎は離れようとはせず逆に残された結界の残渣ざんさが仇となった。見るみる間に彼のフィールドが爆炎に満たされるとその中に動くものがなくなった。


 物の弾け燃える音以外聞こえなくなるとアンは両袖机の陰から立ち上がり、男が立っていた場所を見つめた。そこには焼け焦げた残骸の一塊があるだけだった。アンは机の影からエステバンの縛られた椅子を持ち上げた。少年は二度の凄まじい衝撃に唖然としていたが、アンが目の前で指を左右に動かすと少年の瞳が揺れ動いた。アンは椅子を焦がれひび割れた床に下ろすと少年を縛りつけている紐をブローニングHPで撃ち切った。その銃声にエステバンは我に返った。


「おねぇちゃん──何があったの──?」


 周りを見回して少年が尋ねた。


「神が悪い連中にィ、癇癪かんしゃくを起こしたのさァ」


 エステバンに話しかけている彼女の影が揺れ動いた。その胸の部分に波紋が広がり影全体に広がると、最初に波紋が生まれた部分が盛り上がり始めた。


「おねぇちゃんに渡さなきゃ」


 アンが見てる目の前でそう言って少年は右足の靴を脱ぐとその中に手を突っ込み何かを取り出した。


「これ!」


 アンはエステバンから手渡されたものを眉根を寄せ見つめた。それは赤いUSBメモリースティックだった。そのデバイスを見つめる彼女の背後で影から盛り上がった“それ(・・)“は急激に人の形に豹変し足先が黒い革靴になり、黒いソックスを履いたくるぶしがはっきりと実体化すると勢いを得た様にしっかりと折り目の入った黒いスラックスが上に露わになった。


「何だァ──?」


「これを“正しい人に”ってママから言われたの」


「わからんなァ──お前、まさか、こんな物のために──」


 アンが言い掛けている途中でさえぎる様にうめき声が聞こえ、アンとエステバンは顔を振り向けた。その視線の先には部屋の隅にまで飛ばされひっくり返ったソファーがあり、その下の隙間から手が出てくると何かをつかもうと指がさ迷った。そうして長椅子をつかむと押し上げようとするが、高級だったそのカウチは焦げてなお重く何度も腕は力を込めていた。


 その時だった。いきなりアンは顔を前に揺すり口から多量の生血を吐き出した。エステバンは振り向きアンの真っ赤な血が口からあごにかけ濡らしているのを眼にし驚き後ずさった。


 彼女は顔を強ばらせ、口を左手のひらで押さえたが、さらに吐血すると身体を折り自分の胸元へ視線を下ろした。


 血で染まったメイド服とエプロン、タクティカル・ベストを突き破り中央に突き出した黒いスーツの腕がその指に鼓動を中絶した心の臓を握りしめていた。その赤い塊を眼にした彼女の唇から流れ落ちる緩やかな紅い液体の雫が《しずく》が、突き出された拳に落ち掛かろうとした須臾しゅゆ、そのしたたりが、ゆっくりと空中で停止した。止まったのは血の雫だけではなかった。その部屋のいたる所でくすぶる揺らぐ煙や、少年の震えていた唇も、ソファーをどかそうと動いていた腕も、動きを断ち切られ何もかもが止まった映画のフィルムの一コマの様に束縛されていた。


 その直後、アンの傍らに唯一動いているものが現れた。数滴の黄色い液体がしたたると大理石の床に落ちた瞬間、その石をかし激しい蒸気を立ち上らせた。その上にゆっくりと空中から白いスラックスを履いた素足が爪先を下に垂らし下りてきた。


 それは爪先からけ焦がれた石の床にゆっくりと下りるとかかとをつけた。


 純白のスーツを着た眉目秀麗びもくしゅうれいのそのものはアンを見つめ哀しげな顔ばせになった。




 何をしてる──?




 空気の響きではなかった。それは彼女の意識に入り込んでいた。




「見てのとおりさァ──」


 アンは身体を折った姿勢のままで答えた。




 帰っておいで──。




「やァなァこったァ──あそこはァ、ぬるま湯なんだよォ」




 だからといって、頚木くびきられて何が楽しい──?




「ここにはァ──満ち足りる事のないスリルが幾らでも転がってるゥ」




 困った子だ──。




「お互いさまァだァ」




 それなら、“そいつ(・・・)”を連れ戻ろう──。




「余計な手出しィ、すんなァ! 怒るぞォ!」




 やれやれ、なら私は見守るよ──。




「退場しろォ──たァ・い・じ・ょ・うゥ!」




 本当にどうしようもない子だ──。




 純白のスーツに身を包むそのものは、最後にそう告げると大理石を溶解させるしずくを垂らしながら両足を床から浮かせると、音もなく空中に消え失せた。その瞬間、止まっていたすべてがゆっくりと命を取り戻した。




 彼女の心臓をつかんでいた拳がいきなり引き抜かれると、アンは襟首えりくびを鷲づかみにされ両足のパンプスが床から離れた。その浮いた爪先の下へ彼女の臓器が投げ捨てられた。


「アン!!」


 少年の悲痛な叫び声が響いた。その声を掻き消す様に彼女の身体が振り回され、倒壊を免れた壁に運ばれると黒焦げの壁面に叩きつける様に押しつけられた。


「はははっ、所詮しょせん人間──ただの生き物に過ぎないものがツケあがる末路よ!」


 アンディ・ガルシアは酔いしれ勝利の叫聲おらびごえを上げ無抵抗になったしかばねを見つめ、それを今度は床に叩き下ろした。


「さて──名も知れぬ女よ──死してなお、たっぷりと陵辱りょうじょくされる屈辱を煉獄れんごくうらむがよい」


 そう言いながら、ガルシアは血に染まった右手の人差し指をアンの腰からスカート裾まで滑らせ手を掛けるとそれをたくしあげ始めた。






「クククッ──かわんねェなァ──てめェはゲス野郎だァぜェ!」




 いきなりしかばねが笑い声を上げガルシアを侮辱すると後ろ手に回した右手を返して襟首えりくびを押さえる男の手首をつかんだ。


 その白い手が爪先から赤紫に変化して行くのを男は顔を強ばらせ見つめてしまった。













☆付録解説☆


☆1【You want to know the truth】真実を見やがれ


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