Part 6-1 There's my storm coming,asshole
1666 White Plains Rd, Bronx, NYC 01:15
午前1:15 ニューヨーク市 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地
両手に持つ破片手榴弾それぞれのセーフティーレバーをいつでも弾ける様に人差し指一本で握り締め中指から小指までを開いた。
そうしてアン・プリストリは怪物を回り込む様に左へ足を繰り出し始めた。その怪物も合わせる様に回り込むのかと彼女が眼を離さないでいると、怪物は正面玄関の扉を睨んだまま動こうとしなかった。まるで出方を探られてる様な気がしてアンは用心を怠らずに真後ろまで回り込みながら怪物をどう料理するか思案した。
怪物はまだ、はちきれんばかりのスーツを着たままだったが、先のそれが同じ類のスーツごと粉砕したのを考えると皮膚なのかもしれなかった。彼女は、さて、どこにM67を突っ込んでやるかと考え、後ろからはスラックスのポケットが見えていたが、それが本物のポケットなのか怪しかった。
怪物の足下に転がす事も出来たが、そうなると自分も手榴弾の破片を浴びる事になる。前から口にねじ込むにしてもあの牙の間をこじ開けるのが容易ではないと彼女は判断した。そう考えた直後、いきなり怪物が横様に振り向きながら、長くなった右腕を振り回し襲いかかってきた。彼女は斜め後ろに跳び退き、遅れたブロンドの長髪を怪物の爪が掠った。
その瞬間、彼女は後ろから頭を殴られたほど前のめりに頭を引っ張られ床に振り回され倒された。彼女が見上げると髪の先を束ねる様に節くれだった醜い指が握りしめていた。
彼女を捕らえたことで怪物が初めて表情らしく顔を歪めた。アンは怪物が笑ったのだと思った。醜い突き出た口が開き、指ほどもある叢生の様に生える歯の間から粘り着く様な濁った唾液が数筋垂れ始めた。その量が増えるにつれてアンの髪を引く力を強め、彼女は倒されたまま床を引き摺り寄せられた。
「お前ェ! 俺を喰いたいなんて思ってるんじゃないだろうなァ!?」
彼女は喚き手がとどきそうなほど近くまで引き寄せられ上目遣いで怪物の涎を垂らすグロテスクなほこらの極みを睨み、その汚れた体液が顔に掛かりそうなほどまで牽曳されたその瞬間、いきなり彼女は立ち上がると、その勢いで飛び上がり、怪物の手のひらの傍らに頭を軸にして両脚を開き側転して飛び上がった。直後、筋肉の盛り上がった怪物の右腕に跨がり、アンは自らの両足首を怪物の腕の下で組み合わせると、凄まじい速さで背を反らし後方へ身体を落とすように後転した。咄嗟の人間の動きに怪物は腕から振り払おうとしたが、アンはすでに大きく仰け反り床に手榴弾を握り開いた残りの指を広げ両手をつくと、怪物は右腕を急激に引っ張られ一瞬で両足を床から浮かし座る様に着地した彼女の頭上を飛び越え背中から大理石の床に叩きつけられた。地鳴りのような音の直後、だらしなく開かれ口の際から長い舌を横へ垂れ下げ、怪物がうなりごえにも聞こえる呻きを漏らした。
開かれた手からブロンドの長髪を引き抜くなり、アンは右手のM67のセーフティー・レバーを弾き飛ばして、二秒待ち殴りつける様に怪物の口へ叩きつけた。そうして銃床を斜め上にして首に下がるハニー・バジャーのグリップを空いた手で握りしめそのまま手首を捻り怪物へ銃口を向けながら足早に退くと六歩も下がらないうちに爆轟が起き怪物の頭部が顎から爆裂した。
アンは眼を細め顔を左腕で庇い護ったが、前腕に飛んでくる肉片がすでに固形物になっていて、一滴の血も浴びずに、彼女が睨む様に見守る刹那、怪物がスーツなり寸秒で黒い色合いの石に変わると強化ガラスにヒビが一瞬で広がる様に無数の白い線が走り抜けバラバラに砕け散った。
その黒い破片の山に唾を吐き捨てると、アンは右手にPDWを握りストックを肩付けし構え、左手に手榴弾を握りしめたままどの部屋から調べるか考えた。
自分がエントランスに入るのを怪物が待ちかまえていた部屋が最も怪しかった。それまでその部屋を守っていたのだ。アンはエントランス正面の観音開きの扉まで歩くといきなりドアを蹴破った。
その広いリビングには二人の大人と椅子に縛られたままの少年がいた。彼女が突如現れて顔を愕かせたのは刑事の男一人と、春が来たのを喜ぶ花のような笑顔を見せる少年だった。マフィアのカポ・レジーム(:マフィア幹部の俗称)は逆に口角を吊り上げまるで歓迎しているといった面持ちだった。
「ほう──全員が銃器で武装し待ち構えていたのを突破しただけでなく、私が連れて来た二匹のガーゴイルを──」
アンディ・ガルシアが礼讃しているのをアンは無視し少年に怒鳴った。
""Hon ! Lean your chair bacK !!"
(:少年! 椅子を後ろに倒せェ!!)
エステバンが恐れずに椅子を後ろへ倒し掛かった刹那、アンはハニー・バジャーをフルオートで発砲し始め全弾をガルシアの顔に浴びせた。だが男の顔の直前に水面の波紋の様なものが空中に幾つも重なり、すべてのブラックアウトがバラバラと落ちた。それでも彼女は撃ち続け、同時にM67破片手榴弾のセーフティー・レバーを飛ばし二秒待ち直後男の足下へ放り投げた。瞬間、開いたままの扉のノブをつかみアンは後ずさると扉を引き寄せ陰に姿を潜めた。ブラッカム警部は手榴弾を目にし見たものが信じられないといった目を丸めた表情で転ぶ様にソファーの陰に逃げ込み、ガルシアが爪先を見下ろした瞬間、その足下で手榴弾が炸裂し爆轟が広がった。幾つもの破片が扉に凄まじい速さで食い込んだ。直後、弾倉を交換し終えたアンが扉の裏から姿を現すと、男の正面に消えゆく大きな波紋がうねっていた。
「無駄だと言ったはずだが──君!」
「ったく、気味の悪い野郎だぜェ」
言いながらアンは銃口をガルシアへ向けたまま、エステバンの方へ用心深く横に歩いた。そうして子供の傍まで来ると横目で見下ろした。アンと眼が合うとエステバンは目尻を下げたのでアンはウインクした。
「知ってるかァ貴様ァ?」
「何だ? お前の冥途への手向けとして拝聴してやろう」
「物事には限界があるんだァ。貴様にもなァ!」
言いながらアンは左手をタクティカルベストのポケットに差し込み煙草の箱をやや長くしたOD色(:軍用の濃い緑色)のFRS・M2ーIRストロボライトを取り出すと先端を赤外線カバーで覆ったままの状態で銃を握る指を使いスライドスイッチを押し上げ、それを手榴弾の爆発で割れてしまってるリビングの窓外へ投げた。その様を見ながらガルシアはアンへ馬鹿にする様に返事をした。
「人間ごときが推し量る尺度でこの私を語るとは笑止──逃がしやしないぞ。お前は──」
ガルシアに好きな様に語らせながらアンはエステバンの縛りつけられているパイプ椅子を左手一つでつかみ上げると、リビングのマホガニー製両袖机へ歩きそこに少年を静かに下ろし片手一つで両袖を横倒しにした。
「誰がァ逃げるってェ!?」
巻き舌で彼女は言い返しながら、その両袖机の足を差し入れる部分を部屋奥の方へ向け壁角近くまで引きずるとその隙間へ椅子に縛り付けられた少年を運び入れた。
「坊主、口を開けて眼を閉じてろォ」
横目で見下ろすアンに言われエステバンが頷くと彼女はガルシアに視線を戻した。
"So...Let me show you the measurements of your people, There's a storm coming, ASSHOLEee"
(:それならァ──人間ごときの尺度を見せてやろうゥ──これが嵐だァ糞野郎ゥ!)
マフィアのドンの邸宅から百ヤードの距離にある民家の傍らに移動していたジェシカ・ミラーはドキリとした。
「御師匠、本気で──」
彼女は呟きながら屋敷の外に光る赤外線ストロボの光を赤外線暗視スコープで確認するなりその部屋がどの辺りなのか覚え、師匠から預かっていたLTID(/Laser Target Instruction Disignater:レーザー目標指示装置)のビューワーでその部屋の窓際の壁を確認し、クロスヘアーの交わる部分が省略された中心を示すウェッジ(:∧)の先端をその部屋の窓下に合わせ、照射ボタンを押し込んだ。その瞬間、指よりも細い不可視レーザーが照射され窓下の壁に当たるとDIP(:命中指示点)からバスケット(:円錐状に広がるレーザー反射)が屋敷の外へ向け広がった。その直後、彼女は別なリモコンを操作し六百ヤード離れた通りに路駐させたトラックへ指示を出した。
人気のない夜更けの住宅街の比較的広い通りに路肩へ寄せ路駐させた六輪トラックのゼトロス2733がジェシカの送り出した制御信号を受け取ると、アルミコンテナの中間から上部が静かにモーターで開き始め、一基の旋回俯仰角ランチャーがせり上がり、素早く右へ220度回頭し、左右に装填された計八基のそれらのロック・セーフティを解除した。
直後、その中の三発がTXー657サステーナー(/Sustainer:ロケット・モーターの別称)を活性化され空気を震わせ薄い白煙を牽きながら急激に加速し空中に飛び出すと夜間の暗がりにハッキリと見える1ヤード半の火焔に圧され10Gの加速を始めた。
数ヤードでセミアクティヴ・レーザー・シーカーが反射波であるバスケットを左9時方向に探し出しその頂点をロックオンした。ターゲットを捉え続けながら飛翔し逐次変化する合成ベクトルをAD06 M229ソフトウェアが積分し続け最適な四つの飛翔モードからバンカー攻略であるLOALーFLATモードを選択し到達点の予測補正値を吐き出し続けた。
追従モードのルーチンに従いわずか200ヤード余りで音速超えの時速1530km/hに達すると250ヤード飛んだ時点で一旦は150ヤード(:約137m)の高度に達したが、なだらかに降下に転じて飛翔しながら400ヤード通過した時点で電子安全信管を解除した。そうしてほぼ真横から放たれ続けるバスケットの頂点目掛け螺旋を描くようにTAIMU(/three-axis inertial measurement unit:3次元慣性計測ユニット)が横九十度に近い目標へ連続した誘導を行い三基が揃って急激な旋回を掛けた。
その強速の凶暴な兵器──AGMー114R Romeo RXは“地獄の火焔(:ヘルファイアー)”という俗称で知れ渡る対戦車ミサイルだった。
☆付録解説☆
☆1【There's my storm coming,asshole】糞野郎、これが俺様の嵐だ
☆2【AGMー114R】(/Anti Grand Missile -114R Romeo RX)。合衆国4軍(陸軍・空軍・海軍・海兵隊)、またその他の国の軍で現行運用される対戦車ミサイルです。R-typeはIntegrated Blast Frag Sleeve (IBFS) warhead(:多目的弾頭)を持ち、装甲車、バンカーなどHardからSoft-Targetまで柔軟に対応できる弾頭で現行の東側主力戦車を撃破できます。




