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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 5
25/29

Part 5-5 EW !

1666 White Plains Rd, Bronx, NYC 01:05


午前1:05 ニューヨーク市 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地




 大柄ながら男の右胸の上で連射したマズルブラストがスーツを焦がした。


 右の肺を三度貫通されてなおも男はつかんだアンの左手首をわずかにも弛めなかった。アンは男の顔を探る様に見つめ、男が痛みをえているのか読みとろうとした。だが表情がまるでしかばねの様だと思った瞬間アンは嫌な事を思いつき顔をひずめた。


 彼女はそのままハニー・バジャーを左手でつかんだバーチカルグリップだけで支え、右手人差し指をトリガーガードから引き抜きレシーバー下部のグリップから手を放すなり拳を握りしめ自分より頭一つ高い男の顔面を痛打した。一発で鼻の軟骨が砕けた感触に、アンはその男がひるむだろうと踏んだ。だが、予想だにしない事が起きた。


 男は空いた左手で拳を作ると彼女から上半身を引き離すようにひねり左手を肩越しに引くといきなりアンの右(ほお)を殴った。スピードのそれほどない拳だったが、大きな手の異様に重いパンチだった。一瞬、意識が飛びかかりアンは眼に鋭さをみなぎらせると顔を振り戻した。そうして力勝負なのだと割り切ると右手で男の左手首をつかんだ。その途端に束縛を拒否する様に男は腕を引き戻し始めその彼女の指を振りほどきそうなほどの力を見せた。




「! こいつゥ──ゴーレムみたいなァ──」




 そうこぼしながらアンは引き戻そうとする男の腕をありったけの力を込めて引きずり出した。もう一度完全に引かれたら、またあの重いパンチを喰らってしまう事は分かり切っていた。そうして二人は腕を開ききるとアンは頭を思いっきり引きいきなり男の額に向けぶつけた。鈍い音がして顔を引いた彼女は男の表情を見つめた。その目がまるでタールの様な色合いのガラス玉の様に思え彼女には表情を読み取れなかった。


 こいつゥ、無痛症なのかァとアンは困惑し、このままもたついて他の連中が駆けつけるとマズいと考え、痛みはなくても動きは封じられると判断した。そうして男の左手を放すと、即座にPDWのグリップを握り、バーチカルグリップを握る左手を放した。ハニー・バジャーは全長が短く、接近し過ぎている互いの間をなんとか向きを変える事ができた。一気に男の左肩へ銃口を振り上げトリガーを引き絞り二発撃ち込むなり、右肩へ振り二発撃ち込んだ。


 両肩の関節を封じ両腕を使えなく──アンはギョッとした。最初に撃った左肩の関節を使えなくしたはずなのに、男はまた肩越しに拳を引いて殴ろうとしていた。


 ありえねェ!


 襲ってきた拳を彼女は咄嗟とっさにPDWのレシーバーで受け流した。完全に力を受けきれずにレシーバーの逆側がほおにぶつかり眼をしかめた瞬間、アンはブチ切れた。ハニー・バジャーを足下に投げ捨てその手でメイド服の上に着たタクティカルベストの前部に下げているM67手榴弾の一つを引き抜いた。ベスト側にセーフティピンが残り、結合しているレバーなりそれの基部をくわえると右手のひらを男の下唇に押しつけ親指と中指を上下の歯の間に食い込ませ強引に口を開かせた。そうして彼女は頭を大きく後ろに引くと、思いっきり前へ振り戻しくわえた手榴弾を男の口にぶつけた。鈍い音と共に彼女は顔を引くと、男の口にM67が入り込んでいた。


 アンはくわえたままのレバーを吐き捨て、ブロンドの長髪を振り上げ男につかまれたままの左手側に身体を振り、その男の右手首を左手でつかみ両手で振り回し男の背後に姿勢を落としながら回り込んだ。


 直後、男の肩の上で爆轟と共に頭部が撃砕すると信じられない事が起きた。




 両(ひざ)を地面に落とした男が着ているスーツごと寸秒で黒い色合いに変わると強化ガラスにヒビが一瞬で広がる様に無数の白い線が走り抜けバラバラに砕け散った。




 その黒い石の様な残骸を無言で見下ろしてアンは眉根をしかめると踵を返しハニー・バジャーを拾い上げ両手で構えながら館へ駆け出した。


 こいつら皆、人でないものにすり替わってるのか!? いいや、フェンスの外で撃たれた連中や、拳銃でついさっき腹を撃ち抜いた男は血を流していた。


 なら一部の者が人でないものに『擬態』されているのだ。だが手榴弾で今の奴は息の根を止めた。一定の限度を越えると人の姿を維持できなくなる。多少の銃弾が効かない理由がそれなら納得できると彼女は思った。


 今の見てくれが男の姿をした何ものかは、あの幹部の様にガトリング砲弾を手前で止める事はなかった。なら一弾倉すべて撃ち込めば倒せるかもしれない。


 毎度まいどM67を使ってたら本当に人を殺しかねなかった。銃弾なら最初の数発で人かそうでないか判断できると考え彼女は光学照準器の視界と、裸眼の視界に意識を集中し建物を回り込んだ。




 三十ヤード先の正面玄関の前に三人の男らがマシンピストルを手に警戒していた。


 アンは咄嗟とっさに立ち止まり驚異度が一番高く、正面玄関の張り出しに身を隠す可能性の高い男から銃弾を浴びせ始めた。その男の腰を撃ち抜き、気がつき振り向きマシンピストルを構え上げた手前の男の右肩を撃ち抜いた瞬間、彼女の肩の傍を鋭い音と共に何かが凄まじい速さで飛び抜けた。直後、残っていた男が肩を振り回し倒れた。


 あの女、俺様の肩をかすりそうだったぞとアンはジェスの事を考え眉根を寄せ、どこから狙撃してるんだと今度は片眉を上げた。二百ヤード先の民家からは正面玄関の辺りは見えないはずだった。彼女は余計な考えをかなぐり捨てPDWの弾倉を新しいものに替えながら玄関を目指し走り出した。


 ドアまであと十ヤードもなくなったその瞬間、いきなり連続する銃声が聞こえ彼女の足下に銃弾が連続して跳ねた。横を振り向きながら玄関口の屋根を支える柱を目指した。正面玄関へ通じる正門からの回り込むような道に走りながらマシンピストルを撃ってくる馬鹿者が二人いた。


 立ち止まり撃っていれば、暴れるマシンピストルでもその距離から倒される可能性があった。


 アンは一瞬で立ち止まり、肩付けしたPDWの銃口を振り向けその二人の下半身へ向けトリガーの操作だけでバースト射撃を始めた。三度のその発砲で二人の男らはつんのめる様に道に転がった。


 さっきの化け物を入れたならこれで十八人倒していた。残りは少ない。だが屋内に入ったならさらに油断できない。ジェシカの援護が及ばなくなるからだった。


 息を殺し正面玄関のドアのノブに手を掛けそっとわずかに開くと、アンは一旦いったんドアのヒンジのあるドア枠の壁の方へ身を退けた。そうして数秒待ち右足を伸ばし爪先でドアの付け根側を押してドアを開いた。それでも直ぐに開口部に身体をさらさなかった。まず、ドア枠の外から見える範囲で内部に待ち構える者がいないか、スレット(/Threat:脅威、敵、犯罪者)となる者が確実にいないか確かめた。確かめながら彼女は、どのみち街の組織暴力団──喧嘩や虚勢に毛の生えた勢いで殺しをやる連中だと見下した。特殊部隊やテロリストを相手にするのとは遥かに技術的に劣ると考え、マズルを振りながら一気に室内へ向かい足を踏み入れながら、ホログラフィー・サイトの赤いダットが流れる室内に敵を捉える瞬間を期待し端から端まで銃口を振り向けた。


 そこは円形の壁をしたエントランスで二階に上がる回り込む様な階段が左右にあり二階の通路に繋がっていて、階下正面の中央には両開きのドアがあり、階段下の左右の壁にも扉が一枚ずつあった。


「要所だろうゥ──!?」


 アンはわずかに首を傾げ、敵の一人や二人いてもおかしくない場所を無人にさらす意図が理解できなかった。その時だった。まるでエントランスに彼女が入り込むのを見ていた様に階下中央の両開きのドアが開かれ図体のデカい男が出てきた。スーツ姿の似合わないマッチョなその男はArmsを手にしておらず、それでも彼女は銃口を男に向け続けた。男はアンの姿にも驚かず、誰かを呼ぶ素振りも見せずに後ろ手に扉二枚を閉じると、階段下に歩み出てきた。


 五フィート先まで近づくとその男も頭一つ背が高かった。先の砕け散った奴と同じ類かと彼女が思い、フルオートで男の胸を撃ち始めた。ブラックアウトを三発喰らった時点でよろめきもしない男に彼女は確信を抱き、赤いダットを男の眉間に振り上げた。


 六発のミリタリー・ボールを額に撃ち込まれ、いきなり男がわずかに前屈みになると両腕をゴリラの様に前へ構え力を込めた。アンはその様を裸眼の左目で見ながらさらに銃弾を額に撃ち込み続けた。その銃創はすでに手を差し込めそうなほど広がっているのに、まったく血を撒き散らさない事が異様だった。一弾倉撃ち切る前にアンは素早くマガジンキャッチを操作し軽い弾倉を落としながら、タクティカルベストの脇にあるポケットから新しい弾倉を取り出しレシーバー下のマガジンウェルにし込もうとしてその動きを止めてしまった。




 男の背中から急激に二枚の醜いつばさが畳まれたまま出てくると関節を伸ばす様にゆっくりと広がり、さらに顔や手が変形し始めた。


 男はもはや人ではなかった。皮膚は腐りかけた様に黒ずみ、広がり伸びた指すべては節くれだち、指先にはナイフの様な爪が伸び、顔はタスマニアンデビルよりも醜いゴブリンと化して口に収まりきらない上下の歯が彼女の中指もの長さで不揃いに突き出していた。




"EW ! !...I'll introduce yoU to a good dentisT !"


(:ひでェ!! いい歯医者紹介するぜェ!)




 アンは言い放ち一瞬苦笑いするとマガジンを叩くように押しこみ、首にそのPDWのストックを斜め上に向けスリングでぶら下げた。そうして右手と左手に胸のM67をつかんで下がるリングから勢いよく引き抜いた。













★付録解説☆


☆1【EW!】ひでェ、ひえ~、おェ~。アメリカの女の子(一般的な子でもです)が得意なAmerican slangの一つです。言いやすいw


☆2:【PDW】(/Personal Defense Wepon)。直訳すれば個人防御兵器ですが、単に二十年ほど前からある比較的新しいジャンルの小型Submachinegunです。使用弾は拳銃弾(9mm Paraなど)やRifle-bollなのですが、専用弾を使うものもあります。LVC(:目立たない突撃銃)に近いジャンルなのかもしれません。


☆3:【M67】。現行のU.S.Army & Marineなどの軍仕様の破片型手榴弾です。小ぶりの林檎ほどの大きさ(みかんより一回り大きいぐらい)でひらけた場所で破裂すると約5m以内であれば立っていればほぼ死亡するか重傷、伏せてもかなりの怪我をします。奈月は非力で投げるのは得意ではないのでこれを使うと恐らく自爆します:-O。なんでも50footぐらいならピュンピュン破片が飛んでくるそうです。ただ爆発してもこの手合いの小型爆弾は火炎が見えません。時々アクション映画で凄い炎が広がる描写に笑ってしまいます。スカッとした爆轟と共にただただ砂塵が舞い上がるだけです。でもU.S.Armyの訓練場を取材した時は日中でしたので、夜間なら少しは火の手が見えるのかもしれません。ああ、それからバター程度の合成爆薬(RDX系のC-3やC-4などです)もやはり火炎は広がりません。破砕した対象物の破片と地面が近ければ砂塵、それに爆煙が広がるだけです。


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