Part 5-3 IF YOU SEE SUSPICIOUS CHARACTER , SAY SOMETHING.BE SUSPICIOUS OF ANYTHING UNATTENDED
読者の皆様、いつもお寄り下さりありがとうございます。
予定を繰り上げて掲載いたしました。お楽しみ下さいませ。
1666 White Plains Rd, Bronx, NYC 00:20
午前0:20 ニューヨーク市 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地
ピオニエレーネ・ファミリーのドン──ヴィト・カルーソーはガルシアが来たことで云いようのない安心感を感じた。メイドマンの中でも一番冷静で、一番冷酷な男が自分の警固にいるだけで、兵隊十数人分の働きをするのが分かっていた。それにガルシアは頑強そうな男を二人も連れて来たのだ。
だが喜びも束の間だった。
「ヴィト、私はオメルタの誓いを破る事にした。意味は分かりますね」
ヴィトは眉根を寄せた。ガルシアほどもあろうものがその様な事を軽率に口にするとは思えなかった。それにファミリーの約定に唾する男は例えメイドマンの鏡と最高の形容詞をいただいていようとも、他の者たちへの教えとして、凄惨な最後を迎えるのは避け様がないと彼が知ってる筈だとドンは思った。例えそれが他のファミリーへの引き抜きでさえ、絶対に赦されないのだ。
「どこに声を掛けられた、ガルシア?」
「買い被られては困ります。貴男の下で名誉ある男を続ける意味が既にないと」
ここに至りさえして腹心の部下が冷徹に語る事にドンは苛立ちを感じ得なかった。
「やはり、他のファミリーから好条件を出されたのだな。その事でファミリー間の大戦争が始まると理解しているんだな、ガルシア」
「クククッ──」
ガルシアは笑いを咬み殺しきれずに視線を下げた。その様がヴィトには嘲笑以上の屈辱に思えた。
「何が可笑しい? 過去にも他のファミリー同士で同じ事が悲惨な争いに繋がった」
「それはない。なぜなら──」
ドンは成り行きが見え、メイドマンに余計な警戒心を抱かれぬ様に自分が着ているローブの右ポケットへ手を自然に滑り込ませた。
「貴男の組織は今夜、一人の女の来訪で瓦解するからだ」
襲えとも、殺れとも、口にしなかった。ガルシアは顎の一振りでそれを命じた。彼が連れて来た屈強そうな男らがメイドマンの前に進み出ると、ニヤつきもせずにヴィトに迫った。
ドンのとった行動は明瞭で容赦なかった。ローブのポケットからPX4を引き抜き親指でセーフティを跳ね上げた。そうして続けざまに二人の男の左胸を狙い引き金を四回絞った。
空薬莢が蹴られ弾き飛ぶと、男らの左胸に9ミリのRIPが食い込んだ。その拡散する一発ですら十分に体格の大きな男が絶命するものだとドンはヒットマンから教えられていた。
だが、どうだ!
ドンへ歩み寄ろうとするプロレスラーの体格をした男ら二人は苦痛の表情さえ浮かべず三ヤードの近さに迫った。
ヴィトは高価なカーペットが汚れるからなどといった迷いもなく右側の男の眉間目掛け発砲した。銃傷が額に開き男が白目をむき仰け反った。その頭を一瞬で振り下ろし白い目玉がグルリと元に戻って、男が再び歩き始めた。
愕きに顔を強ばらせながら彼は後退り始めた。そうして自分のマホガニーの両袖机に退路をふさがれたヴィト・カルーソーの目の前で、二人の男の背後から蝙蝠の様な醜い翼がゆっくりと伸び始め、ドンは言い知れぬ恐怖に悲鳴すら出せずにいた。
椅子に縛りつけられたエステバンはドンのリビングに入ってきた男らに眼を向け鳥肌だった。
ガルシアと呼ばれてるその男は、アンが襲ってきた時にどうやってかあの凄まじい弾を浴びて死ななかった。それだけではなかった。影に溶け込みそれを自由に操るらしい。あの男は人じゃないのかもしれない。人は影に入り込んだり、影を操ったりしない。撃たれて死なないなんてあり得ない。
大人どうしの話しの意味は分からない事が多いけれど、そのガルシアとドンはもめているのだとエステバンにも分かった。だけどドンには手下がたくさんいる。もしかしたらドンがガルシアを殺してしまうかもしれない。
まばたきの間にガルシアが連れている背の高い男らがドンに迫り、彼が銃でその二人を撃った。だけど四回も撃ったのに男らは倒れずにドンへ近づいた。そしてドンがもう一度男らの一人を撃った。
頭を後ろに振り上げた男の額に黒い穴が開いてるのをエステバンは確かに見た。それなのに──それなのに、その男は顔をふり下ろすとドンへ手がとどきそうなほどに近寄っていた。その時、それが始まった。
その男らのスーツの背が裂けると先に鉤爪の伸びた筋の間に飛膜のつながる、翼と呼ぶにはあまりにも醜い対のものが伸び拡がり耳が伸びて顎が突き出すと肌の色が暗く落ちたそいつらが自由をつかんだ。
ドンの命がもうなくなると、確信を抱きながら眼の離せない少年は男一人が生きたまま喰われ始めるのを生まれて初めて見てしまった。
ルチアーノ・ボンターレは苦虫を噛み潰した様な顔で暗闇の先に広がる住宅街を睨みつけ広がる白い息を疎ましく感じた。
珍しくドンが殺意を漲らせていた。
やって来るのが女一人だというのに三十人以上もの兵隊を用意させた。メイドの女一人にどうとしてそこまで警戒するのか理解し難かったが、ドンが備えよと言うときには必ず揉め事が起きた。それは燻る様なボヤの時もあれば虐殺と呼べる抗争もあった。
噛みつく雌犬なら殴り殺せばいい。
現れただけでそのメイド女の運命がボロ布のように地に墜ちるのだとファミリーの生き様が語っていた。
ルチアーノは冷気よりも冷ややかな眼差しで、伸ばした右腕の時計を見た。もう直ぐ深夜の一時になる。
今夜は嫌な夜だ。たまにはドンの警戒心が外れる事もあるかもしれない。彼がそう期待を抱いたその時、人の歩く足音が聞こえ始めた。ルチアーノが目を凝らすと街路樹の連なる路上の街灯の明かりを掠る様に何者かが進み出た。
こんな夜更けに袋小路になる正門の前の道を歩いて来る者などいるはずがなかった。
彼は即座にイヤフォーンマイクで警備に当たる仲間へと無線連絡を入れ始めた。
「正門前に二人まわせ」
その声に共に門前で不審番をつとめる仲間一人も気づきルチアーノと同じ方へ顔を向けた。
その何者かは次の街灯に今度はもっと明らかに照らし出された。ドレスを着た女だと二人は思った。暗い色の黒か紫の様な裾の広がったスカートを着た──確かに女だ。
二人の男がサブマシンガンの銃握を握り、凝視しているとその何者かは三つ目の街灯の明かりのわずか手前で立ち止まった。明かりの外で何かが揺らめいていた。距離は三十ヤード余り。日中なら見間違う距離ではない。
ルチアーノが仲間に俺が確かめに行くと言い掛けたその時、女が街灯の下に姿を晒した。揺れていたのは風にそよぐブロンドの腰までありそうな長髪だった。着ているのはドレスではなく黒のメイド服。彼がそう判断したのは、女がエプロンをスカートの前に下げていたからだった。
遠目にも胸が大きく身体の引き締まったグラマラスな美人だと思えるその女が、そういう類の者ではないことが一目瞭然だった。長袖のメイド服の上に黒いタクティカル・ベストを着込み、どう見ても手榴弾と思えるものが胸周りに半ダースほどぶら下がっている。そして肩にはたすき掛けした長物のサイドアームスのスリングが掛かり、そのバレルガードと銃身が腰の脇に見えていた。そして両手にはそれぞれハンドガンを握りしめている。
ルチアーノ・ボンターレが最も警戒したのは女の眼つきだった。赤い唇に笑みを浮かべながら、眼はその距離からでもはっきりと分かる氷の様な残虐さが溢れ出しており恐ろしいほどの威圧感に二人は動けないでいた。
こいつはアサシンの類だ!
彼がそう思った刹那、その女殺し屋は一度身体を左に揺すり、右に振り戻すと凄まじい速さで横へ駆け出し、道路際の街路樹の間に走り込んだ。その翻ったスカート下の真っ白なロングペティコートのフリルが一瞬にして残像を牽きながら闇に吸い込まれた。
☆付録解説☆
☆1【IF YOU SEE SUSPICIOUS CHARACTER , SAY SOMETHING.BE SUSPICIOUS OF ANYTHING UNATTENDED】不審人物を見かけた場合、疑って掛かって下さい。原文はIF YOU SEE SOMETHING, SAY SOMETHING.BE SUSPICIOUS OF ANYTHING UNATTEN:不審物を見かけた場合、疑って掛かって下さい。この文には続きがあり、警察への一報をとありました。これはManhattanのGrand-Central-stationの構内で見掛けた看板の一文です。9.11の惨事以来、街ではこの様な看板が増えました。日本でも地下鉄サリンテロから同種の看板を眼にする様になりました。
☆2【PX4】。ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ社の小型セミオート拳銃です。この手の小型タイプは隠密携行性(:Conceald Carry)の特性上、一刻を争う使用が念頭におかれます。従ってマニュアル・セーフティ式の銃が必ずしも勧められる分けではありません。実際、この実銃のセーフティは奈月の非力な指でも素早く軽く解除できます。従ってマフィアのドンが拳銃を使い慣れてはいないなど想定されないので彼の非常用として選択しました。
☆3【RIP】(/G2R RIP)。G2リサーチ社のAmmo(:弾薬)の一種でHollow point bullet(:弾頭先端に貫通してない穴の開いたものです)の一つです。流体に対し展開する性質を持ち人体に射入した直後に捻りながら8つに分裂します。Stoping Powerに優れた弾頭の一つですが遅かれ早かれその過剰な効果からBATFEの規制が掛かると思います。2年前に100 oz.の豚肉を10ヤードで撃ったのですが、通常のFM-JHPに比べスプラッターになってしまい驚きました。
☆4【ペティコート】(/Petticoat)。男性の方はご存じない方が多いと思います。女性のスカートの下に身につける二重のスカートの様なもので、アンダースカートです。 AnimationのFateという作品でSaberという女性キャラクターが甲冑の下の青いロングスカートの裏に着ているアレです。本来は下着的な役割を持つものでしたが、スカートの滑りを良くして(スカートって静電気で脚にまとわりつくんですよ)見た目を良くするために使われていました。ましたというのは、今のスカートはしっかりと裏地があるものが増え、ペティコートの必要があまりなくなったからです。母の若かかりし頃ですら使う人は少なかったらしいです。奈月はジーンズ派ですからたまにスカートだと苛々します。アンがメイド服の下に使うのはスカートが絡まり、素早い足裁きをスポイルするのを避けるためです。




