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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 5
22/29

Part 5-2 the punishment is the same either way

#240 1st Avenue Manhattan,NYC 00:05 / 1666 White Plains Rd, Bronx, NYC / #182 West St.Brooklyn,NYC 00:25


午前0:05 ニューヨーク市内 1番街240番地/市内 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地/午前0:25 市内ブルックリン 西ストリート182番地




 追突した刹那、一瞬で目の前が明るい灰色に覆われ、アンもジェシカもその守護者に激突した。アンはしぼみ始めたエアーバックをダッシュボードの下に引きずり下ろすと運転席で朦朧もうろうとするジェシカを揺すった。


「おいィ! ジェシカぁ! しっかりしろォ!」


「御師匠が──ひっぱたくから──」


「俺じゃねェ! お前が脇見してぶつかったんだァ!」


 ガラスの先にテールゲートが無様に潰れた黒のシボレー・トラックスが止まっており直ぐに運転席から男が下りてきた。風姿ふうしのラフな背丈のある黒人男性だった。怒っているのは一目瞭然だった。その運転していた男はにらみつける様な表情で二人の車に歩いて来ながら、いきなり足を止め困惑げな表情に変わった。アンは用心深くじっとその男を見詰めていた。男が何に不安を抱いたのか、彼女には分かった。フロントガラスにある幾つもの孔が何なのか男は鋭敏に理解したのだ。アンはアサルトライフルを無言で胸に抱きしめ外から見えるようにした。その火器を眼にして男が明らかに動揺し始めたのが彼女には分かった。ぶつけられた車の男は見掛けよりもずっと賢明だった。これ以上のやっかい事になる前にと後退り始めた。


「御師匠──あの男が──どうかしたんですか?」


 ジェシカはアンに尋ねながら止まってしまったエンジンのスターターを回し始めた。


「お前が掘ったんだよォ」


「あんな趣味ない──ですよ」


 くぐもったエンジンのクランキングの連続音が長引く陰で電子サイレンの音が大きくなり始めていた。一向に再始動しない事に気づきアンは即断した。


「お前の車、登録はお前名義かァ?」


 セルモーターを回すのを止めてジェシカが尋ねた。


「なんでですか?」


「足がツクかと訊いてるんだ?」


「エヘヘ、ナンバーは正規ですが、偽造書類で登録してます。私に辿たどり着けません」


「ならいいィ、お前の車、捨てるぞォ」


「えぇ~!? どうやって市警から逃げるんですか?」


「お前が掘ったんだァ、あいつの面倒はお前が見るんだァ」


 アンはそう言うなりテールゲートの潰れたSUVへあごを振りバイパーのドアを開き下りながらハニー・バジャーのバーチカルグリップを握りしめストックを肩付けした。そうして潰された車に乗り込もうとする黒人の男に背後から声を掛けた。


「おいィ! あんたァ! その車、新車価格で買い取らせろォ!」




 肩をビクつかせた男がゆっくりと振り向くと、有無をも言わせぬマズルににらみすえられた。












 ピオニエレーネ・ファミリーのドン──ヴィト・カルーソーの構える邸宅の庭先にある噴水は夜間でも淡い緑の照明に照らされ水飛沫(しぶき)を冷えた空気にまき散らしていた。その水場の傍を通る散策路をドンに命じられ急遽、深夜召集を掛けられた兵隊の一人が、サブマシンガンをスリングで肩に吊し見回りをしていた。


 男が噴水の傍らを通り過ぎ遠巻きに囲うコニファー(:針葉樹の群生)の陰に足音が遠ざかると、照明が生み出す水場の際の影が揺れ動き始めた。


 一点を中心に水面の波紋の様にうねる影の中央が盛り上がり始めるとそこから人の頭頂部が生み出され始め、それはやがて額や耳も露わになり、その地面の影に人の頭が現れると目の位置で一度止まり、対のタールの様な真っ黒な目は辺りを探るように見回した。そうして人気のないことを確かめたとでもいうように、ゆっくりと速さを増しながら押し出される様に首に達し身体押し出された。




 影から出てきたのはガルシアだった。




 彼は影を背にしてネクタイを整えると、背後の影からその彼を追う様にまたもや黒い世界から男が頭を現し、押し出される様に出てきた。その男もガルシアと同じくスーツ姿でガルシアよりも背丈があり、がっしりとした体格をしていた。さらにもう一人、同じ様な体格の男が影から出てくると、揺らめいている影は静かなものに戻った。


 ガルシアが館に向かい歩き出すと、その後ろを二人の男が黙って付き従った。


 ガルシアはドンの館の外に普段は感じないほどの人の気配を察知し眉根を寄せた。思っている事は様々だが、皆が好戦的思考で一致している様に思えた。何を警戒してるにせよ、ヴィト・カルーソーに仕えるのは今夜で終わりにする腹積もりでいた。


 あの仲働きの女は狂った様にピオニエレーネ・ファミリーと知って噛みついてきた。格好は百年前からたまに見掛けたどこの地方にもいる館付の家政婦の様なものだった。だがあの襲ってきた女はまったく別物だとガルシアは感じた。あの女は人を襲う事に嬉々《きき》としていた。あんな人間風情にられる事は微塵みじんもなかったが、事務所を襲いに来た時に尋常でない武器の用意周到さが、強い襲撃の意志を持ってるということの表れだった。ならピオニエレーネ・ファミリーのドンであるヴィト・カルーソーの前にも遅かれ早かれあのメイドの女が姿を見せるのは必然だとガルシアは思った。


 その時に待っているのがこのこの私だと知ったら、あの女はどうするだろうか。落胆と困惑に染まるだろうか。千載一遇と嬉々《きき》として、またあの執念しゅうねんを溢れさせるだろうか。


 いずれにしても相手となるのが私でなくこの二匹だと知り振り回され邪悪さに恐れを知ることになるだろう。ガルシアはほくそ笑みながら館の角を曲がると正面玄関が見えてきた。


 正面玄関の前にも二人の兵隊がいた。氷の様な冷気に二人ともダウンの上着を着込み、肩に下げたサブマシンガンには手を掛けず、両手をポケットに入れ、それでも正門から通じる車道や、周囲の生け垣の陰から誰かが出てこないか警戒していた。直ぐに一人が気づきもう一人に教え、最初に気づいた男がポケットから手を出すと、その手に小型のフラッシュライトが握られていてガルシアと付いてきている二人の男は照らし出された。


 先に歩いて来るのがメイドマン(:マフィアの正式構成員の俗称)のガルシアと分かるとフラッシュライトを消し玄関前の二人はわずかに警戒の色を薄めたが、ガルシアに付いて来るのが顔見知りでなく身長が6フィート半(:約2m)近くもありまるでレスラーの様だと用心して、二人とも銃口こそ向けていないが手袋をした手でシュタイヤーTMPのグリップを握りしめトリガーに指を乗せていた。


「ガルシアさん、貴方も襲撃に備えた護衛に呼び出されたんですか?」


「何を警戒してる、この私をか?」


 ガルシアの皮肉は皆の知るところだったので、玄関の警備についている二人は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「滅相もない。ところで後ろの二人はどなたなんですか? ドンから知らない者を生かして通すなと仰せつけられているんですが──」


 五ヤードの近くまで歩き寄ったガルシアと二人の男が異様な威圧感を放っている事に気づき、玄関の警固をしている二人はわずかに後退り銃口を向けてしまった。


「ガルシアさん、悪いですが、知らない者を通すなとドンが──」


 再度説明しだした警備の男がさらに警戒心を強めたのは、ガルシアの背後にいたレスラーの様な二人がゆっくりとガルシアを回り込み前へ出てきたからだった。その時になって警固の二人はメイドマンと見知らぬ男二人がこの寒さの中でスーツ姿であるにも関わらずまったく寒さを感じてないようにりんとしている事に不自然なものを感じ、自分ですらダウンの上着を着ていてすらこれだけ寒気に震えているのにと幹部と話していた男が思いながら気づいたそれを否定しようと困惑し始めた。


 メイドマンと見知らぬ男らの吐く息がまったく白くならないという事実を受け入れ切らぬ刹那、ガルシアがとんでもないことを口にした。




「喰っていいぞ」












 マンハッタンの東を流れるイースト川を挟み反対地区のブルックリンはニューヨーク市の五つの地区の中でも最も宅地化が進み人口も多かった。だが一月も初旬、凍てつく深夜にイースト川に近い西ストリートの一角は日中にブルーカラーの労働者しか寄り付かない動くものがまったく見受けられない労働地区だった。


 その裏通りをヘッドライトをつけた一台の黒いSUVがゆっくり走って来ると廃材や残土の連なるフェンスの切れ目から左折してわずかに開けた場所に入り込んだ。そうして車は通りに面した煉瓦れんが色の建物を回り込み裏手に回ると大きなシャッターの閉じた古い黒い塗装が禿はげ掛かったトタン張りの大きな倉庫前に出た。


 ライトをつけたまま助手席から人が下りるとシャッターまで歩き際の壁に付いた小さなボックスを鍵で開き中に縦に並んだ三つのボタンの一番上のものを押し込んだ。見てくれの旧さとは裏腹にその大きなシャッターが静かに上がるとSUVは中へと入りエンジンを止めライトを消した。そうして運転席から別な一人が下りた。


 途端に倉庫の中が照明に灯された。


 ジェシカ・ミラーは周りを見回して口笛を吹いた。


「すげぇ! これ全部御師匠の物なんですか?」


「ああァ、これらは一部だがなァ。余所よそにもまだあるゥ」


 ジェシカが見ているのは倉庫内に整理された武器の数々だった。十数台並ぶラックにはワインセラーの様に様々な火器がぎっしりと並んでおり、開いたスペースにはオリーブドラブ色の棺桶を下回るほどのコンテナーが幾つも積み重ねられていた。その箱に近寄りジェシカは表示されている白いミリタリーフォントの文字を読んだ。


「FGMー148って、これなんすか? 箱の色からして軍用ポイですけど」


「それはジャベリンだァ──陸軍の使う携行型対戦車ミサイルぅ」


 聞いた瞬間、ジェシカは手を振り上げ驚いた。


「なっ、何で御師匠──こんな物騒な物を隠し持ってるんすか!?」


 言いながらジェシカはよく見ると様々な種類違いの箱が幾つもある事に気づいた。


「色々あるぞォ。小は各種手榴弾三万七千個に、大物は野戦砲三門に榴弾一千四百発までェ」


 言いながらアンは奥にシートを被り連なる一つが乗用車二段重ねほどの物を指差した。


「御師匠──こんなに──対テロ戦に使えない過剰な──オーバーキルの武器──それでもこいつらスターズの備蓄兵器ですよね!?」


 ジェシカは振り向きアンに念押しする様に尋ねた。


「あん? そんな分けあるかァ。お前ェ、うちの民間特殊部隊に採用されて二年いるが、狙撃銃以上の武器を眼にしたか? 全部、俺様の私物だ。少佐も知らんよォ」


 言いながら彼女はゼトロス2733に歩み寄りステップに足を掛け運転席のドアを開きエンジンキーを捻った。くぐもった音と共にわずかに濃い排気ガスをマフラーから吐き出してエンジンに火が入った。


「御師匠──まさか──航空機のガトリング砲で足らずにここへ──ジャベリンを人に使うつもりじゃあ、ないですよね──!?」


 ジェシカが裏返りかけた声で尋ねるとアンはダッシュボードから取り出した小型のリモコンを操作した。


「そんな面倒な事ォ、するかよォ。撃つ数の分、そのコンテナーを運ばなきゃあならなくなるぞォ」


 アンが言った直後、トラックのアルミコンテナーの中間から上部が電動で左右に割れ開くとそれ(・・)がせり出してきた。その途端に完全に裏返った声でジェシカがとがめた。


「まっ! マズいっすよ、アン! こんなものギャングに使うなんて──!!」




"If you obey all the ruleS you miss all the fuN."


(:ルールすべてに従ってたらァ楽しみを全部逃すぞォ)


"And...If you’re going to do something wron, do it biG becaus the punishment is the same either waY."


(それに、悪いことをするなら大きくするゥ。どっちにしても罰を受けるからなァ)













★付録解説☆


☆1【the punishment is the same either way】。どっちにしても同じ罰よ。これはもう開き直り、完全に犯罪者の理論ですね。


☆2【ジャベリン】(/FGM-148 Javelin)。現行の歩兵携行型対戦車ミサイルの一種で米陸軍・海兵隊だけでなく十数カ国で使用されています。


☆3【ゼトロス2733】(/Zetros)。メルスデス・ベンツ社のトラックの一種です。6輪車の全輪駆動トラックで不整地などへの物資輸送に使えますので一部国では軍用車輌として使用されています。原則として日本の道路では使用できません。時々気になるのですが、同社ブランドを日本人の多くの方がベンツと言います。海外で話しをしている時には殆どの方がメルスデスと呼称します。どちらでも同じなのですが、なぜその差異が生まれるのか考えさせられます。


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