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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 4
20/29

Part 4-5 Wunderbar !

#32 Avenue C East Village,NYC 23:45


午後11:45 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地




 開かれたダッジバイパーの助手席にアンは飛び乗りバケットシートに腰を沈め叩きつけるように赤いドアを閉じた。彼女は乗って初めて自分は馬鹿だと──大バカだと思った。すぐ前を自分が乗ってきたビッグリグがくコンテナーが斜めに車道を塞いでおり、後ろは後ろで距離はあるが四台の警察特殊車輌が狭しと道に広がり並んでいた。いくらジェシカが腕が良くても数十ヤードの距離で加速して片輪走行ができるわけがない。


「ジェスぅ──お前ェ、何しに来たァ!?」


「ええっ! だって貴女あなたがNYPDと撃ち合ってたから」


「分かって来たのかァ? 絡まれてるのは警察だぞォ! 射殺される可能性だってェ──」


「御師匠、水臭い。二人で乗り切りましょう。で、原因は何なんですか?」


 尋ねられアンは口をにごした。


「駆けつけてくれたのは分かるがァ。この車、M855に蜂の巣にされるぞォ」


「御師匠がメイド服をコンバットスーツと言うなら、私はコイツをタクシー──バトルフィールド・マッスル・タクシーと呼びます!」


 ジェシカが宣言したそばからM4A1の銃弾を浴びせられ始めアンは肩に首を縮めた。だがボディに命中するライフル弾が甲高い激突音を響かせ室内にまったく入って来ない事に彼女は片眉をねじ曲げた。


「お前ェ、この車、防弾仕様なのかァ!?」


「えへへっ、奮発しました。スペースのいたる所に1/5インチ厚の圧延鋼鈑を──」


 ジェシカがそう言っているまさにその瞬間だった。運転席側サイドウインドのど真ん中を一発の銃弾が突き抜けフロントウインドの隅に射出口を穿うがった。その孔をにらんだアンは横に座るジェシカへ振り向き噛みついた。


「──防弾じゃねェじゃないかァ!」


「いや~、思いのほかワンオフの防弾ガラスが高くって。強化ガラス取っ払ってラミネート加工したただのガラスに」


「そんなもん、紙と同じじゃねェか!」


「でェ、御師匠! こんなに撃ってくる、原因は?」


「俺も暴れすぎてるから──子供一人を助けたらァ、この有り様だァ。そいつらの理由は俺にも分からん! ただァ──」


「“ただ”何ですか?」


「その子を殺そうと決めていたのがどこかの分署の警部でェ、指図さしずしたのがマフィアの幹部だァ」


「マフィア!? マジっすか? コーザ・ノストラ相手に喧嘩してるんすか? NYPDよりヤバいじゃないすか。その子を御師匠が保護してるんなら連中全力で──」


 彼女が言ってる途中でまたサイドウインドを貫通した銃弾がフロントウインドに新たな孔を穿うがち二人とも首を縮めた。




さらわれたァ」




 アンのそのため息の様な言葉にジェシカは何と言っていいのか困惑したが、アン以上に楽天的な彼女はボソリと呟いた。




「そいつらを押し倒して、奪い返しましょう」




 ガンファイターの弟子の決意にアンは笑い出しそうになった。この阿呆もどうにもならない。マフィアは女、子供も容赦しない。あいつらの手に堕ちたら死んだ方がマシだと本気で思うだろう。そういう暴力が待ち受けているのだ。その真っ只中にお前を連れては行けないとアンは言葉にできない思いを胸に抱いた。だが、どこにあの子供が連れて行かれたにしろ、乗り込むのに手助けがあればより子供を奪回できる率が高くなる。


 それにあごにスラグ弾を撃ち込み損ねたあの刑事とあのマフィアの幹部は生かしておけない。出直しはきかないのだ。特にあの不貞ふてぶてしい幹部は──間違いなく潰さねェといけねェ。




「片道切符だぞォ、ジェスぅ」




 アンが告げるとジェシカは態度で示した。


 右足のつま先を前後させいきなりエンジンをあおり、右手に握るシフトレバーをローに叩き込みタコメーターの針が三千七百を上回った瞬間クラッチをミートしながら左手一つでハンドルを振り回した。車体ががくりと沈み込み後輪のワイドタイヤがバンジーの悲鳴を上げ車体は一気に百度近く向きを変えジェシカはクラッチを切った。正面にNYPDの特殊車輌が四台待ちかまえていた。


 ジェシカ・ミラーはチラッと唇に舌先を覗かせ微笑むと今度は五千回転以上でクラッチを繋いだ。その刹那、赤いダッジ・バイパーはテールをわずかに左右へ振りながら猛然とダッシュした。












 NYPDのESS(:緊急出動分隊)の第二・四・八分隊の合わせて三十三人の隊員達は、現場に臨場し驚いた。その下町の通りが戦場の様な有り様になっていた。アッパー・マンハッタンに居を構える第二分隊のリーダー・フレンケ・ロバーツ警部は並ぶようにトラック・ファイブで通りに到着して直後、強引に赤いスポーツカーが片輪走行をしてまで追い越して行ったのを顔を強ばらせ見ていた。


 彼は下車するなり第一分隊の半数が脚や肩を撃たれ作戦不能状態に陥っている事に驚き、肩を撃たれ手当てを受けるリーダー・マキアートが銃撃を仕掛けてくる女容疑者が一人で、とんでもない手練れだと警告した。


 ロバーツ警部は第一分隊の残り五人を引き受け、第八分隊を徒歩で通りの反対側──南から侵攻させ、即座に二十七人で北側からカービン銃による銃撃を開始した。容疑者と思われる女はビッグリグが通りを塞ぐ傍で、現場に入り込んだ赤いスポーツカーに乗り込んだ。彼はその車の二人が容疑者と判断し、あぶり出すために一方的な銃撃を命じた。だがいくら撃っても二人が車を捨て建物に逃げ込む様相はなく、容疑者二名の死亡が考えられたが、膠着こうちゃくした状況にロバーツ警部は判断を迫られた。彼が銃撃と前進を半数に分かれ交互に行いながら、車輌を取り囲む作戦を無線で指示した直後だった。


 いきなりスポーツカーがエンジンの空ぶかしをした直後、スピンターンし正面を北側へ向けた。彼は慌てて、緊急車輌二台を動かす様命じ、今度は歩道も抜けられないように完全に通りを閉鎖しようとした。


 二台のトラック・ファイブが斜めに車体をスイッチさせ歩道も完全に塞ぎ掛かった刹那、再びエンジンの回転を上げたスポーツカーがタイヤから白煙を上げると四台の特殊車輌に向かい猛然と突入して来た。現場の警察官皆の顔が強張って十数人が同時にカービン銃で一斉射撃をしている最中にその突破を図ろうとする赤いスポーツカーにとんでもない事が起きた。




 バイパーのボンネットがわずかに開きロケット砲の様なもので砲撃を開始した。













☆付録解説☆

☆1【Wunderbar ! 】凄いぞ! これは英語でなくドイツ語です。


☆2【ダッジバイパー】(/Dodge Viper)ダッジ社のバイパーというスポーツカーです。小説内でジェシカが乗りこなすクール・マッスル・カーはGTSというTypeのCoupeでV10の8000ccエンジンを積み両ドアの下に排気管が出てる初期型のカッ飛車です。


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