Part 4-4 I'm a keen judge of character, and very protective
#32 Avenue C East Village,NYC 23:35 / 1666 White Plains Rd, Bronx, NYC
午後11:35 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地/ニューヨーク市 ブロンクス ホワイトプレインズ通り1666番地
警官らに増援が来たのは通りの先に見えている大型トラックで分かった。そのフロントグリルに向け出鼻を挫くためにM993徹甲弾を五十発は送り込んだ。紙を穿つように易々と銃弾が貫通するとキャブの左右ドアが開き、たまらずに飛び出した黒い戦闘服の男らが市警の武装特殊部隊に間違いないと、遠目の効くアンは判断した。
今ので尻尾を巻いたかと彼女はトリガーに指を掛けたまま睨みつけた。
だがどうだ!
直後、カービン銃による一斉射撃を受け始めその数発のライフル弾が頬や髪を掠り、続く弾丸が修正される前に彼女は素早く後ずさると瓦礫となった店に残された側壁に身を隠した。
新たに加わった連中に時間を与えれば脅威として形勢を固め始めるのは分かり切っていた。
店の前にコンテナーの後部を見せ通りを斜めに塞ぐ形で止まっているトレーラーの助手席には数挺のサイドアームズ──長モノを用意してあった。
アンは手に提げているガトリング銃を意識し、面制圧か精密のどちらを取るか一瞬迷い、M134を床の上に投げ出した。そうしてアリスパックから腕を抜きそれも床に投げ捨て威嚇に移っている銃撃のタイミングを計り始めた。
射撃、射撃、射撃、間合い、射撃、射撃、射撃、間合い。
その間合いが微妙に伸び縮みし射撃音に飲み込まれていた。撃って来てるのは三人か、六人。発砲音の重なりと跳弾の量から恐らくは六人だと彼女は踏み、次に間合いが入る直前にライフル弾が建物の壁をえぐった瞬間、トレーラーのコンテナー目掛け巻ききったゼンマイが一気に解放された様に凄まじい速さで駆け出した。両の手で作った手刀を残像が残る様な速さで交互に抜き挿して、ブロンドのロングヘアーを真後ろに靡かせロングスカートが波打ち舞い上がった。慌てて間を詰めてESS隊員の撃った数発の銃弾が髪を掠り、舞い上がったスカートに二つの穴を開いただけで十ヤード(:約9.1m)を駆け抜けコンテナーの後部の陰にアンは辿り着いた。
通りがもっと広ければコンテナーをUターンさせ機関砲を振り向けられるのにと顔を歪ませ彼女はそのまま間もおかずに前方のキャブへ駆け飛びつくように右の助手席側ドアを開き中へ乗り込んだ。そうしてシートの後ろに手を伸ばし黒く長いコンバットバッグを引き出した。
千切る様な乱暴さでジッパーを開き数挺のサイドアームズの中からハニー・バジャー★★を取り出すとレシーバー下の開口部にフルロードのマガジンを叩き込みレシーバー後端上部のチャージングハンドルを人差し指と親指で挟み引き離しチャンバーにロードされるとストックを引き伸ばした。そうして予備のマガジンを次々に取り出しスカートやエプロンのポケットにねじ込み用意が整うと顔を引き上げ運転席のサイドウインド越しに見えるNY市警の特殊車輌傍らの路駐乗用車に隠れるESS隊員達を睨んだ。
直後、アンは真っ赤な唇を吊り上げると助手席のドアを開き蛇の様に音も立てずにアスファルトにパンプスを下ろした。
マンハッタンの東に流れる川を挟みベッドタウンである一地区──ブロンクスにピオニエレーネ・ファミリーのドン──ヴィト・カルーソーの構える邸宅があった。
そのヤンキースタジアム並みの広さのある敷地の門前にブラッカム警部の運転する茶色のフォード・クラウンビクトリアが止まると、門の外に交代で番をしている強面の男がダウンジャンパーのファスナーを下ろしながら運転席を覗き込んだ。ブラッカム警部は男の上着の下にサブマシンガンがあるのを意識して生唾を呑み込んだ。
「何の用だ?」
「NY市警のブラッカムだ。カルーソーさんに会いたい」
「時間を考えろ。もう夜更けだ。ドンは休まれてる。明日、出直して来な」
「エバのガキを連れてきたと伝えてくれれば会ってくれる」
警部がそう言うと門番が後部席の窓から中を覗いた。席に横倒しにされたパイプ椅子に縛り付けられた子供がいる事を確認し、ポケットからセルラーを取り出しながら運転席に目を向けつつ門柱の傍まで下がりどこかへ連絡を入れ始めた。しばらくして理解できないとでも言うように男は頭をわずかに振り運転席の傍に戻ってきた。
「会ってくれるそうだ。最初にきちんと礼を言えよ。ドンが機嫌を損ねると俺らまでトバッチリを受けるからな」
そう警告して男が門柱へ戻ると柱に付けられた金属の箱を開きボタンを操作した。ゆっくりと電動の門が開くと警部は車を敷地へと入れた。ドンの邸宅に来るのは二度目だった。組織の役に立つ男だとガルシアに紹介され連れられて来たことがあった。
高齢のヴィト・カルーソーは口数が少なく、それでいて目線を一時も外さない狡猾さを秘めた様な男だった。その男にガキを渡し、手を退かせてくれと懇願しなければならない。上手く丸め込めなければ、回収物を見つけられない責任を取らせられかねなかった。でないとあの戦車砲を用意してまで襲い掛かるあのサイボーグ女に次は殺されると彼は思った。
屋敷の玄関前に車を止めると、どこかで見ていたのか二人の厳ついスーツ姿の男らが重厚なビクトリア調のドアを開き出てきた。男らもスーツの前ボタンを外しており、脇に一物の獲物を隠しているのが丸わかりの手合いだった。
ブラッカム警部は車から下りると自分の撃たれた足を指差した。
「すまないが、ガキを運んで欲しい。足を撃たれたんだ」
男らは顔を見合わせ、図体の大きな男の方が後部席を開き椅子に縛り付けられた子供を楽々と引きずり出しそのまま抱きかかえた。
「付いて来な」
余計な事を一言も話さず先に屋敷に入った部下らを追い警部は足を引き摺ながら痛みをこらえて中へと入るとドアの片側にももう一人別な男がいて警部の様子を用心深く見ていた。その男はあからさまに肩から短機関銃を吊り下げていた。
奥の暖房の効いた部屋に通されるとドンがナイトガウン姿で待っていた。彼の前には縛られた子供が怯えた眼で大人達を見回していたが、ヴィト・カルーソーはそんな事を気にするでもなく警部が室内に入りドアが閉じられるまで一言も話さなかった。
「聞こう」
「カルーソーさん、夜分にすみません。エバのガキは捕らえました。エバは銃を使ったので口を封じました──」
これ以上何を話せばいいのだと警部は額に汗を浮かべながら懸命に考えた。そうして弁解を口にした。
「お探しのデーターは──その──まだ──」
「この子がそれに関係してるのか?」
黙り続けているドンが不意に口を開きブラッカム警部は肩をビクつかせそうになった。
「そ──そうです──エバの元から逃げ出そうとして、怪しかったので捕らえようとしたら、傭兵の女が一旦ガキを連れ去って、それを我々が取り返したんですが──」
「傭兵の女? どこの誰だ?」
「アン・プリストリという女です。滅法強くて、市警の特殊部隊さえ何人も──撃たれ大怪我をしてたはずなのに、ガキを取り返しにガルシアさんの所に戦車を持ち込んで暴れまわり──」
ブラッカム警部はヤケになっていた。その場しのぎに嘘を織り交ぜ、大袈裟に話しなんとか追求を逃れようとした。
「ガルシアはどうした?」
「女の襲撃に逃げ出しました」
「あいつが逃げ出した? 信じられんな」
警部の話にドンは子供をじっと見つめドアの前に立つ二人の部下へ子供の猿轡を外すように顎の一振りで命じた。そうして口が自由にされた子供へ話し掛けた。
「エステバン、ワシに何度も会ってるよな。エバから何か預かったか?」
老人に問い掛けられ少年は口をつぐんだまま眉根を寄せた。
「ワシが子供相手でも手加減しない事は母親から聞いておるじゃろ。答えないと日が昇るまで痛い思いをしなくちゃならんぞ」
「ここにはないよ! あれを渡したアンが僕を助けに来てくれる! お前らなんかより強くて絶対に負けない! アンはお前らを皆殺しにする!」
その子供の言葉が気に入らなかったのか、ヴィト・カールソーは冷ややかな顔で自分の女だった裏切り者の息子をしばらく見つめた。そうしておもむろに口を開いた。
" I'm a keen judge of character, and very protective. It ' s that woman who dies,Ann."
(:私には人を見抜ける力があり、しかも用心深いんだよ。死ぬのはそのアンという女の方だ)
CQBの基本ABC、そのAは脅威たる障害よりもより早く対象を正確に認識する事。Bは脅威たる障害に認識させずに如何に迅速に移動し有効打撃を与えるための優位なポジションを占めるか。Cは新たな脅威たる障害に認識させる事なく、最も排除可能な障害を如何に正確に取り除くか。
太古からどの様な世界でもあらゆる闘いにおいて基本たるものは、どれほど汚かろうと騎士道精神を蔑ろにするそれに忠実たるものが勝者となり生き残ってきた。
その尤もたる存在。不意を襲い、圧倒的な優位性で生殺与奪の決定権を持つものを人は死神として恐れてきた。
そこにDが存在するならば、より優位に立たんとするアサシンが渇望するそれを本能として身につけているこの女こそ最高の暗殺者たる資格を持つ所以。
アン・プリストリは路駐している車のフロントグリルやトランクに身を隠しながら、ESS隊員らがバリケードにしているエリアに忍び寄り続けていた。近づけば近づくほど危険は二次関数的に跳ね上がる。それでも連中が懐を許してしまった後悔と驚きの瞬間、見せる表情を楽しみにしながら、ネスト(:身を隠す場所) を出る度に赤い唇に舌先を這わせ、獣の気分を思い出していた。
右肩に引きつけて構える小柄なハニー・バジャーの活躍を思い描き、高揚する気分がエクスタシーとなる今宵を邪魔する奴らは例え警官だろうと容赦するつもりはない。
最初の標的となる男か女かも分からぬ障害にクライスラー300一台を挟み接敵したその瞬間アンは頭がクラクラしそうな気分に歌い出しそうになった。
聞かせるは地獄の子守唄。マズルブラスのサウンドに叫び声を添え絶望を高めてやろう。
決して三人が隠れるには広くないトランクの陰に身を潜め、瓦礫と化した店舗の方ばかり気にする黒いコンバットスーツを着込んだ雛鳥が三羽。彼女はエプロンのポケットから収縮棒の先に円形のミラーが付いた索敵具を取り出しミラーの付け根を唇で咥え静かに引き伸ばした。それを自分の股の下に差し下ろし車の下部を通しトランク側を見た。思った通りにそこに六つのコンバットブーツを見つけ、彼女は即座にミラーを身体に押しつけ短くするとエプロンのポケットに仕舞った。
息一つで気配を知られそうなこの瞬間、アンは自分がまず三羽を戦闘不能に出来、残る三羽がどこから応射して来るかを考え、道路逆側の同じ様な場所に路駐したフォード・エクスプローラのテールゲートに二羽、その横の瓦礫と化したカフェバーの並びの古いビルの玄関口の柱陰に一羽と判断した。二撃目は真っ先にSUVのサイドガラス越しにテールゲートの窓にシルエットを晒す愚か者共に決め、六羽目は歩道をカフェバーから遠ざかりながら車の間越しに玄関口で遮蔽物を失う獲物に決めた。
状況は一瞬で変化する。
迷いや躊躇は闇に捨て、アンはPDWを足の間に下げ逆さまの状態にすると、勘を頼りにトリガーを引き絞り銃口を車の後部へ向け歩道側から車道へ二振りした。低いくぐもった音が幾つもアスファルトに跳ねる空薬莢の甲高い音に呑み込まれた。同時に車の後部から男らの罵声や叫び声が上がり、その時にはすでにPDWを跳ね上げ肩付けしながらアンはボンネット上に上半身だけを晒し、一気に車道反対側に路駐するフォード車の後部ドア窓からリアピラーにかけてフルオートで十二発撃ち込んだ。
砕け散るドアと貨物室の横のガラスの先に被弾して上半身を振る二人の男のシルエットを目視して、即座に彼女は自分が遮蔽物にした車の助手席側へ足を繰り出しながら、引きつけたストックを軸にし銃口をSUVのテールゲート後端から死角の移動する範囲に振り向け続け、六人目の特殊部隊隊員が隠れていた柱陰を完全に見切る前からトリガーを引き絞った。彼女は十数発撃った時点で右手と肩と頬で銃を保持し即座にまだ残弾が数発残る弾倉を引き抜き、エプロンから新しいものを取り出し叩きつけるように装填した。
そうして歩く先に左手で保持したハンドガードを振りダットサイト越しの連なる路駐車の先に怯え隠れた制服警官の制帽を幾つか眼に留めその方へ足を速め送り出した。
その刹那、彼女の予想しなかった事が起きた。
交差点を曲がりNYPDの三台の特殊車輌が突き刺さるような青い警告灯を明滅させながら走り込んできた。
賢明にも今倒した内のリーダーが増援を要請していたのだと彼女は状況が不利になる前に元いたカフェバーへと向け駆け出した。
その停車しかかった特殊車輌三台の後方から排気の爆音を響かせ、一台のスポーツカーがテールを振りながら凄まじい勢いで交差点を曲がり、一瞬蛇行してその勢いで急ハンドルを切り片側の二輪を持ち上げ特殊車輌のボディーに上げた車輪の押しつけると一気に前に躍り出て車輪を地面につけた。アンが振り返ったすぐ後方で激しくテールスライドさせた赤いダッジバイパーの助手席側ドアが開き、運転席に座るドライバーが声を張り上げた。
「乗って! 師匠!」
アンが眉根を寄せ暗い車内を見つめるとハンドルを握ったジェシカ・ミラーが笑顔を見せた。
☆付録解説☆
☆1【M993】Part 4-1 付録解説☆3をご覧ください。
☆2【ハニー・バジャー】(/Honey Badger)。AAC(Advanced Armament Corporation)社が開発したARベースのPDW(/Personal Defense Weapon)です。CategoryとしてはSub Machine Gunに近く、CQBにおいての有利なFire-Armsといえます。使用弾薬は7.62mm×35 300 AAC BLKで、重量級(240gr)の亜音速弾とHand-Gard内の1/2以上になるSappressorにより高音質域の発砲音を大幅に抑制して射手の位置を暴露させません。また弾頭重量故に5.56mm NATO弾などに比べMass-Energyが高く、命中後の横転率と重なり高いStoping-Powerをもちます。




