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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 4
18/29

Part 4-3 It's a bad omen

#32 Avenue C East Village,NYC 23:25


午後11:25 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地




 崩れ落ち掛かったその店が元カフェバーとも知らない巡査達五人は泡を食った様に我先に瓦礫に足を取られながら店から飛び出すとパトロールカーの陰に回り込んだ。


 一人の巡査が助手席のドアを開き窓に姿をさらさないようにシートに上半身を滑り込ませ、無線で増援を要請し始めた。その直後だった。彼が仲間から引きり出された瞬間、ルーフと警告灯がバラバラになった。そして次々にパトカーの圧延鋼鈑でプレスされたボディーが蜂の巣になり彼らはすぐ近くに駐車しているビッグリグのコンテナー陰に逃げ込んだ。それを追う様にアスファルトがめくれ飛び散る破片が連なり走った。


「ひっ、一人だったよな──そうだよな!」


「ああ! 地味な格好の女だった。エプロンをしてる使用人みたいな──」


「じゃあ、なんでこんなに数十人でアサルトライフル撃つみたく滅茶苦茶に出来るんだ!?」


「知るか! 脇に何か大きな物を抱えていたのは見たが、とてもアサルトライフルには思えなかった。いったい何を──」


 二人の巡査がコンテナーの陰で首を縮めコンテナーの反対側を打ちつける銃弾に負けないよう怒鳴りあった。


「あれはミニガンだ! 軍が装甲車やヘリから地上掃射様に使うガトリング銃だ! だが──」


 そう教えた巡査は陸軍上がりの男だった。彼は困惑気味に説明した。


「弾薬を入れて330ポンド(:約150kg)以上あるはずだ。女が振り回せるはずがない!」


「ないって!?──好き勝手な方へ撃ちまくってるじゃないか!」


 男達の後ろで聞いていた女性巡査が胸に付けていたスピーカーマイクをつかむと緊急無線を入れはじめた。


「こちら208。コード5。Cアベニュー 32番地前の通りで機関銃による銃撃を受けている。至急増援を! テン・フォー! コード・ファイブ!」




 彼らを三十ヤードの近くの歩道から肩に担ぐテレビカメラで警官達の様子を撮影する男がいた。その横でマイクを握り自分が伸ばした腕の指がカメラフレームに入るのを意識しながら一生懸命喋しゃべる女性がいた。


「こちらケーブル8。皆様、ご覧頂けますか? ここはCアベニュー 32番地傍の通りです。巡査達十人あまりが、一軒の瓦礫化した店舗から猛烈な銃撃を受け、応戦出来ずにいます! あっ! その店舗から誰か出てきました! メイドがかなり大きな銃器を構え撃ちながら通りに姿を──」












 超特大複合企業のNDCが運営する対テロ特殊部隊スターズのガンナーのジェシカ・ミラーはアンから押しつけられたチーフの警護職務を夜十時で他の者へ引き継ぎ、自宅でカウチに座り込みオットマンに足を乗せペプシを飲みながらピザを摘まんでケーブルテレビを見てくつろいでいた。


『──ご覧頂けますでしょうか! 大きな──非常に大きな銃を両手で脇に下げ警官達を銃撃しています!』


 ジェシカは画面を見つめながら呟いた。


「ありゃ、M134じゃねえか。あのメイド──あんな重量級火器よく手持ちで撃てるな。ありゃ、そこいらの男でも無理だぜ」


 そう言い彼女はメイドと自分で言った単語に引っかかりながらもペプシのストローを口に入れ飲み始めた。その時、画面がズームアップしいきなり彼女は口に含んだ飲み物を吹き出した。




「なっ、なにやってるんだぁ! 御師匠おししょう!」




 ジェシカは見間違いじゃないのかとケーブルテレビのローカルニュースの画面を食い入るように見つめた。ブロンドのロングヘアーをした女はガンを飛ばすような座った目つきだったが間違いなくアン・プリストリだった。しかも着ているのがチーフの警護に当たるとき、襲撃者をあざむき油断させるためにと彼女がバトルスーツと言ってはばからないロイヤル仕立てのメイド服なのだ。


 ジェシカは画面を見ながらテーブルに乱暴にカップを置くと立ち上がりガンロッカーへ横歩きし始めた。そうして肩がロッカーに当たると彼女は我に返り、液晶テレビ見つめながらロッカーの扉にわずかに突き出したテンキーに指を滑らせ、見もせずに六桁の暗証番号を打ち込んだ。その時だった。画面の中の警察車輌が一台火炎を膨らませ大音響で爆発した。直後、リポーターが興奮気味に解説しだした。それに耳を貸さずにジェシカは呟いた。


「しっ──師匠! 面白そうな事を一人で──だから警護を抜けたんだ──」


 彼女は中継を見ながら手探りでロッカーから大型の黒いコンバットバッグを引き出すと、ジッパーを開きロッカーの中のアサルトライフルやショットガン、スナイパーライフルを次々につかみ出してバッグに放り込み始めショルダーアームスを一通り入れ終わると、今度は片っ端に弾薬をパッケージのまま投げ入れた。そうしてジーンズの革ベルトにHK45を挿したハイライドタイプのフロントブレイク式ホルスターを装着し、さらにジーンズの内側にコンパクトタイプのハンドガンを入れたAIWBホルスターをした。


「待っててくれよ──絶対に一人で楽しませないからな!」


 そう宣言するなりジェシカはダウンパーカーを羽織り赤いショートヘアーを振ると重すぎるコンバットバッグを両手で強引に肩に担ぐなり玄関を目指した。












 狭い通りで二台のパトロールカーが盛大に燃えていた。辺りの壁は街灯が照らすよりも明るいオレンジ色に染まっていた。


 警官達は凶悪な火器に恐れ撃ち返すどころか、その瓦礫と化したカフェバーの東西五十ヤード(:約45.7m)よりも外に退き、店舗前に臨場したパトロールカー六台を事実上放棄していた。


 アン・プリストリは顔を通りの左右に振り、遠巻きに路駐車の陰に隠れ様子を探る巡査らを一瞥いちべつし思案していた。


 乗ってきたビッグリグはまだ目の前にあった。


「トレーラーで警官らの間を強行突破するのは簡単だァ。問題はその後だァ。数十台のパトロールカーに盛大に追い回され、そのうちバリケードに追い込まれて集中射撃を受ける羽目になるゥ──」


 彼女が背負うアリスパックはかなり軽くなってきていた。ガトリング銃の弾薬消費は激しく、このままでは二、三秒のバースト射撃でも繰り返せば、後、十分間保つか怪しかった。


 その刹那、アンのエプロンのポケットに入れたセルラー(:米での携帯電話の俗語)がド派手な帝国のマーチEDMバージョンを奏で始めた。彼女はミニガンを左手一つで下げ右手でポケットから携帯を取り出すなり発信元の番号も見ずに通話アイコンを親指でタップし耳に近づけた。


『アン、その店から走り去った車をどこまで衛星で追跡したらいいんですか?』


 その問い合わせに彼女は眉根を寄せ噛みついた。


「あんッ? どこまでもだァ! 地の果てまで追っ掛けろォ!」


『むちゃくちゃな──衛星は軌道を描いて飛んでるんですから、都合よく車と同じ方へは付いて行けないんです。追い続けてもあと十三分で監視エリアから出てしまいます。その後の衛星がニューヨーク上空に来るまで八分の空白が生まれ──とにかく現在、その車はイースト川を渡りブロンクスへ──』


 くだくだぬかす情報担当の男に腹立ちを感じ彼女は巻き舌で怒鳴りつけた。


「そこを探り出すのがァお前らの仕事だろゥがァ! お前ェ、名前はァ!? 後で顔ォ、拝みに行ってやるぞォ!」


 巻き舌の早口でまくし立てられたが普段からアンの暴言について同じ職の同僚から様々な事を聞かされているその担当職員は負けていなかった。


『はァ──アン、私は情報二課のマクガイアー・フェネスです。顔を見に来るのならどうぞ(・・・)。それからチーフがイーストビレッジの銃撃事件を調べろと。『あんた(・・・)』のやってる『()』を。報告しないわけには──』


 アンは顔から血が退くのを感じ思わず通話終了のアイコンをタップしてしまった。


 ヤバい。マジでヤバい。少佐が乗り出して来たらとがめられるだけで済まない。その事を考えてしまい彼女は鳩尾みぞおちに何かがうごめく様な怖気おぞけを感じ、都合の悪いものを目に付かない様にとでもいう様にセルラーをエプロンのポケットに押し込んだ。そうして即座に考えを切り替え少年の母親を襲えと命じたあのマフィアの幹部の事を思い出した。


 あれはマジックなんかじゃねェ! あの影に溶け込んだマフィアの幹部は間違いなく──あんな奴を放置したらテロリストを野放しにする様なものだァ。それを口実にすればァ──。


 その時だった。遠巻きにしていた警官らが拡声器で呼び掛けてきた。


「武装を捨て投降しなさい! そうすれば君は死なずに済む!」


「誰がァ、誰をォ、死なせるってェ!?」


 吐き捨てたアンはまた癇癪を起こし、ミニガンを両手でつかみ上げると振り回し、五十ヤードもの遠くの路駐車の陰から逮捕されることをうながしている巡査に向かって発砲し始めた。


 車のボンネットが蜂の巣になりトランクの陰に隠れた彼らの後方に要請を受けて急行してきたESS(:緊急出動分隊)のトラック・ファイブが警告灯を点滅させながら急停車した。助手席に乗っている第一分隊長のマキアート警部は遠目に見える容疑者と思われるメイド服の女が、夕方に隊員達を引っ掻き回した挙げ句に射殺された武装化した女に似ている事に顔を強ばらせた。


"Absolutely not...her must have been shot into a body bag without any doubt...It's a bad omen."

(:そんな──奴は間違いなく射殺されてボディバッグに──不吉な)

 彼がそう呟いた刹那、着弾した弾痕が凄まじい速さで部品を砕きながら緊急車輌のバンパーからフロントグリルを這い上がり始めた。













☆付録解説☆

☆1【It's a bad omen】不吉な


☆2【HK45】H&K社の45口径Semiauto-Handgunです。詳細は専門のサイトにお任せします。


☆3【ハイライドタイプ、フロントブレイク式、AIWB】この場合すべてHandgunを身体に着けて携行する為のHolster用語です。順を追って解説しますと、ハイライドタイプとはGunを入れた状態でGripが腰のベルトよりも高くなる上着に隠れてしまうHolsterです。フロントブレイクとは旧態依然とした上からGunを抜くのではなく前側から引き抜ける速くGunを振り上げる為に適したHolsterです。AIWBとはIWB(/Inside the Waist-Band:スラックスやジーンズの内側、盲腸の前に当たる部分)の腰ベルトに装着するHolsterです。


☆4【帝国のマーチ EDMバージョン】(/The imperial March Ver. EDM)。これを知ったのは昨年クリスマス季にお店を飾り付ける参考動画を探していてYouTubeにUPされた派手な電飾の家の動画を見つけてからです。元々はStar WarsのDarth Vader's Themeなのですが、それを奈月はマーチング・スコアが好きで以前は良く聞いていました。このEDMバージョンの押しの強さと邪悪さにしばらく唖然として繰り返して聞き込んでしまいました。場所はテキサス州サンアントニオのダウンタウンで、午後6時から午後10時の間、お正月まで毎晩ライトアップされていたとのことです。

タイトルは2017 Star Wars Chirstmas Light Show - A Dubstep EDM Cover of Darth Vader's imperial March

リンクはhttps://youtu.be/4thVCspAfK4


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