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魔界王女  作者: 水色奈月
★Chapter 4
17/29

Part 4-2 I don't want to do this anymore

#32 Avenue C East Village,NYC 23:10


午後11:10 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地




 わずか二秒あまり。その短時間にアンの立つ出入口左の壁、横二十フィート(:約6m)、高さ十フィートのひざから上のほとんどが地鳴りと共にバラバラに細切れとなり、その間口にハリケーンが吹き込んだ様な激しさで木屑が舞い上がり、百三十発以上の三センチも直径のあるPGUー14/B撤甲焼夷弾(てっこうしょういだん)がガルシアに襲い掛かった。


 彼の目前で砕け散る劣化ウラニウム弾の吹き広がる火花の傘に覆われ、その数千人のボクサーから同時に打ち出される様な暴打にガルシアは踏ん張り目を閉じ両腕を顔に上げかばいながら、メイドが持ち込んだ銃器とは比べ物にならないほど圧倒され、革靴を滑らせながら後ろの壁近くまで押しやられた。




 メイドとガルシアの間で床に尻餅をついたまま、逃げ場を失っていたブラッカム警部は、唖然としながらも背後に立つガルシアへ叩きつける鋼鉄のゴルフボールの様な銃弾が’決して拳銃や、ライフルからのものでないのは分かっていた。飛び散る火花が製鉄製錬場のコークスから飛び散るよりもはるかに多量で、警部は首の後ろを焼かれながらまるで部屋の中で打ち上げ花火が何発も炸裂している様だと感じ、同時にその鉄板のドラムを聞いたこともないような速いビートで打ち鳴らしている様な爆音に耳がどうにかなってしまいそうだった。


 目前では引き吊った様に真っ赤な唇の両端を持ち上げ、青い虹彩の三白眼でにらみすえ、ブロンドのロングヘアーを背後から押し寄せる爆風にすべて前に波打たせながら、何かのコントローラーを片手で操るサイボーグの様なアン・プリストリが、一体、何を操作しているのだと彼はおびえた。


 この女はまさか──戦車を用意してまでエバのガキを救い出しに来たのかと思いつき、もう確実にガルシアは手足すら残らないミンチにされてしまったと確かめようと頭を回し掛かった。その時、彼はエバのガキに視線を止めてしまった。目を向けた先のその子供は爆裂する火花に魅入られ、瞳を丸くし見つめていた。刹那、いきなり爆轟と爆風がやわらいだ。




 二千ミリ秒の惨虐ざんぎゃくが止み、ガルシアはわずかに腕を下ろし薄目を開いた。


 朦々《もうもう》たるほこりの先に通りを挟んだ建物の壁が見え、一瞬で二枚の壁を消し去った火器が何なのか驚きを隠せなかった。


 その道路先にトレーラーのコンテナーが後部の開口を見せており、その暗い中にまだ余力で回転し続ける合わせて顔の広さの七つの銃口の束が鈍いいぶし銀の輝きを放ち残像を連ねていた。そんなとんでもない火器を用意してまで自分を打ちのめしに来たこの女は一体何者だとガルシアは視線をメイドへ振り戻しにらみつけ侮辱した。




"Sorry to disappoint...bitch."


(:がっかりさせて悪いな──メス犬)




 ガルシアのその視線が絡んだ刹那、メイドが吐き捨てた。




"Dude, you Creep ! But the next one is a direct hit !"


(:ふんッ、気味ィの悪い奴だなァ! だが次は直爆だァ!)




 アンが再びコントローラーのレバーを引ききると、通りのコンテナーの中に据えられた乗用車二台分の長さもある四千ポンド(:約1.8t)のGAUー8ユニットのニ基の油圧モーターに、バイパスされていた高圧オイルが一気に流れ込んだ。寸秒で九フィート(:約3m)もある七本の銃身が三千九百回転にスピンアップすると、その瞬間コンテナーが反作用で大きく右へ傾き、次々と反時計方向へ回転してくる九時の銃口の前からコンテナーの外へ爆轟と共に揺れ動く火焔が膨れ上がった。一秒間に六十五発のショットグラスの口の様な直径の大人の指先から手の平の手首際まであるPGUー14/B機関砲弾が音速の三倍近くで打ち掛けられ障害物もなく一気にガルシアへ襲い掛かった。




 ガルシアは一瞬()け反り身体を横へ振りその襲い掛かるパワーを逃がそうとした。だが男にどれほどの力があろうとも、そのエナジーに抗いきれるものではなかった。


 目に血管の筋が乱れ走り歯を食いしばった彼は壁に押しつけられようとした刹那、その凶暴な攻撃が唐突にまた止んだ。


 ガルシアは壁際でしっかりと姿勢を正し仁王立ちになりスーツの金属粉を払うとメイドへほくそ笑んだ。




"I see , You can't nothing fazes me. You ain’t heard nothin’ yet !"


(:なるほど──貴様ごときに私をひるませられない。お楽しみはこれからだ!)




 その尊大で汚い言い方と態度に、アンは歯軋はぎしりし一瞬でブチ切れ掛かった。


 刹那、ガルシアが自らの足元へ視線を下げると、彼の姿が急激に床へ沈み始めた。アンは怒りながらその変異に顔を強ばらせ、何のマジックだと眼を疑いすべて消え失せるのかと思ったが、うっすらとした影は縮まずに見る間に男の姿が影の足先にほとんど沈み、そのまま影だけが床から背後の壁に張りついていた。


 その影がゆっくりと人の形をくずし引きる様な黒い筋を残しながら移動し始め、アンはその影を目掛け、ジョイステックを操作し再び機関砲弾を浴びせようとし、握りしめ掛かったトリガーの指を慌てて緩めてしまった。


 影が子供に近づいていた。使おうとするのはライフル弾ではない。三十ミリ機関砲弾なのだ。すでに五フィートもなく、アヴェンジャーからの射撃距離から影を外すことはないと分かっていながら、今撃てばコラテラルダメージを少年に与えてしまうのは間違いなかった。


 その影が近づくのを見つめながらおびえるように縛られた椅子ごと下がろうとする少年が足をじたばたさせ始め、いきなり別な影が少年におおい被さった。




 ガルシアが死なずにいた事に驚きながら、我に返り立ち上がったブラッカム警部は、足を引きずりながらその近づきつつある影に気がつかずに少年にたどり着くと、椅子の背もたれのパイプをつかみ、少年のひざの下に手を差し入れ、椅子ごと抱え上げた。そうして一目散に、アンから遠ざかる様にほとんど崩れ落ち掛かっている奥の壁にある穴だらけのドア目掛け足を引きずりながら駆け出した。




 その二人を見ていて気がついた様に床を移動する影のかたまりが揺れ動き向きを変え警部を追い始めた。刹那、フローリング床の板が噴水の様な木(くず)を舞い上げその噴出口が突っ走り追いかけていた影を引き裂いた。


 少年を抱きかかえたまま、ぶつかる様にドアを押し倒した刑事の背後でガルシアの影はそのまま舞い落ちる木(くず)に溶け込むように掻き消えると、アンは再び拾い上げ発砲したガトリング銃を脇に構えたまま、少年を連れ去った刑事を追おうと駆け出すと、引き裂かれていた床を踏んだ瞬間、大きく床板が割れ彼女は状況を飲み込めないまま床下へ落ちた。


 アンの姿が忽然こつぜんと消え去った解体途中の様に崩れ落ちた店と事務所の前の通りに急行してきた警察車両六台が警告灯を点滅させたまま止まり、下りた制服警官ら十人あまりがその惨状を眼にし唖然としながら銃を引き抜くと、左手で肩の上にフラッシュライトを構えながら、瓦礫の間でうめいている男らに灯りと銃口を向けつつ建物の跡に入ってきた。




"ShiT ! Son of bitcH !"


(:クソったれの、バカやろゥがァ!)




 地下室に落ちたアンは悪態をつきながら自分が持ち込んだガトリング銃のあまりもの重さに腹を立て、崩れた床板を押しのけ起き上がると、いきなり頭上の穴から二つのライトで照らしだされた。




"Don't move ! You move , you die !"


(:動くな! 動いたら撃つ!)


"Gun down !".


(:銃を捨てろ)




 警官らから命じられ、アンは眼を寄せ唇を歪ませた。どうして床下に落ちたメイドへ気(づか)わずに真っ先に警戒するんだと手にしている凶器の事も無視したまま思い、しかめっつらで吐き捨てた。




"I don't wanT to do thiS...anymorE."


(:ご免だァもう降りるゥ──こんなことはァ)




 直後、彼女はターンバレルをスピンアップさせながら、火焔を吹き出したガトリング銃を振り上げた。













☆付録解説☆

☆1【 I don't want to do this anymore】こんな事は御免だ


☆2【GAUー8/GAU-8 Avenger】(/アヴェンジャー)。アメリカ空軍の使用する対地攻撃機A-10 Thunderbolt Ⅱに搭載されているガトリング式機関砲です。使用する弾薬30mm x 173にPGU-15/BというUD(:劣化ウラニウム弾)のAPI(:焼夷徹甲弾)があります。音速の3倍近くで撃ち出されるBulletは、厚さ0.8mmのアルミニウムで被覆された約224gのU238と約1.7gのチタニウムとの合金Core(:弾芯)を持ち、銅や鉄、鉛のコアでは出せない貫徹力と焼夷効果があり、装甲車や頑強な掩蔽壕えんぺいごうなどの建造物に対し高い破壊力を持ちます。


☆3【コラテラルダメージ】(/Collateral Damage)。付随的損害です。第3者に被害を及ぼす事を意味します.







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