Part 3-5 I'm not gonna die here
#32 Avenue C East Village,NYC 22:50
午後10:50 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地
客のいないカフェバーの店内で目つきの悪い八人の男らが二つのテーブルに分かれ賭けポーカーに講じていた。それぞれの近くの別のテーブルには食べかけのピザやジャンクフードが食い散らされ乱雑に皿や箱が重ねられていた。彼らはガルシアが嬲り続ける警察の犬らが万が一刃向かうような場合に備え、夕刻から事務所に併設するマフィアが表向きとして経営するこの店に詰めていた。
「ガルシアさん、あいつらをいつまで嬲るつもりだろう? 変な趣味でもあるんじゃないのか?」
一人の入りたての用心棒の殺し屋がそう尋ね、下っ端らをまとめている古いチンピラが手持ちのカードを眺めたまま声を小さくして答えた。
「あの人を詮索しない方が身のためだ。あの人は、例え警察の犬らが相手でも、尻尾を振らなければ容赦しないからな。夜明までに一人か二人、始末しなきゃあならんだろうな」
「願い下げだね。始末屋の肩代わりなんて」
そう殺し屋の男が突っぱねた。
「組織の一員なら、親が黒と言やぁ、赤でも青でもみんな黒なんだよ」
別な末端の頬に傷を持つ男がそう言い切った。それを聞いて用心棒の殺し屋は鼻を鳴らした。
「金で雇われてるが、魂は売らねえぜ」
「そういや、最近簀巻きの死体が多くないですか? いつも毛布やシーツでぐるぐる巻きにされてて、どこの誰かさえ分かりゃしない」
日の浅いストリートギャングの様な出で立ちの若い構成員の男が三人に尋ねた。途端に、まとめ役の男と頬に傷のある男はカードを持つ肘を大きく曲げ目を隠しそれに用心棒の男も気が付き、左右に座る男らへ眼を振って不信げな面持ちを浮かべた。
「兄さん達、何で黙るんですか? 何か知っているんですか──?」
それに隣のテーブルでゲームに高じている男がとんでもない事を答え掛かった。
「もしかしたら、俺ら知らずに吸血鬼の咬み殺した死体を片付けさせられてるのかも──」
音もせずに店の出入り口の扉が開かれ、皆が振り向くと、外の暗がりから黒に見える色合いの膨らみすぎたスカートを履いた女が入ってきた。
「おい! てめぇ! どうやって入ってきた?」
出入り口は施錠されているはずだ、と出入り口に近いテーブルにつく中堅の男が絡んだ。鍵を持っているのは組織のサブリーダー以上の筈だった。入ってきた女は見たこともない顔で、しかも濃紺のメイド服を着て、ご丁寧に頭には飾り物まで着けている。それに女は片手で小脇に床へ数本の束ねられた筒が伸びている黒い機械の塊を下げていた。
男らは知らなかった。女が手にするものが何なのかを──。殺し屋の男すらまさかそんなガラクタが武器だとは思いもしなかった。
メイドは男らを見渡し満足するように片側の口角を持ち上げた。
"Hello everyoNe, Good eveninG !"
(:皆様ァ、こんばんはァ)
そう言って彼女がガラクタから片手を放しスカートの片側を親指と人差し指でつまむと横へ広げ、右足を後ろに引きその爪先を左足の後ろから外へと斜めにし、腰を折り丁寧に挨拶した。
"Listen uP, silly boYs."
(:聞くがいいィ、愚か者らよォ)
その喧嘩腰の口調に数人の男らが椅子を倒し立ち上がり、腰の後ろや脇に吊したホルスターからハンドガンを引き抜こうとした。
"You guyS..."
(:お前らをォ──)
いきなりメイドが頭を下げたままそう告げた。
"...Like a fever I will take doWn."
(:──熱病の様な激しさで倒してあげるゥ)
巻き舌でそう言った直後、そのメイドは腰を折ったまま顔を上げ三白眼で男らを睨みつけ、凍りつくような笑みを浮かべながら右手で握り締めたガラクタの握り手の赤いトリガーを人差し指で絞り込んだ。
彼女の脇で急激に立ち上がる強力なモーターの甲高い音と共にガラクタの束ねられたパイプが回転を始め、大型スピーカから流れる数万匹の蜂の羽音の様な音が立ち込めた。刹那、一瞬で秒五十回転に達すると次々に入れ替わるその最上部のパイプから六フィート(:約182㎝)の長さの火焔が膨れ上がり、先の床から数台の電動チェーンソウ(:電動ノコギリ)を一度に差し込まれた様な木屑とコンクリートの粉塵が天井近くまで舞い上がった。
その様に男らはパニックに陥った。
撃ち返す余裕なんて彼らにはなかった。あるのはただ残された床を逃げ惑う事のみだった。大きな滝の水飛沫の様に舞い上がる粉塵が男らを追いかけ、追いつかれた者らは生きながらにして足からディスポーザーに放り込まれた如く血飛沫を撒き散らしながら断末魔を上げた。その悍ましい最後に残された者らはさらにパニックの度合いを深め、我先に助かろうと仲間の身体をつかみ背後に振り下げた。
メイドは笑い声を上げ、ただひたすらホースで水を浴びせる様に逃げ惑う者らに回転するガトリング銃を振り向け続けていた。
残された三人が揃うように長いカウンターの上部や脇から裏へと逃げ込んだ。その端から横殴りに巨大な電動ノコが突っ切った。一秒も掛からず二十フィート(:約6m)のカウンター下部が粉微塵になり奥に倒壊し、真っ赤な木屑が舞い上がり降り注いだ。
三十秒というわずかな後、店にはそのメイドを除き立っている者がいなかった。倒されたそれぞれが手足のいずれかを失い失血による死亡は時間の問題だったが、不思議な事にまだ皆が生きており、失神してない者は呻き震えながら次は確実に殺れると店の出入口近くに仁王立ちでいる女から目が離せないでいた。
その手応えの無さに不満を見せるようにメイドが唇を歪ませると奥の扉が開き、闘えと送り出された警察の犬らが拳銃を手にしながら店内の惨状を見て唖然となった。元凶は間違いなくただ一人立っているメイド服を着た女だった。
ショーン・ブラッカム警部はその女とまた目が合いそうになり慌てて視線を下げた。彼は粉砕してフローリングの部分をほとんど残さない木くずを見つめた直前、あのサイボーグの様なメイドが視線を自分へと向けるのが分かってしまった。それを確かめる様に彼は恐るおそる目の向きを上げてしまった。
その瞬間、店の出入口に立っている異様な奴と目が合い、警部はまたあの睨む青い虹彩が赤味をおびだし赤紫へと染まり猫の様に縦長に変わるのではないかと凝視してしまい堪えられない怯えを感じながらも目を逸らせなくなった。
彼が尻込みをしだすとつられる様に二人の刑事も奥の部屋へ退き警部が慌ててドアを閉じた。
後ろ手でドアに鍵を掛けながらショーン・ブラッカム警部はESSに殺されボディバッグに入り運び出された息をしていない女をはっきりと見たのだと自分に言い聞かせ続けていた。あのアン・プリストリがどうして、生きていてここに来てるのだと血の気を失った顔で引き摺られる様に考え続けた。
俺は奴に殺れるのか?
こんなとこで死にたくない。
そうして彼は事もあろうか、目の前の化け物にしか思えないガルシアに助けを求める様に声を震わせた。
「ガルシアさん──あんたにも殺せない奴が来てる!」
その刹那、悪徳刑事の背後で掛けたはずの鍵が乾いた音を立て回転し開錠してしまった。
☆付録解説☆
☆1【I'm not gonna die here】ここで死ねるか
☆2【ディスポーザー】(/Food Waste Disposer)。流し台の下に備え付ける生ゴミ粉砕機です。アメリカの標準的家庭には必ずといえるほど普及しています。強力で豚の太い骨の破片でもバリバリに砕いちゃいます。高級マンションの展示会でたまに見かけますが、値段が高く、粉砕した生ゴミを下水に垂れ流すので日本では反対する自治体が多いなどの理由からあまり普及していません。
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