Part 3-4 Time's up ! Let's Rolling !
#32 Avenue C East Village,NYC 22:40
午後10:40 ニューヨーク市 イーストビレッジ Cアベニュー 32番地
照明は点いていたがカーテンを下ろされたカフェバーの店の奥の部屋で、安物の折り畳みパイプ椅子に後ろ手で縛られ腰掛けた四人の刑事らと一人の子供を前にしてアンディ・ガルシアは高級な椅子に深々と腰掛け、デスクに足を乗せ吸い続けていたキューバ葉巻を口から離した。
「貴様らがエバを殺したせいでドンのPCから抜かれたデーターが戻らない」
言いながらガルシアはどうしてくれようかと長い時間トイレも許されずに座らされている男らを睨みつけた。その一人、髪を短く後ろで縛っている褐色の肌をしたガリクソンという刑事が貧乏ゆすりを続けているのも気にいらなかった。
「でも──ガルシアさん、子供はつれてきたし──」
言いだしたショーン・ブラッカム警部は言葉を尻すぼみにした。
マフィアの幹部は鼻を鳴らし冷ややかな声で能なしの警部をじっと見つめた。
「私はドンのデーターを取り返せと言ったんだ。何も持たないガキを攫って来いとは言わなかった」
「それならこのガキを締め上げたら──」
愚鈍な警部に言われアンディ・ガルシアは賄賂漬けの刑事らを相手にしているのだと思い出し一旦静まっていた激情が再び高じだした。こいつらはマフィアの恐ろしさだけでは、誠意のある仕事をしない。目先の金に涎を垂らすだけのただの野良犬だ。ピオニエレーネ・ファミリーが潰れる事になれば、また他の人間どもに君臨するだけだったが、その手間と時間を惜しんだ。無能な人間どもを服従させるのが殊の外面倒だと数千年の経験から身に染みていた。
彼は椅子から立ち上がると、ドアの左右に立つ部下二人を睨み人払いをさせた。その二人が顔を見合わせ出て行くとガルシアはデスクを回り込み、座らされている刑事らの前に立つと短く言い切った。
「一人、差し出せ」
刑事らは呆けた様に前に立つマフィアの幹部を見つめ上げた。
「これから、働きの悪いラバがどうなるか見せる」
刑事らが座ったまま椅子ごと退こうとジタバタし始め、それが叶わぬと分かると三人がガリクソンへ顔を向けた。
ガルシアは笑みを浮かべガリクソンの前に移ると、彼の顔の高さに腰を折り顔を近づけた。その覗き込む対の目が意味も分からず恐ろしく感じガリクソンは顔を背けた。その頭の上を片手のひらで鷲掴みにすると手首を回し怯えだした男をもう一度正面へ向けさせた。
「この痛みは、なかなか経験出来ないぞ」
ガルシアはそう言いながらガリクソンの頭をつかんだ手のひらの指に力を込め始めた。ガリクソンは目を大きく見開くと肩に首を縮め逃れようと足掻いた。
ミシミシと軋む音が広がり他の男らは怯えながら強張った顔で端に座る仲間を見つめていた。
ガルシアはいきなり男の頭の上で指をすぼめた。そうして何かをつかむとゆっくりと腕を上げ始め途端にガリクソンが手足をばたつかせ出した。つかんだ手に握られた黒い物が何なのか唖然としながら他の刑事は目を強ばらせた。
ゆっくり引き出されていたその真っ黒なものをいきなりガルシアは手前に引ききり完全につかみだした。彼が掲げつかむそれはうなだれた人の形をしたものの頭部だった。
途端にガリクソンは震えだし痙攣すると突っ伏した。直後、彼から水蒸気の様な煙りが広がり出るとガリクソンの褐色の肌が見る間に皺を刻み始め、染みや黒点が浮き立ち始めた。三人の刑事たちは起きている事が理解できずに唖然としていたが、異変の起き始めたガリクソンから少しでも離れようと椅子の片側に寄っていた。直後数秒で彼らの目の前で男一人がうなだれた干からびたミイラになった。
「分かるか、お前ら。影を奪われるのは魂を抜かれるより強烈だ。人が経験するあらゆる痛み──もっともたる心臓麻痺よりも遥かに──狂おしく痛い。存在を否定されるからだ」
説明するマフィアの幹部が一体何ものなのかと思ったショーン・ブラッカム警部の横で二人の刑事が失禁した。その匂いが蒸気となり広がるのを縛られた少年は震えながらじっと見ていた。その目前でガルシアはつかんでいる影に口をつけると一気に吸い込んだ。そのずるずるという悍ましい音にガルシア以外の者たちは鳥肌だっていた。
すべてを呑み込んだガルシアがゆっくりと男らに顔を向けたその刹那、三人の生き残った刑事らの後ろ手に縛ったロープが細切れにバラバラになった。
「お前らは私の焼き印を捺された家禽だ。私の気分次第で草を食う生活から、食卓の上で皿に載る。喰われたくなかったら今夜中にデーターを探してこい」
ガルシアに言い渡されても、男らは立ちあがれなかった。
マフィアのアジトのある通りに手近な交差点でスイッチターンしたカスケード社の青いデイキャブが排気煙を吐きながら40フィート(:約12m)もある赤紫のイソテイナーをバックさせて来ると、通りを塞ぎ斜めに停車した。
この時間通りには他の車もめったに通らず塞いだビッグリグへ文句を言う者はいなかった。
エンジンを掛けたままコンテナーに対し首を振ったキャブの左のドアが開き一人のメイドがステップを踏んで車道に降り立った。そうして車体後部へ視線を向けたメイドは、コンテナの延長線が目的のカーテンを下ろし明かりの灯った店に向いている事を確かめ、助手席側のドアに回り込むとドアを開き大型の黒いコンバットバッグと大型アリスパックを引きずり出した。
メイドはまずそれらをアスファルトに下ろすなりジッパーを開き、中から6銃身のM134を引き摺り出した。二百二十ポンド(:約100㎏)以上もあるそれにアリスパックのラップの隙間から垂れ下がった給弾ベルトを接続し、同じ様にアリスパックから垂れ下がった電源ケーブルのカプラーをガトリング銃の保持グリップから垂れ下がったコードの先に接続した。そうしてメイドはアリスパックを背負いガトリング銃の左右にあしらえたグリップを両手で握りしめ、難なく重すぎるそれらを支え仁王立ちに立ち上がり、店へ六条の銃口を向け歩きながら吐き捨てた。
"Time's uP ! Let's RollinG !"
(:時間だァ! かっ飛ばしてやるゥ!)
付録解説☆
☆1:【カスケーディア】(/CASCADIA)。アメリカの代表的BigRig(:アメリカでの大型トラックの俗称)メーカーの一つです。アンが運転してきたのは116"(インチ) BBC Day Cabという少し安いBonnet typeの牽引キャブです。牽いているコンテナーはIsotainersと呼ばれるISO規格の海上輸送用40ft(:約12m。他にある20ftクラスではアンが運んできた物を積めません)コンテナーです。ちなみに日本の鉄道で貨車として載っているコンテナーは長さが11/12ft(5t積み)しかありません。またNYのManhattanには車両規制で同種のコンテナーを牽くBigRigは都心部に入れません。車両の溢れる日中、曲がれない交差点が多いのです。法規を遵守しないアンには夜間という事もあり関係ありません。
☆2【M134】アメリカ陸軍が車両やヘリなどに搭載している6本の銃身が電動回転し射撃するガトリング銃です。毎分数千発の発射速度を持ち、余りものレートの高さに射撃音はブーンといった巨大な蜂の羽ばたく唸りに聞こえます。その多量に射出する弾丸の量から、面(散らばった敵)や軽装甲車、建築物の制圧に使われますが、銃や弾薬、電源の重量を合わせると150㎏を越え大柄なアメリカ人男性でも振り回せません。




